ライアは寝袋にくるまったままロイドの隣へとやってきた。
周囲は完全に眠り込んでいるようだ。
「また”雪女”の話か? と言ってももうネタはないんだが――
3年ぐらいしか一緒にいなかったからな――」
「いえ、雪女お姉様の話はとりあえず聞いたつもりよ。
ただ――お姉様は生きているのかしら……」
それに対してロイドは周りを見渡しながら言った。
「ここなら落ち着いて話せそうだ――」
えっ!? どういうこと!? ライアは訊き返した。
「言ったろう、アーカネルには何かしらの力が働いているってな、
だから迂闊に話すことはできねえんだが――少なくとも、あんたの姉貴だけは生きているぞ」
なんですって!? ライアは再び訊き返した。
「いや、俺は具体的なところは知らない。
だが――ネシェラが言うには、どうやら雪女は生きているらしい」
妹がその事実を知っているというの? ライアはさらに訊いた。
「さあな、そこまでは知らん。
だが――確かに、あいつの話を聞いているとそいつは間違いなさそうなんだよな」
そうなの!? ライアは訊いた。
「その根拠は!?」
ロイドはズバリ答えた。
「根拠と言えるほどのものかは難しいところだが――しかし今回のクロノリアの件といい、
俺ら風雲の騎士団のゆかりの者が集まった時といい、言われてみれば確かに、
サイスがなんとも冷静なところが気になってくるよな――」
サイス? サイスさんがカギを握っているとでも言うの? ライアは訊くとロイドは頷いた。
「半年前にアルティニアに戻った時の話はしたっけ? そん時に妹から聞かされた話だ――」
「やっ♪ お兄様♪」
アルティニアの大学――ネシェラはロイドに出会うと嬉しそうかつ可愛げにそう言った。
「よう。言うまでもないが、元気してるな。彼氏でもできたか?」
ネシェラは嬉しそうに答えた。
「もちろん! 私の彼氏はお兄様だもーん♪」
ダメだこりゃ……ロイドは悩んでいた。
言っても、できたらできたでそれはそれで兄としても少々複雑なわけなのだが、
その場合は妹のことを思うべきか、相手の命の危険を心配すべきか再び悩むところになりそうだけど。
「あっ、そうそう! 私ね、来年にアーカネルに行くことになったのよ!」
えっ? ロイドは訊き返した。
「アーカネルに? 大学はどうするんだ?」
するとネシェラがにっこりとしながら言った。
「うん、実はねぇ、アーカネルから大学を通じて招待されちゃったんだ♪
やっぱり、サイスお兄様が私のことを必要としているみたいね♪」
サイスか……ロイドは考えた。
「エターニスの血を必要としているというところだな、確かにこのご時世じゃあ必要かもな。
ネシェラがくれば安泰間違いなしってわけだ」
「ええっー!? こーんなか弱い女の子にそんな安泰間違いなしなんて所業ができるわけないでしょー!?」
「ああ、そうだな、か弱い女の子かどうかは議論の余地があるけどな」
ですね。
2人はそのまま町へと繰り出していた。
「なーんか、こうやってお兄様と一緒におでかけするのって久しぶり♪」
「そうだな。ところでまたハンターのクラスが上がったのか?」
「お兄様だって上がってるじゃん♪ 私なんてまだまだゴールド・ハンター6段だよ♪」
2年前の俺より上じゃん……ロイドは頭を抱えていた。すると、ネシェラは勢い良く振りかぶり――
「ねえねえお兄さん、なにやってんのかなぁ!?」
と、背後にいた男の腕をがっしりとつかんでそう訊いた。
「いっ! 痛でででで! 痛でぇ! 痛でぇ!」
「痛でぇ? そうかそうか、痛でぇのね、だったら……」
ネシェラはなんと、その男の腕を勢い良く引っ張り上げるとそのままハンマーロックを仕掛け、
さらに男の背中の上を足蹴にしながら言った。
「後ろから人の胸触ろうとしなければいいだけの話なんじゃないのかなぁ!?」
と、少々ドスの利いたような声で思いっきり威嚇したような感じで言った――怖いよこの娘……。
「ごっ……ごめんなさい! ごめんなさい! もうしませんから許してください! お願いします!」
男は泣き叫びながら訴えていた。
「本当にもうしないって約束できるのかなぁ? なぁ!?
このままあんたの腕をへし折ったっていいのよ!? あぁん!?」
ロイドの妹、マジ怖い説。ロイドはただひたすら頭を抱えていた。
「ったく……次やったらバラバラにしてアビスに叩き落すからな――」
いや! 怖いって! 男は一目散に逃げだした……。
「ほう……これはか弱い女の子の所業と言えるのか?
明日は多分ゴールド・ハンター7段になっているかもな――」
ロイドはただただ頭を抱えて悩んでいるだけだった。
ついでにフラグが立ったようだ。
「わぁん♪ 怖ぁい♪ おにーさまー♪ 私のこと守ってちょうだいな♥」
ネシェラは甘えてきたが、
「俺はお前のほうが怖いよ」
ロイドは正論を言った。ロイドは圧倒的に正しい。