アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第37節 破天荒な美人の妹様は計算高いお話

 再び兄妹の話。2人は再び町へと繰り出していた。
「なあ、ところでまだ聞いてないんだが、匿うのならどこに?」
 ネシェラは考えながら言った。
「それはやっぱり”プリズム族の里”じゃないかな?」
 えっ、それってどこだ? ロイドは訊いた。
「それは私にもわからない。 けど、エターニスでもそういう場所があるって訊いたことがあるでしょ?  お姉様はプリズム族なんだから、匿う場所としてはうってつけなんじゃない?」
 確かに――ロイドは考えた。
「クロノリアやエターニスに匹敵するレベルの閉鎖的な種族っていう話だからな、 とにかく隠れ住んでいるぐらいだからそれもそうか。 場所はわからないんだな? でも――」
 ロイドは何か言おうとするとネシェラが先に言った。
「サイス兄様なら知っている――ってことでしょ?  多分だけど、サイス兄様ってプリズム族なんじゃないかな?」
 えっ、そうなのか? ロイドは訊き返した。
「プリズム族って確か、話によると女性中心の種族じゃなかったか?」
 ネシェラは頷いた。
「美女が多い種族だもんね! まさにアルお姉様って感じだよね!  でも、女性中心というだけであって、僅かに男の人もいるんじゃない?」
 まあ――女性中心というだけの話ならそれもそうか、ロイドは考え直した。
「サイス兄様って私たちとはちょっと変わっているところがあるじゃない?  しかもサイス兄様のお婆様ってずいぶんと歳をとっているハズなのに、すっごく若々しいんだよ!  絶対にプリズム族だよね!」
 俺としてはお前のほうがよっぽど変わっていると思うが―― ロイドはそれを言おうと何度何度頭をよぎったことか……お察しします。

 ライアは話を聞いていた。
「美人族? 女性中心って、女ばかり?」
 ロイドは頷いた。
「俺は話にしか聞いたことがないが、そういう種族だそうだ。 言ってもサイスとは親戚だからな、少なくとも俺らも一応その血を継いでいるハズで、 ネシェラもその特性を継いでいるような気がする、見た目ステータスも話した通りだしな」
 そうなのか、ライアは考えていた。
「でも、女ばかりで種族繁栄はどうするつもりなのかしら?」
 ロイドは答えた。
「話によると、自らの美貌で多種族の男を獲得するということらしい。 特に年をとっても若い姿を維持する種族みたいだからな、 つまり、異性を獲得する能力に特化している種族ということになりそうだな」
 そう言われるとライアにも心当たりがあった。
「言われてみれば、お母様がまるっきりそんな感じだったわね、 私のお母様とよそのお母様、同じぐらいの年齢のハズなのになんか違うなって思ったことがあったわね。 つまり、それというのは――」
 ロイドは言った。
「まさにそういうことなんじゃないのか?  当然そういう特性故に生まれてくる子供はハーフになるわけだが…… だからこそ、プリズム族の血は主に女児には色濃く継承されるんだそうだ」
 なるほど……ライアは納得した。
「跡取りなら普通は男の子って聞いたことがあったけど、うちはそういう話が一切なかったみたい。 それはつまり、そういうことなのね――」
「らしいな、プリズム女と一緒になるということは女の子ばかりが生まれることになるわけだから、 はなっから男が生まれることを諦めているパターンだろうな。 むしろ婿養子を獲得しようというところでプリズム女の計算高さが見えてくるパターンとも言えるか」
 計算高さ――ライアは再びにっこりとしていた。
「そっか! ネシェラもまさにそういう血を持っているからこそってわけね!  お兄ちゃんも大変ね、美人の妹がいるからね!」
 そう言われてロイドは悩んだ。
「本当に大変だ――何を心配していいのかわからないからな」
 破天荒な妹を持って――お察しします。

 ちなみに、これ以降はライアに話せなかった内容である。
「本当に美人だと思う?」
 今度はいきなり何の話だ、ロイドは訊き返した。
「誰の話だ? プリズム族? 雪女か? まあ、そりゃあそうなんじゃないか? お前だってそう思うだろ?」
 しかし、ネシェラは楽しそうに首を振ってにっこりとしたまま言った。
「お姉様の話じゃあないよ、お姉様の妹の話だよ♪」
 妹って、まさか――
「ライアのことか?」
 ネシェラは無茶苦茶嬉しそうに言った。
「ったり前でしょ、他に誰のことだと思ってんのよ♪」
 えっ、それは――ロイドはどう答えようもんだか悩んでいた。
「しかもライアお姉様ったら、ロイドお兄様とよくお話したがるなんて――案外気があったりするんじゃないの!?  ったく、お兄様ったら♪ 隅に置けないわねぇー♪」
 やめてくれ――ロイドは頭を抱えていた。
「うん♪ ライア姉様なら私の素敵な彼氏を持っていかれてもいいかな♪  そしたらアルお姉様もライアお姉様も私の義理のお姉様になるわけだしね♪」
 やめてくれ――ロイドはさらに悩んでいた。
「俺のことはどうだっていい!  そういうネシェラのほうこそどうなんだ!?」
 ロイドは少々ムキになって言うとネシェラはなおも楽しそうに言った。
「べっつにぃー? 私、そういうのには一切興味ないもーん♪  それに将来の相手ができるんだったら、年功序列的にお兄様が先だって思っているもーん♪  だからそれまでは――」
 と言いつつ、ネシェラはロイドにぴったりとくっつくと、
「それまでは、ロイドお兄様が私の彼氏ってことで♪」
 ネシェラは甘えたようにそう言い、ロイドは完全に呆れていた。
「ライア姉様と付き合うことになったら真っ先に教えてね♪」
 ロイドは再び悩んでいた。