「やれやれ、お客様の前でも治らないんだね、それ――」
そう言っていた男が部屋の中へと入ってきた。
「やあ! これはこれはみなさん、よくもまあ遠いところからお越しくださったもんだ。
さあさ、まずはゆっくりと休むといいよ――」
と、なんとも柔和な感じで気さくに言うが、ロイドは違った。
「じゃねえだろ! なんでテメェがここにいるんだよ!
おかしいだろうが! 今度は何をたくらんでやがるんだ!」
すると、男は迷惑そうな面持ちで言った。
「何を言っているんだいキミは、失礼にもほどがあるだろう?
ゆっくり休んでいけばいいよって言っているのに何が不満だというんだ?」
するとロイドはその男の首根っこを捕まえて言った。
「スクライト……テメェ……何が不満だって……? いい質問だ……。
俺はテメェのすべてが気に入らねえんだよ! そろそろアビスに放り込んでやってもいいんだぜ!? なぁ!?」
この男はスクライトというのか、何人かはそう思っていた。
「ほほう……なるほど、つまりキミは私のことが好きではないということか、それはそれは申し訳なかったね――」
「好きではない? 違うな……俺はテメェがキライなんだよ……わかるだろ?
人が寝てる脇で頭の上に爆発魔法を放ってみたり、人のことをパシリさせてみたり、
挙句、俺がひどい目に合うことを知っていてそれをわざわざさせるとか――
テメェのしてきた悪行の数々、忘れたなんてことは言わせねぇぜ――」
えっ!? 何のことだろう――スクライトは少し考えてから言った。
「ああ! あれか! あれはすべてキミに課した試練というやつだよ!
ほら! いずれも今後のためにと役に立ったことばっかりだっただろう!?」
ロイドはスクライトを全力でぶん殴った。
「やっぱりテメェは今日を命日にしてやる! さあ、表に出ろ! このクソ野郎が!」
あっ、クソ野郎! ライアは思い出した。
「まさか――あの時の!」
それにスクライトが反応した。
「ああ、そうさ。でもあの時キミに対面したのは私の父、ラクラート=ティルフレイジアだね。
すべて知っているよ、ラクラートはキミのお姉さんたちにすべてを託したんだ。
具体的には魔法の力を託したんだ。
やり方はもちろん、キミたちが暴走したザラマンデルを斃した時と大体似たような環境でやったハズだ!」
どうしてそんなことをしたんだ、ロイドは再び首根っこをつかんで訊いた。
「そんなの、世界の脅威に対抗するために決まっているだろ?」
世界の脅威だって!? 何人かは驚いているがスクライトは――
「驚くほどのことかなぁ? だって、現に今まさに起きていることじゃないかー?
しかも状況は彼らが魔法を使えるようになった当時よりも悪化している――
2年前だって、キミらはメタルマインでキマイラや魔法を扱う魔物との対峙、
そしてつい最近だってサンダー・フールの群れを蹴散らしたり、
グリフォンを退けたりしていたじゃあないか!? まさにそういうことじゃないかなぁ?」
何でそれを知っているんだ――
それにまさか、ラクラートはそのことを予見していたとでもいうのか!?
しかし、それに対してロイドが語った。
「残念だが、こんなクソ野郎でもたった一つだけ取り柄があってな、
このクソ野郎のクソ具合を引き換えにした唯一の長所と言えるのが”未来を予測する力”なんだ。
つまり、こうして首を絞められたり殴られたりすることも、こいつにとっては既に予めわかっていたことなんだよなぁ?」
なんだって!? そんな能力があるというのか!? するとスクライトは得意げに答えた。
「何言ってるんだい? 言ってもあくまで未来を”予測”する程度の力でしかない……
”予測”ってことは外れることもあるってことだよ、つまり対して役に立たない能力ってわけさ」
スクライトはなんとも腹の立つほど得意げな態度で答えた、首絞められているのに――。
「だからキミが未来を乗り越えるためにいろんなことをしてあげただろう?
