アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第32節 白い町と暗めの様相

 とにかくいろいろとあったが、半日程度で対岸のエルナシアへとたどり着いた。 結局船の上ではいろいろとあってゆっくりと旅を楽しんでいる暇などなかった。 彼らはエルナシアへと上陸すると、ランブルたちと別れた。
 だが、そのエルナシアでの光景と言えば、アーカネルのいわゆる古き良き街並みとはまったく趣の異なるものだった、 いや、エルナシアでも古き良き街並みなのだが――そもそもアーカネルの世界観自体がそういう世界である。 例外はリオルダート島ぐらいか。
「なにここー!? 白ーい!」
 今回もありがとう、リアクション担当。 シュタルがそう言うように、その街並みの最大の特徴はほとんどが白の色で成立していることである。 白といっても土と混ざったような感じの白い色、白土というものなのだが、 それと草などの緑の色とが混ざった街並みなのである。 それも建物も足場の石畳もそんな感じの町なのである。
 しかし、この色というのはこの町のオリジナルではなかった。
「この白の色の元はすべてヴァナスティア由来のものとは有名な話だよな?」
 と、リアントスは確認するように言うと、シュタルは答えた。
「うん! でも……私はそう教わったけど、実際にヴァナスティアには言ったことないんだよな――」
 やっぱりか……海を見たことがないということはそう言うことだよな、 リアントスの予想していた通りだった。
「てことはアレスもか?」
 ロイドは訊いた。
「ああ、でも――この町よりももっと白いって聞いたことがあるな。 ロイドは行ったことがあるのか?」
 アレスは逆に聞き返した。
「行ったことがあるどころか、一時期住んでいたこともある。 いわゆる留学ってやつで、リアントスも一緒だったな」
 留学……マジか……アレスは唖然としていた。
「あら奇遇ね、実は私も留学していたことがあるのよ、 アシュバールの御令嬢ということでお嬢様学校みたいなところもあったけど、 その結果はこの通り……あとは想像に任せるわ」
 お察しします。
「ネシェラも留学してたの?」
 ライアは立て続けに聞いた。するとロイドは――
「俺が行けば妹もって感じだ、だいたいついてくる。 負けん気が強いからな――」
 リアントスも――
「正直、あの女こそが最強の女といっても過言ではないな。 それこそ、留学時代に俺らの面倒を見てくれた”兄貴”ってやつがいるんだが、 あいつをも打ち負かしている女だからな――あの女はマジでヤバイぞ――」
 それは本当にヤバイ女だな……ロイドもリアントスも話している脇から悩んでいて、それ以外はただひたすら唖然としていた。
「どんな子なのかしら、ネシェラって……可愛くて美人なのに長身の女性…… 案外ガタイの大きな女性とかそう言う感じ?」
 それにはスティアが答えた。
「いやあ……言ってしまうとマジで美人だぞ! 俺的には好みのタイプ……見た目だけならな!  華奢で美人でともかく守ってやりたい感満載の女だぜ……見た目だけならな!」
 大事なことなので2回言いました、見た目だけなら――ここが一番重要らしい。

 エルナシアで一晩を明かし、再び馬車でクロノリア方面へ。 山を登るというので準備は念入りにしていった。
「山登りって、馬車は通れるのか?」
 馬車を借りて町を出る際にリアントスはロイドに訊いた。
「馬車が通れる登山道だけはあるハズだ。 だが――なんと言ってもクロノリアだからな、 現状のこの世界に出てくるような魔物よりもはるかに強い魔物が出てくる、覚悟したほうがいいぞ――」
 それはマズイな……アレスは悩んでいた。
「へっ! 腕が鳴るぜ!」
 スティアは楽しそうにしているが、リアントスは苦言を呈した。
「くれぐれも勢いあまって山道から足を踏み外さないように。最悪下界に真っ逆さまだからな」
 おっ、おう……スティアは言われて少々ビビっていた。

 エルナシア平原の色合いはアルキュオネ大平原と比べると少々暗めの色合いをしているが、 すべてエルナシア連山による影によって形成されているものだった、かえって味のある様相で、これはこれで何とも素晴らしい光景である。
 そして、次第にエルナシア連山の登山口が見えてきた、そここそが――
「ここがクロノリア山と呼ばれる場所だ」
 エルナシア連山の中でも一番高い山がクロノリアなのである。 だが――
「登れるものなのか? 魔法の都市ということなら山に入ること自体が”門前払い”の可能性がなくはないのか?」
 と、リアントスは訊くと、ロイドが言った。
「ああ、そのハズなんだが、なんだか妙な感じだな……」
 ロイドはそう言うとさらに続けた。
「クロノリアには”フィールド”と呼ばれる、いわゆるバリアの役目をするものがあって、 それがあらゆる者の侵入を拒むようになっている。 つまり、それによって門前払いを受けるという理解になるわけだが――」
 ということは――自分の親たちはクロノリアにたどり着いたことがない可能性があるということか。 たどり着かなかったが例の”クソ野郎”のおかげで魔法の力を得るに至った?
 ともかく、ロイドは話を続けた。
「しかしどうだろうか、今は何故かフィールドの力が働いていないように見える。 つまり――俺たちに入れとでも言っているのだろうか――」
 マジか! 無理難題だったハズのこのプロジェクト、ひょっとするとひょっとするぞ――