アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第30節 神経質な人のお話

 ゼクスに案内され、一行は騎士団で使用している宿舎へとやってきた、 部屋にはベッドはそれぞれ2つずつ、3部屋用意してもらった。 どれもまあまあいい感じの部屋だった。
 そしてその日の朝――
「予定通り、船が出そうだな」
 アレスは船着き場で騎士たちと話し合っていた。
「例の雷の魔物、”サンダー・フール”って言いましたかね?  先週なんてあれのせいで全便欠航した日がありますからね。 あれ以来、あいつらにはかなり神経質に扱っているんですよ」
 そうなのか――アレスは唖然としていた。すると――
「あっ! あれを見てください! あいつら、あんなところに!」
 と、別の騎士が双眼鏡ごしに海を眺めていると、その海のほうを指さして叫んでいた。
「あれは! まさか!」
 アレスは驚いていた、海の上にはサンダー・フールの群れが――
「これは一旦定期便を見送るしかなさそうですね――」
 騎士の一人がそう言った。

 時間が変わり、アレスに連れられてロイドとリアントスは波止場へとやってきた。
「慎重なのはいいことだが、神経質なのはちょっと考えたほうがいいんじゃないか?」
 リアントスはそう言った。
「確かにな、あれで欠航なんてちょっと勘弁してもらいたいよな――」
 数で言うと10体やそこらという感じ――確かに危ないことは危ない。
「いや、それでも何かあったら危ないじゃないか――」
 アレスはそう言うが、ロイドは言い返した。
「今後はああいうのが当たり前になってくるってのに、この程度でひるんでいたら船なんて一生出せないぞ。 一般の乗客が無理ならまずは騎士だけで行って安全性を設計していく方針にしたらどうだ?」

 その持ち場の責任者であるアーカネルの将軍の1人であるランブル=クレンズブールに掛け合っていた。 彼は見た目はきちんとした鎧に身を固めた王国騎士という感じである。 アルトレイはまさにヴァナスティアのあるフォーン島との玄関港という重要拠点という向きもあり、 自宅がこの町にあるランブルがこの町の防衛を担っているのである。
「うーん……確かにその通りですね……」
 ランブルは悩んだ様子でそう言った。
「それに……みなさんは重役会で決定したクロノリアへの遠征という使命を受けているわけですからね、 だとすると、ここでいつまでも足止めを受けているわけにはいかないと――」
 言ってしまえばそっちが本音なのだが……
「そうですね、今回の申し出を機に試運転をやってみましょう。 その結果を本国に提出し、改めて運航再開ができるか検討してみることにしましょうかね」
 なんとも話の分かりそうな将軍であった、それもそのはず、
「ところでロイドさん、昔は大変お世話になりました。 今後もまたよろしくお願いいたしますね!」
 と、ロイドに対して妙に下手に出ていた、どういうことなんだ?  だが、ロイドは頭を掻きながら複雑そうな面持ちで右手でちょっとしたサインを示して答えるだけだった。

 そして出港――一行は船で数人の騎士と共に船出をした。
「なあロイド、ランブル将軍とどういう関係なんだ?」
 アレスが訊いてきた。もちろん、他の者もそれに注目してきた。すると――
「……まあ、面倒な話だから詳細は省くが、ランブルも俺と同じエターニス生まれのライト・エルフなんだ。 あそこでは一応上下関係って言うのがあってな、あいつの家は下のほうの家系になるわけだ。 貴族だとか王族だとかそういう感じの上下関係とはまた違うなんとも異様な扱いとも言えるんだが、 ともかく最初はそういう関係だったところから今に至るわけだ」
 長い話のようだが、とにかく知り合い同士ということらしい。
「そういやさっき、なんかこっそりと話をしてなかったか?」
 リアントスはそう訊いた、船に乗るまでの間にロイドがランブルとそっと話をしていたという。
「魔法が使いたいって話だ。 知っての通り、アーカネルは魔法のない世界だからこっちに出てくる際に魔法を使うことを自ら禁止していたんだそうだ。 でも、俺も結構自由に使っていたからな、だから好きにしていいって言ってやったんだ」
 そんな枷があるのか、ライアは訊くと、
「まあ――あいつの気持ちはわかるけどな。 そもそもエターニスとは何か? ライト・エルフの世界? なんで精霊族の世界なのか?  その話は簡単、エターニスは世界を管理するようなさらなる高位の精霊たちがいる”精霊界”につながっている都なんだ」
 なんだって!? それには流石に全員が驚いていた。
「精霊たちが魔法の力を制限しているっていうのも世界の管理者故のことだ。 そんな状況で一介の精霊が魔法など堂々と使ったらどうなる?  最悪、連帯責任で俺らのような一介の精霊ごと抹消されることだってありうる。 だから俺も極力”こっち”にいる間はみんなにもわからないレベルで魔法を行使している過ぎない。 もっとも、こんな状況になったら使用を解禁したところで誰にも咎められることはないから俺も気にせずに使い始めているけどな」
 そうなのか――誰しもが絶句していた。
「そうだったのか……俺はなんとなくそれっぽいことは考えていたが、想像を超えてくるとは思いもしなかったな――」
 リアントスは悩んでいた。
「お前はこの手の話は信じないだろ」
 ロイドはそう言うが、リアントスは――
「そりゃそうなんだが、お前の力とかを見てるとそんなわけにもいかない気がしてくるからな」
 とにかく、下っ端の精霊は上の精霊の言うことを聞いて物事をこなさないといけないほど神経質なんだそうだ。