最後にアレスがやってくると、その後ろからサイスがついてきていた。
「ここが”流星の騎士団”の隠れ家ですかね?」
「全然隠れてねぇだろ」
ロイドはサイスの言ったことにすぐさま反応した。
「あれ? ルイスさんはまだ来てないのか?」
アレスは周囲を見渡しながら言った。
確かにルイス=モーティン少佐……いや、あれから数か月後に旧少佐は現中佐となったが彼の姿は見当たらなかった。
それについてサイスが答えた。
「中佐なら別の任務にあたらせていますね」
話はさらに続いた。
中佐は1年半前までは彼ら新米の保護者的存在だったがその後はその必要もなく、
今後はこの4人のメンツを中心にやっていくということだった。
「”流星の騎士団”はあなたがたのものです。今後はアレスさんを筆頭に頑張ってください」
アレスは驚いていた。
「おっ、俺ですか!?」
ロイドは頷いた。
「悪いとは思ったがサイスとルイスとの話し合いの末に勝手に決めさせてもらった。
俺は戦術担当だが、そもそも単独行動の多いハンターだったからな、
だから団体行動でどうこう云々っていうのだったら俺なんかよりも騎士団養成のエリート校を出ているお前のほうが適任と思っただけだ。
しかも父親も風雲の騎士団のリーダーやってたってんだろ? そういう血も継いでいるというのならちょうどいいんじゃないかと思ってな」
ライアは頷いた。
「賛成ね、私もハンターやっていたし、そういう意味では立ち回りはロイドと一緒――
エリート・コースを突き抜けてきたアレスのほうが適任と思うわね」
「私は……うーん……アレスに任せるね」
シュタルはまさに見たままである、どう考えてもメンバーをまとめるというのならアレスのほうがよさそうだ。
ということで”流星の騎士団”はアレスを団長として再結成されることになった。
「いや、あの……”流星の騎士団”というのは?」
アレスはそう訊くとサイスが答えた。
「騎士や我々執行官の間で検討した結果ですね。
元々は風雲の騎士団の再来というあなた方が彗星のごとく現れたということで”彗星の騎士団”だったハズなんですが、
多数決で決めようと公示する際にどこで間違えたのか”流星の騎士団”となってしまったようでして、
それが一番票を得られたため、結局この名前になりました。
アレスさんはお忙しくて投票されていませんよね?」
ロイドが言った。
「シュタルも投票してなかったっけな。
俺もどうせ呼ばれるのなら”流星”のほうがいいかなと思ってな。
それに”彗星”っていうのも返って期待しすぎだ……転記ミスしたやつのファインプレーには感謝したい」
そう言われてサイスは「あれ? お気に召しません?」と訊いた、考えたのはあんたかよ。
「私もそれに賛成ね。
意外と転記ミスしたほうがいい場合もあるのね――」
他の候補は――ハンター経験者が多い叩き上げゆえに”草の根の騎士団”……下っ端っぽくないだろうか?
あとは男女のツーペア、ある意味陰と陽の両極でバランスの取れた編成として月と光、転じて”陰陽道の月光団”……厨二かよ。
それから風雲の騎士団の再来的なメンツということで”新風の騎士団”……いやいや、理由がなんか二番煎じっぽくない?
