「よくもあの攻撃で無事でいられるもんだな」
アレスが感心していた。
「確かにな。今回ばかりは俺もダメかと思ったが……まあ、何度か修羅場をくぐってきただけのことはあったってところだな」
何度か修羅場をくぐってきた? 何人か興味を示すとロイドは話した。
「いろいろあるってことだな。こんな窮地に陥ったことなんていくらでもあるんだけどな――。
ただ――あの時に比べたらまだマシなほうか――」
あの時とはハンターの仕事でアーカネルの東部にあるフィダンの森にいた時のこと、
とある特殊な依頼を受けるためにその森の奥深くにロイドは仲間と一緒にやってきた。
フィダンの森はアーカネルの北東の出入口となっているアルティ門の先にある森である。
「クライアントもずいぶん面倒な場所を指定してきたもんだ」
「まったくだ。何故ここまで警戒しているんだろうか」
とりあえず、ロイドとその仲間のリアントスは目的の場所へとたどり着いた。
そのクライアントは接触を極度に避けているらしく、
”フィダンの森の奥にある石碑”で依頼内容を伝えるとのこと。
ところが、そこまでやってきたものの、そいつの姿は見当たらなかった。
ところでフィダンの森と言えば、アーカネルに住む人なら間違いなくアレを想像する。
あの森には4~5年ぐらい前から伝説の竜の末裔と言われる者が存在しているという。
その正体は大蛇、”キラー・スネーク”と呼ばれている。
ところで、今回の依頼はそいつに深く関係していた。
「なあロイド、今回の依頼ってなんか変だよな」
「まあ、変って言ったら変だよな、肝心の約束場所にヤツがいない」
「ああ、それもそうなんだが、最初を考えると尚更な……」
最初と言えば……この依頼を受けるときだ、
何故かクライアントはロイドとリアントスを指名しているらしい。
それもしかも場所と時間はあえてこの場所で夕暮れを指定している、
夜の森は特に危ないのに何を考えているんだろうか――
いや、むしろその時点で気が付くべき内容だったようだ。
「ロイド! これは罠だ!」
ロイドもピンと来た。
その当時、同業者が次々と死んだり大怪我をしたりというような事件が発生している。
所謂、ハンター狩りというものが横行しているという話があるのだが、これもそのひとつなのでは……
そのときだった、やつが近づく音が聞こえてきた。
「リアントス! 石碑の上が安全だ!」
ロイドは注意を促したが、そう簡単に聞くようなやつでもない。
「墓碑の上に立つなんて縁起でもない、俺は遠慮しとく」
墓ではないが墓扱いしているリアントス……
しかしそれも一理あった、リアントスにとってはその石碑の建てられた目的を考えると、
あまりよろしくない話でもあるからだった。
やつはロイドの背後から忍び寄ってきた。
その気配にはもちろん気が付いているロイドだが、彼はあえて振り向かず、そのままじっとしていた。
それは何故か? 既にこいつを斃すための策を練っているからである、これは計画のうち。
そして、やつはロイドを激しく丸のみにしようと大きな口を開け、振りかぶっていた。
だが、ロイドはタイミングを合わせて素早く避けると、リアントスはキラー・スネークの目を狙って矢を放った。
そして、そのまま連射した。
「やっぱり正解だったな、連射機構ついているやつ持ってきて」
リアントスは言うとロイドはもんくを言った。
「連射機構ついているやつしか持ってねえだろ。言ってないでさっさと倒せよ」
そう、彼の得物は自動弓、”ボウガン”というものである。
手動のものと違って射出機構を備えた作りとなっており、なんとも高度なギミックを採用したそれが彼のメイン武器である。
「逃げてどっかに行っちまったじゃないか。どうする気だよ」
ロイドはもんくありげに言うとリアントスは言った。
「伝説の竜の末裔だからな、ただでくたばるぐらいならこれほど簡単な話はないってことだろ。
そんなこと言うんだったらお前が何とかしろよ」
「そうだな、”ドラゴン・スレイヤー”があれば簡単に倒せるかもしれねえけどな」
「お前のその剣で斃せばそいつが”ドラゴン・スレイヤー”になるんだよ」
「だったらお前のその弓を”ドラゴン・スレイヤー”にしてみろよ」
……なんとも緊張感のない2人である。
とはいえ、相手がどうであれモチベーションを保つことはいいことで、
このやり取りについてはこの2人の場合の方法だった、つまりはありふれた光景である。
”ドラゴン・スレイヤー”というのは、このアーカネリアスに住まう人間なら誰でも聞いたことがある伝承で、
大昔に邪竜をそいつで葬ったという逸話があった。
”ドラゴン・スレイヤー”という名前の通り竜殺しの能力を秘めているため、
竜の末裔であるキラー・スネークにももちろん有効のハズである。
一説によると、その邪悪な竜の末裔がこのキラー・スネークだとする連中もいるようだが、
もちろんそれが本当の話なのかどうかはわからないし、いずれしてもそんなことはどうだっていい、
敵として出てきたのならさっさと始末するまでである。
「以上だ」
ということでロイドは一旦話を切った。
「えっ、ちょっとちょっと、どうなったの?」
シュタルは訊いてきた。
「どうって――今の俺を見ての通り、どっちがやられたのか一目瞭然だと思うが――」
「そういうことじゃなくて――」
ライアまでもが訴えてきた。しかし――
「とりあえず、秘密にしておこう」
「えっ、ちょっと、何でだ!」
アレスやルイスまでもが追求してきた。
「何で……いい質問だ。
答えは簡単、うまく説明できそうにないからだ。
時が来れば続きを話してもいいが――そんな日が来るかどうかは何とも言えないな」
……とか言いながら、後にその説明が簡単にできることとなろうとは、
このときまったく予想していなかったロイドだった。
そして、それこそがまさにクロノリアに行くことになる要素であるとは未だ知る由もない――