ところで――アレスはずっと気になっていることがあった。
「そういえばさ、聞いちゃいけないような気がしていたんだけど――」
と、ライアに言うと、彼女は言った。
「家出したワケが知りたいんでしょ?
むしろ、私のほうこそ何故聞いてこなかったのか不思議に思ってたぐらいだけど――気を使ってくれていたのね」
しかし、ロイドが言った。
「俺は別に家出をしたわけじゃないんだが、その目的は俺と同じだろうな。
俺は親父がどうなったのかが知りたかった、あの強い親父がどうしていなくなったのか――
それが知りたかったからアーカネル騎士に入団したんだ、ライアもそうじゃないのか?」
ライアは少々嬉しそうに答えた。
「ええ、そういうこと。
ロイドのお父さん……つまり風雲の騎士団……お姉様がどうなったのか知りたかったのよ。
でも行方不明になって、あのお姉様がどうなったのか、その跡を追うつもりだった。
だけど……私が騎士団に入ったらお姉様みたいに行方不明になってしまう……それで両親に反対されたの。
だから家出したの、サイスさんに頼んで私が騎士になれるようにといろいろと訓練も受けさせてもらったし、
実戦訓練としてある程度のハンターの仕事だってさせてもらえたわ。
もちろん、それは生易しいものではなかったけど――それでも、私はお姉様のことを諦めたくなかった……」
そんなことがあったのか、アレスとシュタルは複雑な気持ちだった。一方のロイドは……
「だな、俺としてもその両親の気持ちはわからんでもない、
ネシェラに一度だけ同じことを言ったからな、お前には危険すぎるからついてくるなって。
だけど私には危険だったらお兄様にも危険に決まっている、
1人でそんな目に合うぐらいなら2人いれば平気じゃないかって言い返されてな、
別にそう言う意味で言ったつもりはないが――。
言ってもあの跳ねっ返りはそんなことで素直に聴くようなタマじゃないからな、すぐに諦めたな。
だからせめてこの世の中を渡り合えるようにと昔から子供ながらに訓練的なものをやってきたことはあった。
既に話した通り、あれだけの戦闘能力を持っているのもそれだけの覚悟ができているからかもしれないしな。
それにネシェラとしては親父もそうだが、やっぱり”アルクレアお姉ちゃん”を探したい気持ちもあったんじゃないかな――」
そう言われてライアは嬉しそうに言った。
「あら! それじゃあやっぱりネシェラとは気が合いそうね!」
そんな2人の騎士団入隊エピソードとは打って変わり、アレスとシュタルの場合は何とも薄っぺらなエピソードだった。
「うーん……俺はもともとこういう家柄だから、こうなることは必然のものだと思っていただけなんだけどな――」
「私は……まあ、兄貴にできるぐらいだから私にもやれると思って子供ながらに考えていただけだよ、
お母さんにも別に反対もされなかったしね――」
世襲的な流れのアレスと負けん気の強いシュタルということか。すると、ロイドはふと思った。
「なあ、そう言えば少し前に騎士団の実地訓練でハンターの仕事をやってて、その際にセディルからとんでもない話を聞いたんだ。
エドモントンに伝説のハンターが住み着いたって話を聞いたんだが、シュタル、お前何か知らないか?」
えっ? シュタルは急に言われてびっくりした。
「エドモントンに……伝説のハンター? 聞いたことないなぁ……どんな人?」
ロイドは悩みながら言った。
「うーん、セディルはそこまで言わなかったからよくわかんないんだが、
伝説のハンターと言われたら俺が挙げるやつはこの4人だな――」
ロイドは改まった。
「1人はシャービス=ディランゾって名前の男だ。
種族はアーカネル系ヒューマノイド、元はフォーンの白騎士団に所属していたこともある男だ」
うーん、あんまりわからないなあ……シュタルは悩んでいた。
「2人目は……つい最近亡くなったって言ってたが、マドラスって名前の男だ。
ただ――クロノリアよりもさらに西のドミナントで亡くなったって聞いているから、
エドモントンに住み着いた可能性はないかもな」
ドミナントで亡くなったエドモントンの人の話はなかった気がする――シュタルは悩んでいた。
「残りの2人はいずれも女でまずは片方、業界人なら誰もが知るほどの大人物で、
名前はシルル=ディアンガートという人だ。
種族は不明だが恐らくライト・エルフ系だろうな――」
それにはシュタルも反応した。
「シルル=ディアンガート! もちろん知ってるよ! まさに生きながらにして伝説と化している最強のハンター様だよね!
でも――エドモントンに住んでいるって話は聞いたことがないなあ……」
生きながらにして伝説と化している……なんとも偉いこっちゃ……アレスは絶句しているが、ライアは冷静に言った。
「シルル=ディアンガートとくればハンターで知らない人はまずいないわよね。
ということはやっぱり4人目はその相方かしら?」
そう言われてロイドは頷いた。
「ああ、もちろんだ。
知らない人もいるけどシルルには最初バディがいたことがあった。
それが4人目、ドミナント系ダーク・エルフのナナル=エデュードだな」
えっ……シュタルはそれを聞いて絶句していた。
「なっ……ナナル……何?」
「ナナル=エデュードだ。
当時はシルルとのタッグで”シルナル・コンビ”と呼ばれ、
多くのハンターたちの間でもあらゆる凶獣をも斃すなどしてあちこちで活躍していたらしいぞ。
俺は当時のことは詳しくは知らないが、今でも一部では伝説として語り草になっているほどだから相当なんだろうな」
さらにライアも追随。
「しかもナナルは元々ドミナントの名門エデュード家のお嬢様だったみたいで、
彼女は家出をしてシルルと共にハンターを目指したって話を聞いたわね、まるで私みたい……気が合いそうね」
そう言われてシュタルは焦り気味に答えた。
「そっ、そうなんだ……知らなかった! 同じダーク・エルフの女性にそんな人がいるんだ!
私、知らないことばっかりだなぁ……」
知らないのか、ロイドはそう言って諦めていた。
しかし、シュタルは手綱を握りしめながら悩んでいた。
「えっ……ナナル……シルルと一緒に……? いやいやいや、まさか……そんなわけないよ……ね……?」
わかりやすいリアクション。100%何かあるな。一方でアレスは話についていけずに苦笑いしているのみだった。