彼らは坑道へと入った。坑道内は各所に松明が灯されており、むしろ明るいぐらいだった。
途中までは作業員たちが安全を確保したエリアだったため、そこまでは普通に行くことができた。
しかし、途中からは非常線がしかれており、そこから先が危険地帯というか、未知のゾーンなのだろう。
「この先は非常に危険なゾーンです。
中には未知なる魔物を目撃したり、不思議な力でやられた者も多いという報告も受けているぐらいです。
くれぐれもお気をつけてください」
非常線である有刺鉄線の前に立っている兵士にアドバイスをもらうと、彼らはその先へと侵入した。
非常線を抜けるとなんだか空気が重苦しいようだった。
それでも松明が灯されてはいるのだが、これまでよりも若干暗めな程度でそこまで変わらない。
それにしても、もともとそれなりに魔物の登場する坑道なのだから、
ここを警備する兵士も作業員も戦闘能力が無いと鉄の採掘なんて無理なハズである。
つまりは別に魔物がいたところで作業員も兵士もそれだけのことなら難なくこなせるハズであり、
それこそ日常茶飯事のことであれば採掘作業にはそこまで影響を与えないハズだということである。
それならば、なんでこんなことが起きているのだろうか?
手こずるような魔物が急にどうしてやってきたのだろうか? 疑問は尽きない。
いや、それこそこのあたりではあまり見かけなかったハズのオーガなんて魔物が出没している――なんだか不穏な空気を感じるようだ。
「未知なる魔物に不思議な力……それがカギ?」
ライアはそう言うとルイスが悩んでいた。
「兵士がそのぐらいの話を握っているということは、
サイスもそのぐらいのことは把握しているということだな。
そうなると、どうしてサイスはこんな新米のメンバーにこんなミッションをやらせようと考えたんだろうなぁ?
俺としてはそれがどうしても引っかかるところなんだが……」
それについてロイドが言った。
「いや、恐らくサイスなら俺らだからこそ頼んでいるといった所だな。
これまで事件が解決しなかった理由と俺らが向かうことになった理由――すべて説明が付きそうだ。
もちろん、このケースであればサイス直々に向かってもいいハズだった。
だが――やつは執行官だからな、直接出向くわけにもいかず、どうしたもんかと悩んでいたことだろう。
だから、俺らがクロノリアへの計画がとん挫したのを好機ととらえて向かわせることにしたに違いないな」
えっ、心当たりがあるのか? アレスとルイスは訊いた。
「ああ、大いにある。俺とライアもいるとなるとサイスもこれはちょうどいいと考えたに違いない。
ただ――説明こそつくが、口で説明するにはちと難儀だな、
さっきのキラー・スネークの話と一緒でうまく説明できそうにない。
だから――それに関しての真相は自分たちの目で確かめてくれるといい。
そしたらキラー・スネークの話も一緒にしてやろう」
できれば先に説明をしてほしいがそういうことなら仕方がない、直接自分の目で確かめるしかなさそうだ。
トカゲにサソリ、さらには甲殻が硬くて攻撃がなかなか通じづらい魔物も存在する。
硬い魔物にはロイドの大剣やライアの大槍で、この坑道ではメジャーな魔物は一通り踏襲した。
「へぇ、ライアって結構重たい武器が扱えるんだぁ~♪」
シュタルは感心していた。重たいとはいえ、槍の扱いなら彼女でもそれなりにそつなくこなせるようだ。
特に重たい武器は硬い敵にも決定打を与えやすいのが特徴である。
「俺は槍はニガテだな……」
アレスはそう言うとロイドが訊いた。
「お前、剣だけなのか?」
「後は――パワーが出る武器で言えば斧あたりかな。
そう言うロイドは剣類以外では何が使えるんだ?」
「俺は武器はあんまりこだわらないな、一通りのものだったらたいてい扱える、それは接近武器しかり遠隔武器しかりだ。
剣を使っているのは武器をいくつか持ってあちこち行く上では持ち運びしやすいのをチョイスしただけのことに過ぎないな」
アレスは舌を巻き、シュタルは尊敬していた。一方でライアは感心している。
「流石ゴールド4段の名は伊達ではないってワケね」
そしてその後、異形の魔物が現れるまでにはそう時間がかからなかった。
「なんだ、あのトカゲは!」
今までの体格のトカゲでもせいぜい1メートル足らずであった。
しかし、アレスが声を荒げるほどのそいつは、明らかに1メートルを軽く超える大きさの赤いトカゲだった。
「あの赤い色の……まさか、シュリアン・リザードかっ!?」
ロイドはそう言った。シュリアン・リザード、
太古は今のシュリウス遺跡周辺に存在していたとされる、非常に知恵のある魔物らしい。
絶滅したはずなのに、何故今になって!?
「なるほど、これが問題の魔物ということか……」
隊長は言った。もちろんこんなのは一部にすぎない――誰しもがいやな予感をしていた。
シュリアン・リザードとて異形な魔物ではあったものの、
これから先に登場する魔物に比べたらまだまだ序の口だった。
なんとかそのトカゲを倒して先へと進むと、今度は大きな影に出くわした。
「なんか、多くの魔物が近づいていないか?」
アレスは注意を促していた、曲がり角の壁には複数の魔物の頭の影が映っていたのだ。
だが、ロイドは――
「違う! この感じ……魔物は一体だ!」
「何だって!? どういうことだ!?」
ルイスがロイドに訊き返した。えっ、まさか……ライアは叫んだ。
「合成獣!」
その声にみんなはびっくりして振り返った。
「そんなバカな! それというのは確か作られた魔物だといわれていたハズだぞ!
もし、そんなやつがいたら……」
ところがその影の主が現れると、ルイスの否定もむなしく、
そいつは紛れもない合成獣”キマイラ”であることがすぐに分かった。
蛇やライオン、犬、馬……さまざまな魔獣や動物の頭を持っている、ザ・異形の魔物である。
それらの生物の特徴を兼ね備えているため、足もそこそこ速いし、身体も丈夫にできている。
「そんな!? どういうことだ!?」
全員、そのような魔物の姿に驚いていた。しかし、やることはただ一つ……
「たとえどんな相手だったとしても俺たちはやるしかないんだ!」
アレスは剣を構えてそう言うと、ほかのメンバーも次々と身構えていた。