アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第47節 帰還から異変、そして伝説の……

 クロノリアからの下山については非常に楽なもんで、 テレポーテーションというものができる古の時代から設置されている装置があり、ふもとまでワープすることになった。
 そこからの帰り道については彼らがある程度魔法の力を行使できるようになったこともあり、戦いも楽な展開となっていた。 一旦コツをつかめばさほど難しい芸当でもなくなっていたようだ。
 それから数週間かけてアーカネルへと舞い戻った一行は、さっそく結果を報告しにサイスのもとへとやってきた。
「まさかの――スクライト氏が長になっていましたか、いつもわけのわからない人ですが、そうですか――」
 サイスは腕を組んで悩むように答えた。
「とにかく、あとは訓練次第で魔法も使えるということですかね、みなさんも魔法を修得したことですし」
 ライアは訊いた。
「ところで、クリストファーとの話し合いについてはどうなったの?」
 すると――
「それは私からした方がいいかもしれないな――」
 なんと、まさかのクリストファーからやってきて話をし始めた。
「おや、珍しいですね? まさかご自分から――」
「風雲の騎士団の子らたちがわざわざ知りたいというのだ、直接話さんわけにはいかんだろう」
 いきなりのことだったので驚きこそしたものの、アレスだけは背筋をピンと伸ばしていたがほかは特にそういう行動はとらなかった。 クリストファーの印象としてはサイスの印象とそこまで大きく変わらないようだが、 表情の険しさが大きく異なっているところと、ガタイが少々大柄なところが印象的だった。
「なに、大したことではない。 スクライトも言っていただろう? 魔法の制限をかけているのはクロノリアだけだということをな――いや、そうだったのだな。 当時はそれこそ魔物の狂暴化も徐々に懸念されていたことだった、だからこの状況に終止符を打つべく魔法の力を解放しようと考えたのだ。 もちろん、手段としては安易であることは百も承知だ。 だが――ほかに打つ手としてベストと言えるものがない以上はそれに頼るしかないのもまた事実。 だからクロノリアに働きかけることを考えたのだ」
 ロイドは考えて言った。
「だが、言ってもあのクロノリアだぞ? 到底首を縦に振ることは考えにくいのだが――」
「もちろん、それは私も同じ気持ちだ。 だが――何度か話していれば、もしかしたら首を縦に振る日もやってくるかもしれない、 純粋に希望を見出しての行動なのだ。 何度も遠征に向かわせることについては申し訳なく思うが、未来のための行動だと思ってもらえれば私は満足だ。 スクライトが長になっていて話が通りやすくなったようだし、彼にも礼を言っておかねばなるまいな」
 未来のための行動か――説得を続けて、首を縦に振ってくれるその日まで――まあ、筋が通っていると言えばその通りか、一行は考えた。

 ある日のこと、ライアはオーレスト門の入り口付近で悩んでいた。  数か月前にクロノリアから帰還して事の次第を報告したライアたちだったが、 先日は突然クリストファーが現れたこともあって、サイスから姉のことを訊きそびれてしまった――どうしたらいいもんだろうか。 姉をかくまっている意図もありそうだから迂闊に訊いていいものか悩んでいた。 そこへ魔物がやってきて――
「またサンダー・フール……しかも一度に5体も……しつこいわね、もう――」
 ライアは炎をまとった剣を取り出した。
「ライア様!」
 兵士たちは彼女を頼っていた。
「本来なら私、人を待っているだけなの。 今後は自分たちだけで魔物を退けられるようになると――いいわね」
 そう、ライアはそれだけのためにいるのである、 そろそろ番兵だけでこれぐらいの魔物が倒せるようになってくれないことには――
 しかしその時――
「うわっ……こんなところにまで魔物がいるのね――」
 と、サンダー・フールの背後に旅人風の女性が佇んでいた。 その服装はなんだか身体にフィットしないような落ち着いたワンピース姿、 ボトムスはプリーツなスカートだが大胆にもスリットが入っており、 そこから生足がチラりと見えるようなセクシーでなかなか綺麗な女性だった。
「あっ! あなた! 気を付けて! こいつらはただの魔物じゃないのよ!」
 ライアはその女性に注意を促したが、魔物の矛先はそちらの女性に――
「しまった! 危ないから逃げて!」
 ライアはさらに女性に注意したが、女性は――
「へぇ、私とやろうってわけ? 私も甘く見られたものね。」
 と、なんだか得意げに言うと、どこからともなく槍を取り出した。
「悪いけど、こちとらちょっと急ぎなのよ、だからもし死んじゃったりしたら――命は諦めてね♪」
 すると――
「……えっ!?」
 女性は一瞬にして姿を消すと、1体のサンダー・フールに強襲! 瞬時に1体を消し飛ばした!  そしたらサンダー・フールたちは次々と女性めがけて魔法を乱射!
「危ない! その力は危険よ! 逃げて!」
 ライアはそう言うが、女性は真正面からサンダー・フールの魔法を受けていた! ところが――
「ふっふっふっふっふ……その程度のものが……そんなバカの一つ覚えがこの私に効くと思ってか!」
 だが、女性には一切通じておらず、槍で一蹴してしまった!
「魔法っていうのは――こうやって使うのよ!」
 なんと、彼女の全身からものすごい風が発揮された!  すると、サンダー・フールたちは次々とズタズタに切り裂かれていった!
 さらに女性はその服装の印象に反してものすごくアクロバティックな動作を行い、 その場から飛び上がると、残ったサンダー・フールたちの背後へと静かに降り立った。
「いくわよ! スターダスト・トリックっ!」
 そして、槍と魔法による高速連打の応酬でサンダー・フールたちを一網打尽に!
「ったく……、喧嘩を売るんだったらまずは相手を選んでくんないかしら?  もっとも――私としてはただただ迷惑なだけなんだけど。 ……って、そう言えばもう死んでいるんだから言うだけムダよね。」
 総評、見た目に反してなんともえげつない人である、ライアはそう思った。 ん? 見た目に反してえげつない人? ということはまさか――
「あっ、あなたまさか――あなたがネシェラ!?」
 ライアはそう訊くと、彼女はライアのほうを向いた、自分よりも背が高いし、しかも確かに胸もずいぶんと大きい――。
「えっ? ええ、そうだけど……ということはもしかして、あなたがライアお姉様!?」
 そう、ライアが待っていたのは彼女だった。