ということで、これらと比べてどれがいいかと言われたら……
「……”流星の騎士団”一択だな」
「うん、異議なし……」
アレスとシュタルは呆れながらそう言った。投票者はせいぜい30人程度しかいないが、実際、”流星の騎士団”支持率は全体の約75%である……
さて、今回の流星の騎士団として再結成したのには理由がある、そう――
あのパタンタからの街道が開通したということである。
ということはつまり、そこから西に続くアルクラド平原に歩を進めることができるようになったということである。
そして、その平原から西へと進み、そのうち港町アルトレイへとたどり着く。
そこからさらに西のドミナント大陸の玄関口であるエルナシアへと上陸し、さらにそこから――
「いよいよクロノリアへと行くことになったというわけか!」
アレスはそう言った、そういうことである。
「確かに最近、魔法魔法、魔法だよな」
ロイドはそう言うとサイスは答えた。
「ええ、ですからこうなった以上はクロノリアも重い腰を上げるかもしれないと思うのです」
しかし、そうなると魔法同士がぶつかり合う……魔法による戦争の始まりを予感させる話である。
とはいえ、それが出来なければ今度は自分たちがただただ一方的になぶり殺され、
そして滅びるだけ――それだけはなんとも避けたいところだ。
もちろん、それなしで解決できる方法を考えてくれるというのならそっちのほうがありがたい。
そう言ったことも含め、今回のクロノリア遠征は非常に重要なプロジェクトである。
「当然、先方の返事の内容は問いません、OKならOK、NGであればNG、もしNGというのなら仕方がないことなのでしょう、
それ自身は重役会でもすでに承知の上ですので」
いずれにせよ、たどりつくことが一番大事ということになりそうだ。
ところで、ロイドには一つだけ疑問に思っていることがあった。
「そういえば、そのクロノリアに行くことを考えたお偉いさんは誰なんだ?」
最初にも触れたとおり、なかなか難しいこのプロジェクト、
精霊族の多くならさっさと廃案にしてしまうであろうこの企画をあえて推したのは一体誰なのだろうか、
言われてみれば誰もが気になっていた。
するとサイスは散在していた彼らを一か所に集め、ひそひそと答えた。
「いいですか、ここだけの話ですからね。
この話を進言したのは、何を隠そう、あの”クリストファー=ロンデル”氏なんですよ」
すると、シュタルは大声で「えー」と叫んだ。
ここだけの話だって言うのに……シュタルは両手で口を塞ぎながらゴメンと謝った。
クリストファー、シュタルが大声を上げるぐらいだからかなりの大人物であることは容易に想像がつくことだろう。
彼はクレメンティル教の法王で、クレメンティル教を知らなくとも彼自身は知っているという人物、アーカネルの重役の1人としては十分な権力者である。
「クリストファー? どういうことだ?」
ロイドは訊いた。しかしサイスにも解らない。
それ自身は一番解っていても不思議ではないサイスが解らない。
それはどういうことなのか、ロイドがこれから訊く質問の内容を訊けばわかることだろう。
「おいおいおい、クリストファーって学校の先輩だろ?
どういうことなのか訊けなかったのか?」
ということである、クレメンティル教の法王はサイスとは旧知の仲、
出身は同じエターニス生まれのアルティニア育ちであり、それはロイドもよく知るところだった。
年齢はサイスよりは12個も年上だが、互いにエターニス生まれということもあってか意気投合というほどではないにせよ、
それでもその縁で知り合った仲だった。
あれ、そう言えば――ロイドは思い出した。
「ん、そう言えばあのクソ野郎の話を聞かないな。
まさか、クリストファーがクロノリアを進言した件となんか関係あったりするのか?」
クソ野郎って誰だ……3人は悩んでいると、どうやらサイスは認識があうらしく、彼は答えた。
「うーん、そこは何とも。
ただ、お互い性格的にそりが合わないのでそういうことはないと思います。
それに……ご存じの通り、私ら3名ともエターニス生まれのアルティニアの学生をやっていたというだけのことで、
私はどちらの先輩も苦手な方ですし、
クリストファー氏もプライベートでの付き合いはほぼ持たない孤独主義の方ですからね」
ロイドは頭を掻いていた。
「それもそうだな、俺はどっちかというとあのクソ野郎が一番苦手だ。
その点、あんたのほうが一番話がしやすい」
「またなんか言われました?」
「最後に会ったときはまた8年後に会おうって言われたな……あれは8年前の出来事だった――」
えっ、てことはまさか……サイスは苦笑いしていた。
「ご愁傷さまです――」
そう言われたロイドは深いため息をついていた。
「なんか、よくはわからないけど嫌なことが起こりそうっていうことだけは理解したわ――」
ライアはそう言うと他の2人も冷や汗を垂らしていた。
とにかく、謎が多いままだが事を運んで行くしかないようだ。
どうするかは先方の動きで決めよう、OKならOK、NGならNG、そういう点では気が楽だった。
しかし今回のプロジェクト、責任重大であるというのは間違いがなく、
もはや騎士団だからどうのとかハンターだからどうのとか、そういうことは言ってられないらしい。
それを象徴するかのように、騎士団とハンターが混在して魔物との激闘を繰り広げている様も数多く散見できる、
今まではこんなことほとんど見かけられなかったのに。
さて、この世界は一体どうしてしまうのだろうか。
そして彼らの行方、一体どうなるのだろうか。