アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第17節 明日への扉

 坑道最深部の異形の魔物は次々と倒されていった。 魔法さえ封じればなんてことのない、ふたを開けてみれば魔力によって異形の者と化したただの人間だった。 意識も魔力に汚染されており、ほぼ魔物同然な存在としてなり果てた姿だった。
 普通に考えればたいして苦労するような相手ではなく、 どう考えてもさっき戦った合成獣のほうが難しい相手であるが、 ”魔法を行使する”相手という点を考えれば、ここの作業者やアーカネルの兵士や騎士が苦戦してもなんらおかしくはないだろう。 つまり、今回はアーカネル騎士団にロイドとライアがいたことが勝利の決め手だったということになりそうだ。
 とはいえ、どうしてその魔法を使う魔物や合成獣がこんなところに現れたのだろうか、 それに関しては一切見当もつかず、非常に大きな影を落とす結果となったことだけは確実である。

 メタルマインでの一件を済ませた後、彼らはアーカネルへと帰還、その報告をサイスにすることなった。
「ふむ、なるほど……やはり魔法だったのですか――」
 ロイドは訊いた。
「状況が状況なだけあってやっぱりそれは想定していたことだったってわけか」
 それに対してサイスは頷いた。
「ええ、まあ――他に見当がつかないものでしたので。 もちろん、そうなるとこれはとんでもない事態であることは明白―― 本当はそうであることは信じたくなかったのですが、そういうわけにはいかないようですね……。 となると、無論私自身が現地に行くという手もあるにはあるのですが、 もし、これがメタルマインだけの話でなくなっていくとしたら――」
 そう言われ、ルイスは悩んでいた。
「メタルマインでの一件はあくまで氷山の一角に過ぎない……つまり、 今後も同じような事例が発生するかもしれないということか……」
「そうなると、上に立つ者も実働部隊も魔法に対する知識を持っていた方が好都合ってわけだな」
 ロイドは冷静に言うとサイスは頷いた。
「やはり、エターニスの血は頼りがいがありますからね」
「そうか? エターニスなんか引きこもりの血を引いているだけだと思うのだが」
 エターニスの連中はクロノリアよろしく自分から動こうなどとは思わないのが欠点らしい。 だが、それでも彼らはアルティニアに住を移して行動するような力を持つためか、 アーカネルまで来てこの通り事を起こしているということらしい。
「ともかく、私はこの通りですのでロイドさんは実働部隊としてお願いできますか?」
 ロイドは考えながら言った。
「実働部隊は1人だと明らかに足りないけどな。 だがまあいい、ライアもいることだしな、とりあえずはこれで何とかやっていくことにする」
 ライア……サイスは腕を組み、彼女のほうを向いて考えていた。
「何か……?」
「あっ、いえ……そういえばそうでしたね。 確かに”プリズム族に魔法”とはよく言ったもんですね」
 ”プリズム族”? 聞きなれない種族名に一同困惑しているとロイドが言った。
「ライト・エルフの一種でそう呼ばれた種族がいるんだ。 既に体感している通り、”プリズム族”もとい”プリズム・エンジェル”は魔法に強い種族だからな、 ”プリズム族に魔法”っていうのは効果のないもの薄いものの喩えで使われる言葉だ」
 それ以前に自分はそういう種族であることを初めて知らされたライアだった、 自分の両親は知っているのだろうか?
「しかし魔封じの矢とは考えましたね、それを戦術に組み込めば成り立ちますかね?」
 サイスはそう言った、確かにそれはその通りなのだがルイスが苦言を呈した。
「確かに魔法さえ来なければという考えはその通りなのだが、 問題は魔法を知らぬ我々で魔封じの技を使えと言うのは――」
 そうだった、それはそうかもしれない。
「私ができたのは……プリズム族だから?」
 ライアはそう言うとロイドは頷いた。
「使えないことはないが、プリズム族はそもそも魔法に強いからわざわざ使用するケースはないんだけどな。 でも、今回のライアのパターンのように、射るときにある程度被弾も覚悟しなければいけないケースもありそうだ」
 課題は多いようだ。

