ライアの過去。
「お姉様! 遠征というのは本当ですか!?」
それはアルクレアが騎士として遠征が決まったときのことだった。
「そうね――やっぱり、私たちはそれだけに期待を背負っているのだから行かないわけにはいかないわね――」
アシュバール家の庭にて、アルクレアとライアの姉妹は話し合っていた。
「大丈夫よ大丈夫、そんなに心配しないで。
言ったって、せいぜいどれだけ長くたって1か月程度で帰ってこれるわよ、
ディアス将軍だってクリストファー執行官だってそう言ってたしさ」
クリストファーは当時は現在のサイス同様のポジションに収まっていたらしい。
実際、どこへ遠征するのかは機密情報のため口外無用とされていたのだが、
「せめて――せめてどこへ行くのかだけでもお教えくださらないのでしょうか?」
そう言われ、アルクレアは周囲を確認しながら言った。
「いーい? 秘密だからね?
私ね、エルヴァラン、ティバリス、レギナスと一緒にクロノリアに行くことになったのよ。
詳しいことはわかんないんだけど、そこは西の大陸にある都なんですって」
すると――そこへ妙な男がやってきた。
「あーあ、漏らしちゃったねぇー♪」
その男の存在に2人は驚いていた。
何とも立派なひげを携えたみすぼらしい老人風の男だった。
「だっ、誰!? ここは私有地よ! 一体何のつもり!?」
アルクレアはライアを後ろにかばい、その男相手に構えていた。
「安心したまえ、私は見ての通りのただの通りすがりの怪しい人だからね」
自分で堂々と言うとはなんとも理解の早い。彼は話を続けた。
「いやね、実はクリストファーから命令を受けた人物に接触を図ろうと思ってね、
それでこうしてやってきた次第さ。
アシュバールの家の人はアポなし訪問はNGというものだから勝手に上がらせてもらったまでだよ、
やむなしってやつだねぇー」
なんとも調子よさそうにいうこの男、そいつに対してアルクレアは態度を改めて訊いた。
「そう――それじゃあ聞くけど、勝手に人の家に上がり込んできてまでこの私にどんな要件かしら?」
男は頷いた。
「ああ、今回の任務の結果だけどさ、まず間違いなく門前払いを受けるだろうっていうことを伝えに来たんだ」
なんですって!? アルクレアは何か言おうとすると、男は立て続けに話した。
「で、それでだけどね、実はティバリスがどこに行ったのかなって思ってね。
彼に伝えておけばある程度把握できるかなって思ってさ――」
ティバリス? アルクレアが言った。
「ティバリスなら、アーカネルにいなければアルティニアにでもいるんじゃないかしら?」
男は首を振った。
「そうは思ったんだけどね、出発は1週間後だろう?
アーカネルからアルティニアへは往復でどんなに頑張っても10日はそこらはかかる、
天候が良くなければ2~3週間はくだらない。
だから命令を受けてからアルティニアに帰郷するのはちょっと難しいんじゃないかな?」
言われてみればそれもそうか、アルクレアは考えた。
少なくともティバリスがアルティニア出身であることを知っているのか。
「ま、一応いる場所の見当はついているんだけどね、
だけどいろいろと面倒だからキミに伝えておけばなとかなるかなと思ってこうして話しているまでだ」
そう言われてアルクレアは再び態度を改めた。
「わかったわよ、つまりはティバリスに伝えておけばいいんでしょ。
ちなみにクロノリアから門前払いを受けるっていうのもティバリスは納得するものなのかしら?」
男は得意げに答えた。
「ああ、その通りさ。
そもそも彼はクロノリアに行くことに対しては消極的だ、その理由は私と同じ考えだからね」
するとアルクレアは男の顔を見て気が付いた。
「あなたまさか……! そっか、そう言うことだったのね!」
その男、恐らくライト・エルフ族の男なのだが……
「そう、そういうこと。
ともかく、門前払いを喰らったらその足でかつて”シュリウス”と呼ばれた西の地へと向かってくれればそれでいい。
万が一、門前払いを喰らわなかったらそのまま帰っていいから――私からの伝言は以上だ。
それをティバリスに……通りすがりの怪しい人が言ってたと伝えてもらえれば十分だよ」
と言いつつ男が去ると、ライアは一言――
「腰が曲がっているせいかしら、なんだか妙に背が低い人だったわね――」
気になっていたようだ。
ライアのそんな話を聞かされていた一行。
「通りすがり……怪しい人――」
アレスは唖然としていた。だがロイドは――
「しかも低身長――そんなやつ、他に知らねえな……」
あっ、やっぱり知っているんだ、ライアは訊いた、
そいつもロイドも似たような印象のライト・エルフ族でクロノリアからの返答には前向きではなさそうなところとか共通している……
ライアのカンは鋭かった。
「ああ。
そいつこそが以前サイスとの話に出てきた”クソ野郎”のことだ。
言ってもそいつは年老いているというだけあってかその”クソ野郎”の親父だと思うけどな。
その”クソ野郎”一家も俺らと同じくエターニス出身のアルティニア育ち、
クロノリアへと魔法の力を求めて旅に出るということで俺の親父は当然のこと、
”クソ野郎”にも思うところがあったってことだろう」
やっぱり、”クソ野郎”も引きこもりクロノリアから門前払いを受けることは容易に想定できたということか。
いや待てよ? それって言うのはつまり――
「でも、お父さんたちってクロノリアへ行ったの? それってひょっとして――」
シュタルはそう訊くとロイドは答えた。
「ああ、親父たちの目的はまさに今の俺らと同じ、クロノリアに行って魔法の力を求めて来いというミッション……
つまり俺たちは、親父たちが辿った道と同じ道を辿っているということだな。
実はそれについては俺も親父から聞かされたことがあった、まさかとは思ったが――」
そっ、そういうことになるのか――アレスは悩んでいた。
「しかもその決定を下したのは……やっぱり当時もクリストファー様なんだろうか……?」
ロイドは腕を組んで考えていた。
「まず間違いなく何か裏がありそうなんだがな。
そこまでしてクロノリアに執着するわけが知りたいところだ。
まあ、それはサイスが明かしてくれるだろうから期待したいところだが……」
しかし、今のライアの話での問題は親父たちの結末である。
「でも……結局お父さんたちってクロノリアから門前払い受けたのかな……?」
シュタルはそう訊くとロイドは答えた。
「そいつは間違いないな。
ただ――親父はともかく、あの”雪女”までもが魔法が使えるようになっていたことが気がかりだ。
だから――」
ライアが考えながら言った。
「つまり、その通りすがりの怪しい”クソ野郎”さんが何かしたってこと?」
ロイドは頷いた。
「考えられるのはそれしかねえな。
そもそも”クソ野郎”も俺や親父と同じエターニスの血を持っている、
今の世界の現状で魔法が使えるのはエターニスの血かクロノリアの血を持っている者ぐらいだから野郎が何かしたのはほぼ確実だな」
確かに――3人は考えた。
「ライアのお姉さんが魔法が使えるようになったってことはもしかして――」
アレスは考えるとシュタルが言った。
「私のお父さんもアレスのお父さんも魔法使えるってことじゃないかな!?」
そうなりそうだ。