アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第46節 帰還の兆し

 そしてスクライトは返答した。
「サイスに伝えるといい、クロノリアも全面協力するってね」
 なんだかあっさりとした回答だった、それでいいのだろうか?
「そんな、世界を揺るがすような内容なのに、すぐに決められてしまっていいのですか?」
 アレスは不安そうに聞くとスクライトは得意げに答えた。
「あっはは! そんなまさか! さっき話していただろう?  私は”未来を予測する力”を持っているってね。 つまり、キミらがこうしてやってくることなんて織り込み済みだってこと、 だから検討については既にこの1か月の間に済ませてしまっていて、承認を得られている状況なんだよ。 ついでを言うと、ザラマンデルについては確かにこのクロノリアの制御下にあったことは間違いない。 だけど、どうやら不具合が生じてしまっていてね、すべては現状の世界のパワーバランスの崩れからきている事象だろう。 でも、その不具合のせいであいつの行動のほうにも不具合が生じていたようだ、 そう言ったことを含めてキミたちならやれると確信したまでだ」
 ロイドは舌打ちをしていた。
「ちっ、つまり俺らは厄介者の掃除をさせられていただけか」
 スクライトは悪びれた様子で言った。
「まあまあ、それを言うなよ、一応これでもキミの能力は高く評価しているんだよ。 だからキミを頼ったんだ、昔からの馴染みでもあるしね。 そしたらこんなに頼もしい仲間を連れて来るもんだから、私としても本当に大助かりだ。 それだけは一応礼を言っておくことにするよ」
 なんとも調子のいいやつである。さらにスクライトは続けた。
「ああそうそう、それから魔法の力については、実はこちらだけではどうにもならない。 というのも、こういうことがあってか、制限についてはエターニスに返上しちゃったからね」
 えっ、ということは――おいそれとは使えないってことか!? ロイドは訊いた。
「いやいや、そう言うことではないね。 そもそも、エターニスはどうしてクロノリアにその権限を与えていると思う?」
 そんなこと知るか――全員そう思った、ロイドも含めて。
「簡単な話だよ、自分たちでは制限できるものではないからだね。 もっと言うと、魔法の力の使用の制限はクロノリアが勝手に考えたものなんだ」
 えっ、そうだったのか!? ロイドは訊いた。
「エターニス側ではそもそも魔法の力はフリーな状態なんだ、キミや私が使えるのはそう言った理由だ。 だけどクロノリアでは古の大戦の悲惨さを見て、これは何とかしなければならないと考えたんだ。 そこでエターニスと話をして、アーカネルでは魔法の使用について制限しますと決着したわけだ。 無論、エターニスでは使えないと困るから例外的に受け付けない環境下にある―― いや、クロノリアのその影響を受けることがない特殊な空間と言ってもいいだろう」
 スクライトは続けた。
「だけど、それでも抜け道というのはいくらでもあるもので、どんなに制限したって漏れてしまうものはあるもんだ、 クロノリアのフィールドもまさにその一例だね、ライアが使えるのもそのうちのひとつだ。 そして今の世の中では――魔法を使うような魔物だって現れ始めている、制限をかけるほうにしても限界があるということだよ。 だからこちらで制限をかけても意味がないからエターニスにお任せする形になったってわけだ。 ただし、エターニスはそもそも制限をするという概念がないもんだから、実質的に制限などないと言っていい状態だろう」
 エターニスで制限をしない理由は?
「ああごめんごめん、その言い方は正しくなかったね。 改めて言おう、制限しないんじゃない、できないんだ、したらダメという表現も正しい。 なんといってもこの世界はマナで構成されているからね、自然の力そのものというやつだ。 そうである以上、エーテルとして取り出して魔法として行使する行動については制限しようがないんだ。 何故かというと、それができないと今度は世界を管理する側が困るからね」
 世界を管理する側の都合とか――えらい話になってきたもんだ。
「ちなみにこの世界に魔物がいるのも主にそう言った理由だ。 具体的には非常に面倒くさい説明になるから詳細は省くけど、 だからたとえどんな状況にあってもこの世界には魔物という存在はつきものだと思ってもらってもいい、 こればっかりは申し訳ないけどね――」
 それはまさかの話だった。だけどそこは話さないのかよ。

 翌朝……クロノリアから出立する時が来た。
「こんなんでいいのかよ」
 ロイドは訊くとスクライトが答えた。
「ああ、そこは信用してくれたまえ。 私がウソを言ったことがあるかい?」
「ウソは言わない反面そこを笠に着て足元見て物事をこなしてくるから頭に来るんだ」
 そう言うロイドに対してスクライトは呆れたような態度で言った。
「ふう、やれやれ……その言葉、そっくりキミの妹に伝えてもらえると嬉しいよ。 次期はアーカネルにやってくるんだろ? まったく、私も嫌な時期に巡り合わせになるもんだ」
 なんだよ、来るのかよ、ロイドは呆れていた。
「てか、妹は大学に通っているんだが。まだ卒業時期じゃないから来れるはずがないんだが」
「はぁ? 何を言っているんだい? キミも人が悪いなぁ!  妹はアーカネルに来ることが決まっているんだろう?  しかも執行官見習いとしてキミらと行動することも決まっているじゃないか!」
 なんだって!? ロイドは耳を疑っていた。 アーカネルに来ることが決まっているところまでは知っているが、まさかの執行官――
「どっ、どういうことだよ、それ!?」
「あれ? 知らないのかい? と言ってもこれはあくまで予測なんだけどねー♪」
 するとそれに対してロイドはニヤリとしながら言った。
「まあいいか、それならそれで。 だったらよろしく伝えておくぜ、例の”ウッスライト”がやってくるってな……」
 そう言われてウッスライトは冷や汗をかいていた。
「あはははは……そこはぜひお手柔らかに頼むよ――」
 ん? なんか妙な雲行きだな……。
「ああそうそう、そう言えば忘れていたけど、クレアを連れて行ってくんないかい?  例の顔面防御力の子だよ、連れて行きたいんだけどまだアーカネルとか都会に全然慣れてないからね、 先に一緒に行ってもらえると助かるよ、みんなと同い年だから気も合うと思うしさ」
 あの人、そう言う名前なのか、しかも同い年って――
「7人も同い年がそろい踏みとか同窓会かよって感じだな」
 リアントスは悩んでいた。
「えっ!? そうだったのか!?」
「お前、今までなんだと思っていたんだよ」
 スティアが驚いているとロイドがすかさず指摘した。