先ほど自らが挙げてくれた”試練”もそのための備えさ。
まあ――役に立たなかった分については――あくまで”予測”だからね、そんなもんさ」
するとロイドは地面にスクライトをたたきつけた。
「じゃねえだろ! お前! その口実を盾に何でもかんでもしていいってもんじゃねえんだよ!
わかってんのかそこんとこ!? あぁ!?」
なるほど――それでクソ野郎か、全員納得していた。
「あれは余程の目にあってきたようだ。
しかもあの男の顔つき――まさしく意地悪してやろうって言うオーラがにじみ出ているな――
案外ヤバイ系のヤツかもしれないな……」
リアントスは警戒していた。
「そういえばサイスさんもクソ野郎さんのことは苦手って言ってたわね、つまりはそういうことなのね――」
ライアは呆れていた。
「あっ! ロイドって確か8年後に会おうって言われて――」
シュタルはあの話を思い出した、そしてこの再会がまさに8年後――
「マジかよ……”未来を予測する力”、恐るべしだな――」
スティアは震えていた。
改めて。ロイドはソファに座りつつ、深いため息をついていた。
「ったく、質の悪い冗談かよ、なんでテメェがクロノリアの長になっているんだよ――」
スクライトがここにいるのはそういった理由だった。
ただし、どうして長になったのかについては特に何も言わなかった。
唯一わかっていることは――
「ああ、私がこうしているのはただの”目的”のためだよ。
でも、それについてはキミらには関係がないことだ、遠い未来のためにやっているというだけのことだからね」
こいつの言うことだからそれは間違いないんだろうけど、それにしてもなんとも妙なやつである。
「ところでアレス、要件を伝えてみたら?」
ライアはそう訊いた、そっ、そうだな……というか、この流れでその話は合っているんだろうか、アレスは悩んでいた。
「えっと、実は我々は――クロノリアに協力してもらおうと考えてやってきたんです――」
すると、スクライトは腕を組んで考えていた。
「クリストファーか……」
やっぱり何かあるのだろうか、ロイドは訊くと――
「ん? ああ、いや――実は少し前からとても大きな力が働いているようでね、肝心なところまでは見えなくなっているんだ」
なんだよ、期待させておいて――ロイドは呆れていた。
「忘れたのかい? 私の力はあらゆる事象から得られる事柄に基づいて予測を立てることでしかないんだ。
だから事象についての揺らぎが発生すると正しい予測は得られなくなるんだ。
このご時世だからね、まさしくそういう状態が今後も続くようになるわけだよ、わかるかな?」
ったく、役に立つんだか立たないんだか――ロイドはなおも呆れていた。
「いつもそう言って逃げてるよな? まあいい――その点だけテメェの気持ちは汲んでやろうか、仕方がねえ――」
えっ、どういうことだ? アレスは訊いた。
「言ってしまえば未来が見える能力みたいな所があるからな。そんな能力、誰だって欲しいに決まってるだろ?
そうなると、こいつのこの能力を利用しようという不埒な連中が現れることにもなりかねない。
だからこいつの一族は人から疎まれることが得意な能力と、
男児は156cmしかねえ低身長のチビしか生まれてこねえっていう特徴をデフォルトで身に着けているってわけだ。
そうすることでなるべくこいつから人々が遠ざかっていく、こいつに関わるとろくなことが起こらないと思わせるようになる――
それを成立させることによって、この力を頼ろうということが自然と起こらなくなっていくってことだ」
なっ、なるほど――5人は納得すると、スクライトは調子よく言った。
「おいおいおい、そんなこと堂々と言うもんじゃないよ。
タネを明かしたらその効果がなくなるだろう? そしたらキミはどう責任を取ってくれるんだい?
それにわざわざ身長のことまで言わなくたっていいだろう?」
「黙れ! テメェはそんなことすらも帳消しにするほどの獄潰し野郎だろうが!
そもそも言われることまでわかっているくせにな! それに、背が低いのも自業自得だろうが!」
そう言われてスクライトは何故か照れていた。
「いや、なんで照れるし――」
スティアは呆れながら言うが、ライアは――
「それ、私があんたに何度も言ったセリフ」
と言った、どいつもこいつも。