アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第16節 特異体質のライア

 メタルマイン・シティの坑道の最深部にて、”魔法”を行使する魔物が現れてしまった。
「ま、魔法……、話には聞いていたが、まさか本当に存在するとは――」
 ルイスをはじめ、何人かは驚いてはいるが、ロイドに言わせれば何を今更という感じだった。 彼はアルティニア出身とはいうが、元々はエターニス生まれのエターニス育ちであり、 そこでは魔法の力は珍しくもない土地だった。 そのため魔法に関しては免疫もあるし、知識もあるし、実際に使うことだってできた。
 それこそ例えばどこかの街道に現れるというオーガという巨体生物を相手に突如棍棒の一撃を受けたとしても、 予め”ガード・サークル”という”物理的な打撃に対して抵抗力を与える魔法”を自分に張っておけば、 限界間近な青銅の大剣一本でも何とかその身で受けることも可能だし、 どこかのお城に迫ってきていたボス格の角獣の体当たりを丸腰で食らっても、 案外平気で戦うこともできるなどといった芸当も可能である。 つまり、これまでロイドが魔物の直撃を喰らっても無事だったことの正体は魔法による力だったということである。 だが、攻撃用には魔法よりも腕力による腕一本でやっているぐらいだからこの男、やはり只者ではない。
 それに、今後はその魔法の力のためにクロノリアへ行こうという指令まであるぐらいだ、 存在を疑っている場合ではなくなるだろう。 しかし、そこへと赴く前に魔法という力を行使する存在と対峙しているこの状況、一体何がどうなっているんだ?
「ロイド! この状況をどうすればいい!?」
 ルイスが物陰に隠れながら訊いてきた、相手が魔法とあらば知識のあるロイドだけが頼りか。 確かに、普通の人間が浴びたら間違いなくただでは済まないだろう……ロイドは考えた、 自分のように魔法に免疫のある生物、文化・風習的に慣れているとかでなければ文字通り必死である。 言っても、自分だって魔法による猛攻を浴びせられ続ければ結局は同じことなのだが。
 そこでロイドは考え、ライアに指示を出した。
「そうだ! ライア! 俺の言うとおりに矢を射てくれないか?」

 ライアは要領を得ぬまま、彼の指示通りに矢を射ることにした。 タイミングを見計らい、物陰から立ち上がったが――
「えっ、しまっ――」
 なんと、ターゲットが目の前に!  しかも何と、すでに魔法の発動準備は整っていた――
「構うな! 早く! 言った通りに撃て!」
 しかしそんな叫びもむなしく、ライアに魔法が直撃―― そこへロイドとシュタルは敵のいるであろう場所に向かって剣を振って牽制しつつ、崩れた彼女のもとへなんとか駆け寄った。 敵は2人が襲い掛かってくると思って慌ててその場から逃げたようだ。
「ライア! 無事か!?」
「ライア! しっかりして!」
 ロイドは敵のほうを向きながら、シュタルは彼女の脇に座り込んで心配そうに言うが、肝心の彼女は――
「……えっ、何? 今の何なの……?」
 まったく何事もなく起き上がった。
「えっ、無傷なのか!? 今のは直撃したんじゃないのか!?」
 アレスは驚いていた。
「ロイド! 今のは何だ!? ライアに何かしたのか!?」
 ルイスは訊いた。
「やっぱり無事だったか。 いや、それは俺にも詳しいことはわからないし、俺は特に何もしていない。 というより、そもそもライア自身がこういう体質なんだ、バカの一つ覚え染みた小手先の魔法が通じる身体じゃあないんだ」
 ロイドは冷静に言うが、ライアがどういうことなのか訊いてきた。
「”雪女”の妹だからな、同じ血が流れているのなら同じような魔法耐性を持っているんだろうなと思っただけだ」
「……お姉様も?」
 ライアはそう訊き返してきた。 いや、ならば……彼女は意を決したかのように立ち上がるとロイドの前に出て、 最初にロイドに指示された通りに弓矢を射ようと構え始めた。
「ライア! 危ない!」
「ライア! 早まらないで!」
 アレスとシュタルは心配そうに言うと、ルイスが言った。
「いや――今の現象とロイドの話の通りなら、彼女の特性を信じてみようじゃないか! それしかない!」
 すると、次々と魔法がライアに被弾! だが――ライアは何食わぬ顔で弓矢を構えたまま佇んでいた。
「……どうなっているんだ、ライア――」
 アレスは唖然としているが、シュタルは――
「ライアってすごいー! 魔法に強いんだぁー!」
 感動していた。そこへ――
「そこにいるか! <ライト・アロー!>」
 ロイドは敵のいるであろう場所めがけて光の矢を射る魔法を放った! 目標は外れたが――
「いたわ! 逃がさない!」
 ロイドの魔法のおかげで敵の居場所が一瞬だけ明るくなり、敵の存在を確認できたライアはその場所めがけて魔物に矢を射た!
「ロイド! 今の!」
 ライアは言うとロイドはひらめいた。
「ああ、どうやら今見ただけで3体はいるようだな。 よし、光が欲しいのなら待ってろ……」
 ロイドは力を集中させると――
「<ライト・アロー!> これならどうだ!」
 ロイドは特大の光の矢を天井に向かって射ると、その場はしばらく光によって照らされ、明るくなった。 確かに敵は3体いるようだが、いずれも人型の魔物のようである。
「仕留める! 喰らいなさい!」
 ライアはターゲットに向かって次々と矢を射た。いずれの矢も敵にしっかりとささったようだ。
「うまくいったか! よし! 魔法に気を付けて敵を仕留めろ!」
 ルイスは坑道の松明を手に取ってそう言うが、ライアは――
「いえ、魔法は気を付けなくていいみたいね、そうでしょ?」
 と、ロイドに言うと彼は答えた。
「ああ、俺がライアにやらせたのは”魔封じの矢”、つまりこいつらは今魔法を使いたくても使えない状況だ。 とくれば効果が切れる前にさっさと仕留めるだけだ」
 と、ロイドは左手を掲げて光魔法を展開したまま敵に接近していった、便利だな。