アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第15節 不思議な力

 一行はキマイラと対峙した。ところが、厄介とはいってもそこまで大変な魔物ではなく、 強い魔物どころか意外と拍子抜けするほどの強さでしかなかった。 特に俊敏さでは身体の大きさがある程度足かせになっているのか、 防具をきっちりと整えていて動きが取られるアレスやルイスならともかく、他の3名には及ばなかった。 それにアレスもルイスも装備の点でキマイラの攻撃ではそこまで痛手を負うこともなかった。
「怯んだぞ! ライア、背中だ!」
「えっ――どっ、どうやって!?」
 ロイドがライアに合図を送ると、ライアはすぐさまロイドのもとへと駆け寄った。 すると、ロイドは鞘に収めた鉄の大剣とその場にあった円柱状の石を利用してライアを上へと高く飛ばした。
「なるほど、これなら! いっけぇー!」
 彼女はそのままキマイラの背中を一突き、あとは成すがままだった。
「よし!」
 ロイドはそう言うとライアは訊いた。
「手慣れてる?」
 ロイドは頷いた。
「妹がな、そういうのが得意なんだ。 あいつは最初は今みたいに俺が飛ばしてやったんだが、 今じゃあ自力でハイジャンプして地上の敵を捻り潰す使い手だからな」
 妹……自力で跳ぶのか……今の結構高かったぞ――ライアや他の者は唖然としていた。

 問題は排除できただろうか、いろいろと魔物を倒してきたのだが、それでもこの妙に重たい空気は改善されない。 すると――
「今度はなんだか広い空間に出たみたいだな……」
 アレスはそう言いつつあたりを見渡していた。 近くに看板らしきものがあり、 ”第12鉱区大空洞”と書いてあったがこれまであった松明の明かりは僅かであり、 その広い空間内に至っては明かりが全くない漆黒の空間だった。 この闇の中には一体何が……
「ここが最深部だと言っていたな。 俺がここで働いていた時もここが最深部だった場所だが、それから変わってないみたいだ」
 ルイスはそう言うと、さらに続けた。
「それにしても一体どうしたことか、 いつもの活気がないのはもちろんだが、すごい重圧を感じるな……」
 確かに、暗くてあまりよく見えないけれどもそこらに転がっている亡骸は無残なやられ方をしており、 何とも言えない圧迫感を感じた一同。 亡骸は魔獣がやったにしてはおかしな遺体も多くあったけれど、そうは言っている暇もなさそうだ。
 すると――
「アレス! 隊長! よけろ!」
 ロイドがアレスとルイスを全力でドミノ倒しで押し飛ばした!
「くっ、痛っ……なんだ、ロイド――」
 アレスとルイスが立っていたところには火炎球が飛び交っていた。
「火!? 誰だ! こんなところで松明を投げ飛ばすやつは!」
 ルイスは怒りをあらわにしていたが、ロイドは否定していた。
「いや、違う! これは松明の火じゃない!」
 さらに次々と火炎球が飛んできた。 しかも氷の塊のようなものが飛ばされると、ロイドめがけて突っ込んできた。 ロイドはそれをとっさに腕でガードした――
「くっ……舐めやがって!」
 ロイドは何かを唱え始めた。
「喰らえ! <フリーズ・ショット!>」
 えっ、まさか……
「何っ!? 今のってまさか……」
 アレスは目を疑いながら訊くと、 ロイドは自分の手から放った冷気弾の効果を確認しながら言った。
「ちっ、はずしちまったか、仕方ないな――。 そうだ、今のは”魔法”だ」

「仕方がないな、面倒だからさくっと始末するか」
 フィダンの森でのキラー・スネークに出くわしたロイドとリアントス。
「なんだ、秘策でもあるのか」
「……まあ、特別何がどうってわけじゃないけどな。 とりあえず、お前は例のごとく打ち続けてくれ」
「おい、ちょっと待て。 言ってもやつは、仮にもあの”キラー・スネーク”だぞ? 本当に大丈夫なんだろうな――」
「ああ、むしろ”キラー・スネーク”だから、 やるんなら徹底的にやらせてもらうしかなさそうだな」
 そして、作戦は開始された。キラー・スネークは再び地面の中に潜ってしまっていた。
「さて、早速始めるか……」
 ロイドは再び石碑の上に飛び乗り、魔法を唱え始めた……
「それ……そうだったな、”エターニス”生まれのライト・エルフだったな。 いつも思うが、そんなんがいつも隣にいると思うとなんとも妙な感じだな――」
 ロイドは集中し終えると、一点めがけ、冷気の魔法をまとった大剣を大きく振りかぶり、 勢いよく切りつけた。すると、そこへキラー・スネークが現れ、先にロイドの剣がヒットした!
「おい! お前も突っ立っているだけじゃなくて手伝え! こいつは仮にもあの”キラー・スネーク”なんだろ!」
「あ、ああ――悪い、そうだったな……」
 リアントスはロイドのその所業に圧倒されていた。 そして、そのままキラー・スネークを始末した。
「ったく、ここまでやらせんな。とんでもない罠だったな」
「おいロイド、お前、今のは本当に魔法なのか?」
 リアントスは訊いた。確かに、今のでは魔法で未来が見えたことになる、 キラー・スネークの出現タイミングといい、ロイドの切りつけるタイミングといい、完璧すぎだ。
「ん? ああ、こいつは魔法じゃなくて、ちょっとした予測計算だ。 ったく、我ながらによくやるよ――」
 ロイドは何故か呆れている様子だった。