アーカネリアス・ストーリー

第2章 碧落の都

第29節 同期との会話

 2年前と違い、なんともあっさりとオーガを倒すことができた一行。 だが――スティアは最後にクリーンヒットを受けて完全に伸びていた。
「ちょっと! なんなのこいつー! どうしたらいいの!」
 シュタルは頭に来ていた。ライアも頭を抱えていた。 するとリアントスが――
「ん? どうするって? まあ――いつものことだからな。 おいロイド、そっち頼むぞ」
「おう。せーのっ!」
 リアントスはスティアの両腕を、ロイドは両脚をつかむとそのまま運び出し、 そしてそのまま馬車の荷台へと放り投げた。
「これでよしっと。 この程度なら別に手当も要らねえし医者の世話になることもねえから安心していいぞ。 もったいねえし、あんなん喰らっても次に目覚めたときにはすっきり元通りだからな」
 嘘だろ……3人は唖然としていた。
「便利な特殊能力ね――」
 ライアは皮肉を言った。
「自らの危険を顧みずに敵を全力で攻撃することだけを目的とする戦士…… 確かに、”バーサーカー”にはお誂え向きの特性だな……」
 アレスは悩んでいた。”バーサーカー”クラス、アレスの説明通りである、 無鉄砲すぎるのが玉に瑕だが――
「アレス、うまく戦術に組み込んでやれよ」
「わっ、わかった……でもどうやって……」
「それにしても、ずっと寝てるわね――」
 確かに。ライアの言うとおりである。

 そんなこんなで5日もかけて平原を横断すると、次第に港町が見えてきた。 それと同時にうっすらと海の向こう側にも何かが見えていた。
「うみー! 私、海って初めて見るんだぁ!」
「俺も初めて見るな――」
 というシュタルとアレスだが、それ以外は――
「リオルダートは島国だから海と隣り合わせなんだけどな」
「ああ。俺もハンター時代では船なんかしょっちゅうだった」
 というリアントスとロイドもいるが、
「私もそうね、ハンターの仕事もそうだけど、 随分前に両親に連れられてヴァナスティアやドミナントにも旅行に行ったこともあるわね」
 というブルジョワジーな貴族ライア=アシュバールもいるが、もっとブルジョワジーなのは当然……
「この寝てるやつの家なんか別荘にプライベートビーチなんてこしらえているからな、 流石はオンゾーシ様は違うよな」
 リアントスはそう言った、当然スティア=オルダートのことである。
「アレス=ティンダロス家だってそれぐらいの貴族だろ?」
 ロイドはそう言うとアレスは答えた。
「えっ!? 俺? えっ、えっと……別荘といってもランペールの港町にあるって言うのを訊いたことがあるぐらいかな、 俺自身はあんまり知らないんだ――」
 先日の話にも出たランペールはアーカネルよりも南にある町で、 南東のリオルダート島とを結ぶ連絡船があることでも知られている。
「そっ、そう言うロイドこそ――」
 と、アレスは言うが、ロイドは――
「うちはアルティニアに本宅がある以外は別宅みたいなのは持たない主義だからな。 別宅があってもせいぜい借家程度だな」
 と言った――つまんないな……まあ、でもロイドの家柄のイメージ的にはなんとなくしっくりくるので、 これがある意味正解なのかもしれない。

 アルトレイにたどり着いた。 やはりアーカネル一強という図式らしく、この町にもアーカネル兵による警備が確立しており、 アーカネルによって治安は守られていることの表れでもあった。
 しかし、町に入るや否や――
「ロイド=ヴァーティクス!」
 と、彼の名を呼び止める太い声が。その声に対してロイドは「またか――」と言いながら頭を抱えていた。
「ここであったが百年目! 今こそあの時の雪辱を晴らす時!」
 声の主はそう言いながらやってきたが、 なんとその男、全身鎧に身を包んだ大男ではないか!
 だが、ロイドはそれに一切ひるむこともなく、 腕を組んだままただただ佇んでいただけだった。
「よう、あんた、こんなところまで駆り出されていたのか」
 ロイドは何食わぬ顔でそう訊くと、大男は呆気に取られていた。 するとロイドはさらに言った。
「なあ、そろそろ良くないか? いい加減に飽きているんだが……」
 すると、大男は悪びれた様子で言った。
「そっ、そうか……そうだな、かれこれ4度目だからな――」
「6度目だ」
 ロイドは呆れていた。と、そこへシュタルが――
「あれ? もしかしてゼクス?」
 と、シュタルは訊いてきた。
「ん? なんだ、よく見たらランバートのとこのじゃないか。ロイドと一緒だったのか――」
 えっ、知り合いなのか? アレスは言うとロイドは言った。
「こいつは俺が騎士選抜試験で2戦目で破ったゼクスって男だ。 鎧で少々わかりにくいがダーク・エルフでエドモントン出身らしい。 知り合いなのか――」
 あっ、そういえばそういう人いたな、アレスは考えた、 試験ではロイドが大剣を抜いて彼を一撃で仕留めたんだっけ、言われてみればそうだった、思い出していた。
 一方でシュタルはロイドの話に対して頷いていた。
「イナカなんて周りはだいたい知り合いばっかりだよ、アーカネルにきてびっくりしちゃった――」
 都会の人のつながりの薄いこと薄いこと――シュタルは都会と田舎のギャップを感じていたようだ。
「それで――選抜試験に負けた腹いせで仕返しなんですか!?」
 と、アレスは大まじめに言うが、ゼクスは悪びれた様子で言った。
「いやいやいや! そんなまさか! その時のことにひっかけた冗談だよ!」
 すると、ロイドは――
「悪気もなく言っているだけだから気にしなくていい、俺はもう飽きているんだけどな――」
 そう言うと、ゼクスは悪びれた態度で申し訳なさそうにしていた。
「それより、やっぱり魔物か?」
 ロイドはそう訊くとゼクスは答えた。
「このあたりもだいぶ増えているからな。 ハンターにも協力を要請して駆除しているところだがそれでも圧倒的に数が多い、 だから騎士団が直接投入されて対処にあたっているところだ。 我々はまだ2年目だが、魔法に比較的強いエルフェイド種というところが買われて現場の指揮を任されているのだ」
 と、偉そうに頼もしそうに言ったあと、ゼクスは照れた様子で続けた。
「といっても俺も魔法なんぞとは無縁の世界で過ごしていたんだがなぁ――俺でいいんだろうか?」
 人選の基準がわからない。