フィダンの森の石碑にはこう書かれているはずだった、
強大な獣を斃した勇士たちを讃え、この碑を遺す――アーカネル騎士を嫌う理由と関係が? アレスは訊いた。
「確かにそう聞けば聞こえがいいがな……」
リアントスはイラついたようにそう言った。
「でも……確かに、昔にあのあたりで大きな獣が斃されたんだよね? 私はそう学校で教わったけど――」
シュタルはそう言うと、ロイドが言った。
「ああ、そいつ自身は確かだ。
だがな、あの場所で実際に起きた出来事はそれだけじゃないんだ。
問題は――その強大な獣を斃した際のやり方だ」
すると、それに対してライアが的を射た発言を。
「なるほど、話は見えたわ。
昔のアーカネル騎士では強大な魔物を斃す際にある手法が取られたと聞いたことがあったわね、
それは囮を使って魔物をおびき寄せ、そのスキをついて魔物を斃すっていう――」
まさか! ということはつまり――アレスはズバリ言った。
「もしかして、身内がその囮だったとか!?」
リアントスは怒りに震えたような態度で答えた。
「その通りだ。
親父はアーカネルに殺された――囮という道具として使われてな!
それなのに連中は――その事実を隠蔽して! 勇士たちを讃えるだけのモニュメントだけを作りやがって!
あれは墓石だ! 親父を――親父たちがあの場で亡くなったことを示す慰霊碑だ!」
その気持ちは――痛いほどわかるなぁ……3人は悩んでいた。
するとロイドが続けた。
「俺の親父はリアントスの親父とは同期で仲もよかった。
それで戦友の死について異を唱えたこともあったが軽く流されたそうだ。
だから俺は最初、親父が消えたのはそのせいだったんじゃないかと思っていたんだが、どうやらそういうことでもないらしい。
アーカネルには俺たちの知らないところで大きな力が働いているように思うな――」
そうなのか!? 3人は驚いていた。
「サイスさんは――そのことを知っているのかしら!? 囮戦術のことと、アーカネルに働いている力のこと――」
ライアが言うとロイドが答えた。
「どちらも知っているはずだ。
そもそもサイスがアーカネルで執行官しているのもそういった理由が強い。
特に一番妙だと思っているのは、アーカネルは前の王が倒れてから長らく王座が空いている王国だ。
それ自身が妙だと思わないか?」
そう、アーカネルの最大の問題はそこにあるのだが、民衆の認識はこうだった。
「それは――だって、次の王が決まるまではしばらく空席で行くっていう法律があるじゃないか、だから当然だろう?」
と、アレスが言った、これがアーカネルの一般常識である。だがしかし――
「俺はそうは思わないな。
エターニスでの伝承でも、人間ってのは――いや、エルフやデモノイドもそうだが必ず上に立つ者がいて、
空席なく治める者がいるのが普通のはずなんだ。
空席があれば治める者がおらず、つまりは治安が乱れて動乱を起こす状態になる――
別のやつが王座について国をひっくり返しているっていうのがわりとよくあるパターンらしい」
アレスが訊いた。
「でも、その場合――誰がひっくり返すというんだ?」
ロイドは続けた。
「まず前提として、アーカネルって言うのは強い国だってこと、介入するようなよその国がないんだ。
フォーン島のフォーンはそもそも友好的な国だし、”ヴァナスティア”のお膝元というだけあってそういうことをする国ではないからな。
それ以外は大体アーカネル国の一部だろう? つまり、この世界はアーカネル一強だ、そう言う図式になるわけだ。
だが――そういう世界でも必ず悪いことを考えるやつがいるわけで、つまり――」
ライアは言った。
「少なくとも、悪いやつは外じゃなくて国の中にいるのは確実ってことね。
この状態でよしとして、その裏でこの世界をひっくり返そうとしている悪いやつが――
長らく王座についている者がいないのが不思議というのならそれをしているやつが確実にいるわけで、だとすると――
悪いやつはアーカネルを動かしている者の中の誰かってことになるのかしら?」
そんなまさか! アレスはビビっていると、シュタルは考えた。
「うーん、確かに……なんだか説得力あるなぁ……」
嘘だろ!? アレスはなおも驚いていた。
「俺の親父の件もお前らの親父や姉貴の失踪事件はその氷山の一角に過ぎないような気がするな」
リアントスはそう言って話を締めていた、なんとも大変な話になってきたらしい。