アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第33節 山道での激戦

 ロイドを先頭に、次々とその山道へと足を踏み入れて行った。 しかし、しばらくすると一部の者はなんとも息苦しい状態に見舞われていた。
「これは――」
 ライアはその違和感に気が付いた。するとアレスとスティアが――
「なっ、なんだ!? 息苦しい……」
「ぐはぁっ! なんだ!? どうなっているんだ!?」
 ロイドが言った。
「魔力の層だな。 俺たちが今通ろうとしているのは本来なら”フィールド”の外壁を成している部分だ。 これでも今は魔力が薄くなっている状態――しばらくは我慢して通ってくれ」
 彼はそう言いつつ馬車馬の頭をなでていた。
 そして、その魔力の層の部分を通過したシュタルは――
「はあ……苦しかった――」
 と深呼吸しつつ、さらに後ろのアレスとスティアを励ましていた。
「ほら! もう少しだよ! 頑張れ!」
 一方のリアントスにはライアが訊いた。
「人間族には辛いみたいだけど、あなた大丈夫なの?」
「俺か、確かに息苦しいが、言うほど辛くはない気がするな。 ロイドやネシェラの魔法の影響を何度か受けていたせいだろうか」
 そう言われてロイドは考えていた。
「そういえばそうだったな、だからある程度は免疫があるってことになるのだろうか……」
 かといってダーク・エルフのシュタルも御覧の通りだったりと、個人差もあるというところか。

 山道は初めのうちは少々入り組んではいたものの、次第に広くて緩やかな傾斜の道程へと様相を変えていった。
「案外登りやすい山だな、そんなに念を入れて準備するほどでもなかった気もしなくもないけど――」
 と、アレスは言うと、ロイドは言った。
「そうだな、登山用のものについてはそこまで準備する必要はないな。 ただ……道程は案外長いのに魔物は恐らく厄介だ――」
 恐らく? そういえばそんなことを言っていたようだが――リアントスは訊くとロイドは続けた。
「言ってしまえば魔法の空間内に住んでいる魔物だからな、その強さは推して知るべしだ。 力で満たされた空間に住まう生物は得てして強い魔物も多い、だから――」
 と、その時、魔物たちがぞろぞろと現れた。
「心してかかれってわけだね――」
 と、シュタルは武器を構えると、他の者も次々と武器を構えていた。

 魔物は狼タイプの魔物だった。 しかしなんとも骨の折れる戦いで、数も多くギリギリの様相だった。
「これは――堪えるな……大丈夫か、スティア……」
 リアントスは岩壁に手をついていたが、スティアはやっぱり伸びていた。
「んだよ、寝てんのかよ――流石だな、いつも安定してんなお前……」
「でも、あの戦闘能力のおかげで敵を葬れたのも事実だ、丁重に葬ってやるか――」
 ロイドはそういいつつ、スティアの首根っこをつかむと、そのまま馬車の荷台にたたきつけるかのように放り込んだ。
「そのうち元気に……なる?」
 アレスはそう訊くとロイドは頷いた。
「学習したな、流石は我らがリーダーだ」
 アレスは言われて冷や汗をかいていた。
「そっちはどうだ?」
 ロイドは訊くとライアは答えた。
「こっちはなんとか。それより、シュタルが大変よ。 ねえ、回復魔法ってないの?」
 言われてロイドは悩んでいた。
「うーん……なくはないが、それこそプリズム族の得意技だからな……。 例外は俺の妹ぐらいか――」
 えっ、そうなの? ライアは驚いていた。
「ネシェラが何故使えるのかはさっぱりわからんが、エルフェイドでも使える者はほんの一握りだ。 ただ、プリズム族はそもそも”癒しの精霊”とも言われる通り、使えるのが一種のアイデンティティみたいなところがある。 まあそういうわけで、それそのものがあまり使い手がいないような魔法だからな、お目にかかる機会もほとんどないな」
 すると、その場で座り込んでいたシュタルが左手を押さえてゆっくりと立ち上がった。
「大丈夫だよ、とりあえず……。私、馬車の中にいるね――」
 痛めたのか、ロイドはそう訊くとシュタルは答えた。
「うん、ごめん……ちょっと張り切り過ぎちゃったかな……」
 するとリアントスが言った。
「おら、あんたもふらついてたぞ、最後。 あんたも馬車に乗って、彼女と荷台で死んでるやつを見ててくれよな」
 そう言われてアレスは照れていた。
「ごっ、ごめん……」
 アレスは馬車に乗り込むと、リアントスはロイドに促した。
「さてと、さっさと進もうぜ」
 ロイドは頷いた。
「ああ、こんなところでいつまでもぼっとしてたら格好の餌食だ。 早いところここから移動しちまおう」