アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第36節 美人の頼れるお姉様は女勇者タイプな話

 ライアは悩んでいた。
「……えと、あの可愛らしい女の子は何処に行ったのかしら?」
 ロイドは頷いた。
「いい質問だ、できることなら俺も知りたい。 でも、ネシェラって妙に男には人気があってな――見た目”だけ”は。 リアントスやサイスも言ってたろ、美人だってな。 それだけじゃない、スタイルもいいと評判らしく、 それこそ大きな胸や尻を触れられそうになったり後ろから抱きつかれそうになったりと、 痴漢未遂にあったことはザラだな」
 えっ……まさかのナイスバディという事実。 でもそんなポテンシャルな女に限っていろいろヤバイ……世の中どうなっているんだ。 それに痴漢未遂ということは……実際にされたことはないってこと? ライアは恐る恐る訊くと――
「俺の知る限りでは一度もなくて本当に未遂だけで終わっているな。 いずれの痴漢も当人の戦闘能力によって”いっそ殺してくれ”レベルの拷問を受け、 最後は自らが存在していることを後悔しつつ泣きながら逃げていくのが様式美だ」
 マジで怖い……ライアは冷や汗を垂らしていた。 しかも見た目ステータスだけだったら間違いなく男人気が高いにも拘わらず……なのか――。 そう、つまり彼女こそが”残念な美女”というカテゴリの存在なのである。

 兄妹の話の続き。レストランにて、ロイドは話をすると――
「やっぱり、クロノリアに行くって話になったのね――。”根クリスト”先輩だっけ?」
「そう、あの”根クリスト”先輩が考えたことだ」
 ”根クリスト”こと根暗クリストファー……話を聞いているライアは唖然としていた。
「ふーん……そう。それで? サイス兄様はどう反応しているの?」
 ネシェラは考えながらそう訊いた、どうって? それは――ロイドは考えていた。
「いや、まあ――特にはなにも……。 当然、クロノリアが良アクションを返してくるとは考えてもいないことは俺らと同じだけどな」
「えっ、それだけ?」
 それだけってどういうことだ? ロイドは訊き返した。
「だって、そんな、お父様やお姉様が失踪したのってクロノリアの一件があったからじゃない?  あれから風雲の騎士団のメンバーはほとんど一緒にいる機会がなかったでしょ? 違う?」
 そう言われてみればそうだった気がする――ロイドは考えた。
「確かにそうだな、雪女はうちに来て親父はアーカネルに行ったっきりだったな。 あとは知らないが、サイスに聞いた限りだと全員バラバラに活動していたみたいだな」
「そうよ! だからクロノリアに行くという話自体がサイス兄様にとって懸念する話そのものなのよ!  それなのに、今度はライア姉様までクロノリアに向かわせるなんて―― サイス兄様だったら絶対にライア姉様にはそんなことさせるわけないでしょ――」
 どういうことだ? 何故ライアなんだ? ロイドは訊くと、ネシェラは周りを気にしつつ小さな声で話をした。
「ここだけの話だからね! いーい!?  サイスお兄様とアルお姉様はね、付き合っているのよ!」
 なんだってー!? ロイドは耳を疑っていた。
「そっ、それは確かなのか!?」
「確かも何も、だって私、2人が親しそうに抱き合ってる姿とか見ているしね。 だから本当はクロノリア行きなんてサイス兄様なら絶対にさせたくないって考えているハズよ。 なのに誰かにさせなきゃいけない――ロイド兄様だったら信頼しているから騎士団の他の実力者を差し置いて指名したのは間違いないね。 でも――サイス兄様がライア姉様まで指名するなんてこと――」
 と、その時、ネシェラは考えた。
「いや――だとしたら……」
 ネシェラはじーっと考えていた。

 ネシェラが店を出たいというのでそのまま2人で家に戻ると、ネシェラは家のカギをしっかりとかけて話をした。
「なんか、思いついたのか?」
 ネシェラは改まって言った。
「いーいお兄様、 サイスお兄様とアルお姉様は付き合っていて、それこそ随分と親密な仲、 そしてライアお姉様はアルお姉様の妹で、アルお姉様の失踪の原因ともなったクロノリア遠征―― サイスお兄様だったらライアお姉様に姉のアルお姉様の後を追わせるようなことは絶対にしないハズ、ここまではいい?」
 ロイドは頷いた。
「ああ。それで? つまり、今回のカギはまさにサイスが握ってんじゃないかということか?」
 というと、ネシェラはにっこりとしながら言った。
「握っているどころか、サイス兄様ったらアルお姉様のことだけは殺されまいとしてどこかに隠しているんじゃないかって思ってさ!」
 何だって!? 妹の突拍子のない話にロイドは驚いていた。
「雪女だけ生きているってことか!?」
 ネシェラは首を振った。
「どうかな。 そもそも風雲の騎士団ってさ、遺体が確認できているのはエルヴァランとレギナスだけよね?」
 ロイドは頷いた。
「ああ、でも親父だったら生きているぐらいなら俺らに会いに来ていてもおかしくはない気もするからな、雪女もだが……。 だが、雪女はお前と一緒にいるうちにお前のその特殊性を知ったからな―― そう考えればネシェラならわざわざ会いに行かなくたって大丈夫と踏んでいる可能性はありそうだな――」
「そうだよ! お姉様だって本当は私に会いたい状態なんじゃないかな?  私も会いたいけど――でも、アルお姉様の命のほうが大事だから今は我慢かな。」
 この妹は――感情論だけで動かないところもまた特殊な思考回路の人である。 そもそもこの計算高いところとか、いろいろとヤバイ女である。
「サイスが匿っているということか……。 でも、そんな匿う場所として適当なところがあるのだろうか?」
 すると――
「もちろん! 隠すのにうってつけの場所があるじゃん!」

 ライアは唖然としていた。
「いろいろと追いつかないわね、突っ込みどころはできれば少なくしてほしいところね――」
 ライアは改まっていた。
「まさか、サイスさんとお姉様がそんな関係なんて――」
 ロイドは考えていた。
「今思うと確かに、雪女がうちにいた当時、サイスも何度かうちに来ていたっけ。 それがまさか雪女に会いに来るためだったとはな――」
 心当たりがあったロイド。
「というか、ネシェラってやたら頭の回転が早くない?」
 ライアの問いにロイドは頷いた。
「ああ、無茶苦茶早い。サイスも言ってたろ? 頭がいいんだ。 戦闘能力も高くて見た目ステータスも抜群、そして頭もよくて、 まさに”性格以外は”すべて最強ステータスと言っても過言ではない気がするな、あくまで大げさに言うとだが――」
 ライアは首を振った。
「いえ、それは控えめに言ってだと思うわね。 ただ――性格が伴っていないのね――」
「まあ、そういうことだな。 ついでを言うと、戦闘能力も高くて見た目ステータスも抜群で頭が良い―― だからこそ、むしろ逆に可愛げがないとも言える……男勝りだから男とは真っ向勝負を仕掛けようという感じだ」
 それに対してライアは嬉しそうに言った。
「あら! ネシェラったらたくましいのね! 確かに、女の子にモテそうな女性ってわけね!」
「ああ、あいつはまず間違いなく勇者タイプだな」