 あれから2年ほどが経過し、メタルマインでの戦いよろしく各地での戦いの状況はさらに厳しくなり、 もちろん、魔法というものの力に対しての防衛策も確立しつつあるのと同時に魔法攻撃にさらされるケースも出始め、戦いは激化していくこととなった。 しかし、魔法に対する防衛策についてはまだ完全ではなくこのままではじり貧、果たしてアーカネルに明日はあるのだろうか。
「ロイド! 久しぶりだねぇー!」
 その日、アレスとロイド、そしてシュタルとライアの4人はティンダロス邸のリビングに集まることになっていた。 日々忙しくなってくるにつれて4人で集まることもなく、久しぶりに集まったのは約8か月ぶりだったのだ。
 そんな中ロイドはすでにこの家にやってきており、次にやってきたシュタルを向かい入れていた。
「アレ? ロイドが一番最初?」
「そりゃそうだろうな、俺の持ち場は主に城内――戦闘経験と魔法耐性も一応持っている、 それで騎士団の戦術研究室に呼ばれることになっちまったってわけだ。 騎士団の戦術担当から実戦強化担当長補佐として指導もしていたからな」
 まさに中枢で働いている彼、急に出世して偉くなったもんだ。 それに対してシュタルは楽しそうに言った。
「あははっ! どおりで騎士団の戦術方針が変わったと思ったらロイドの方針だったんだね!」
 シュタルは楽しそうに答えた。
「魔法に対して免疫がない以上は攻撃は最大の防御……それしかないからな。 だから魔法知識もあって攻撃に重きを置くスタンスの俺の戦術を参考にする事になったらしい」
 つまりはどんなポジションの人材でも攻め中心へとシフトする運びということである。
 もちろん、武具もきちんとしておく必要がある。 鉄製品だけでは魔法に耐えることは難しいが、普段の物理的な攻撃に対策しながら魔法をかわすのは少々厳しいため、 最低でも物理だけでもという感じである。 無論、あのメタルマインの一件以来、鉄の採掘作業も無事に再開されたため、 鉄製品の流通も再開されることになり、各人鉄の武具を新調することになった。

 そして、今度はライアが家に入ってきた。
「あら、”戦術研究室・実戦強化担当長補佐”も来ていたのね。 最近、私と一緒に仕事をしていた人があなたのことを”鬼番長”って言っていたわよ」
 そう言われたロイドは笑っていた。 まさにどこかのスパルタ剣術道場で竹刀を持って周りをビシビシ鍛えているのが彼――それに近いものがあった。 とはいえ、これから現れるであろう魔物はどんな大物かわからず、さらにそれがどれだけの魔力を有しているか…… それを考えると中途半端な鍛え方ができないだろう――それはここに集まる者なら容易に想像できるものだった。
 ちなみに、実戦強化担当長”補佐”という通り、担当”長”が別にいる。 それはアーカネルの将軍位の中でも例の黒騎士ディアスと並んで最高位に君臨するセディル将軍だった。 彼女の最大の特徴はロイドと同じライト・エルフ族に属するものではあるのだが、 残念ながら魔法に馴染みのない生活しかしていないためロイドほど魔法に耐性がない。 しかし、それでもアレスやルイスのような人間族に比べれば断然免疫があるほうであり、 実戦強化担当長としてセディル将軍に協力を要請し、アーカネルの新たな方針としての中核を握る人物となった。
「セディル将軍様って優しいよね!」
 シュタルは彼女と一緒に仕事をしたことがあったようだ。 だが、その戦い方は自慢の大きな棍を用いた非常に豪快かつアクロバティックなものなのだという。 その姿にシュタルは憧れを抱いていたようだ。