アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第10節 事件

 パタンタの町――
「何だ? 何だか様子が変だぞ?」
 ルイスはそう言いながら町の中を突っ切っていった。 アレスたちもそれについていく。
 しかし、やたらと人ごみが多く、町がどんな場所とか言っている場合ではなかった。 この町は街道沿いの町、旅人の休憩所みたいなもので民家は少なく、存在している施設は限られている、 それだけの町なはずなのに、これは一体どうしたことか。
 そして、この人ごみの原因となっているその場所へとたどり着いた。 それは彼らがやってきた町の東側とは反対の、西側の町の入り口だった。
「こっ、これはどうしたことかっ!」
 なんと、街道へ通じる道が崖に崩れて通行止めとなっているではないか。
「お疲れ様です、ルイス少佐。どうやら魔物の仕業のようです。 しかし、これほどのことをしでかす魔物とは一体どれほどのものなのでしょうか……」
 そこにいたアーカネルの兵隊が言った。
「くっそ、ということは通れないのか……」
 ルイスはそう言うと兵隊は答えた。
「ええ、この分だと1週間はかかりそうですね。 最近は魔物の動きも活発化していますのでさらに時間がかかることが懸念されますが――」
 いずれにせよ、ここが通れなければクロノリアへ行くことは出来ない。 特にこれが魔物の仕業となると、 わざわざ他のよく分からない道を探していくのは逆に危険である、つまり――
「今回のミッションを断念するほかなさそうね」
 ライアが言った。そういうことになる。

 復旧作業は継続されてはいるようだが、魔物もひっきりなしにやってきてはその都度作業が止まる。 これでは当分ここを通れそうに無い。 ここより西には”アルトレイ”という、この大陸の西の玄関港がある。 そこからの貿易も途絶えてしまっているため、アーカネルの経済は大打撃だ。 これからいろいろと結構大変なことになりそうである。
 そして彼らのこの状況、一体どうしたらいいものやら。
「アーカネルの南のランペール港から南の海を経由して西の大陸に行けるんじゃないか?」
 アレスは言うとロイドは首を振った。
「この時期、南の海は時化ている。 それに合わせてランペールも港を完全に閉鎖しているからまず無理だな。 しかもランペールから西に行く航路は半月に1本あるかないかだ、距離が遠くて需要が薄いせいだな。 いずれにせよ、向こうから行くという選択肢は得策とは言えない」
 そうか――アレスが落胆していた。すると、彼らに知らせが。
「ルイス少佐! サイス様より伝言です!」
 ここの街道の警備を行っている兵士たちが今回のがけ崩れをいち早くサイスに知らせると、 その際にパタンタで足止めを喰らっている彼らに新たな指令が下ることとなった、それは――
「アレス! クロノリア行きは中止、変わりに”メタルマイン”で魔物討伐だ!」
 ついにそこでの魔物討伐をアーカネル騎士団の一員である彼らが引き受けることとなった。

 メタルマインでの魔物討伐、一応、人手は足りているハズなのだが何かあったのだろう――一向に解決する兆しが見えない。 人手は十分に足りているはずで、これ以上人員を割くのは得策ではない……恐らくサイスはそう考えていることだろう、 人が足りないのなら追加投入もあってしかるべきなのだがそれもないということからすると、 ここにはだいぶ人を追加しているということ……ルイスは彼らにそう説明していた。 ということはつまり――人手だけでは解決するような問題ではないからサイスは悩んでいるんだというのが実際のところということか。 そんなことが起きている場所にて、問題を彼らで解決させることはできるのだろうか。
 ところで、彼らがそこへ向かうには少々大変なことになっている。 目的の場所はメタルマインのある”メタルマイン・シティ”だが、そこへ通じる街道がオーレストからしか伸びていないため、 早い話、一旦そこまで引き返さなければならないということである。 パタンタに着いた頃には既に日も落ちようとしていたため、まずはここで一夜を明かし、翌朝は予定通り来た道を引き返す。 オーレストに着くころには日もずいぶんと高い位置にあったが、何気にメタルマイン・シティまでの距離は長いため、 ルイスはとあることを考え、ここで一晩を明かすことを考えることにした。 だが、泊まるのはそこではなく、距離も近いアーカネルにリターンである。 経費節約という側面もあるが、やはり彼らにとっても自宅でお休みするのが一番だろう、 自宅と言ってもアレスの家なんだが……本当に自宅で休んでいるのはアレス自身とルイスだけである。
 そして翌朝、再び彼らはオーレスト門へと集合した。 だが、ルイスだけは少し遅れての登場、彼の後ろには――
「馬車ですか!?」
 と、アレスは驚きながら訊いた。
「外出するからには使用許可もあったからな、だからこの際しょっ引いてくることにしたんだよ」
 だったら何故最初から使わない――ロイドはそう言うとルイスは答えた。
「いやいや、みんなの実力がわからないから最初だけ歩いて魔物を斃しながら行くことを考えたんだ。 パタンタまで着いたら馬車を使って一気に西に行くことを考えていた、本当だぞ!?  なのに……帰り道も結局がけ崩れの混乱のせいで馬車がチャーターできなかったしな……」
 まあ、そう言うことにしておこうか……ロイドは少々呆れていた。 しばらくは実力を試される期間が続くということらしい、止む無しか。

「わー! 馬車早ーい!」
 シュタルは興奮していた。アレスも馬車は久しぶりで、今は御者役――少しウキウキしていた。 街道上には魔物もいるが、ほとんど関係なくなぎ払っていった。 しかし、どうしてもそれが通用しない相手が現れると――
「馬車を止めろ。あれは何だ?」
 ルイスはそうアレスに促した。 サイズの大きなものが街道上を動いていて、彼らのもとへと向かってくるようだ。 それにロイドが気が付いた。
「あれはオーガだ! 何でこんなところにいるんだ!」
 この辺ではあまり見かけない種類の魔物だった。 オーガとは要するに巨人のことで、持っている棍棒で力任せに攻撃を仕掛けてくる。 身長は2.5メートルといったところか、大きい……。
「とにかく、魔物とあらばやるしかないようだな……」
 ルイスは決断した。しかし、あんなの相手にどうやって戦おうか。 いや、待てよ……? メタルマインの魔物討伐が滞っている理由もこういう未知の怪物が発生しているからなのだろう、 それは本当に困った、なんとも大変なミッションになりそうだ。
「新米騎士にはちょっと荷が重過ぎるような気がするけど、やるしかなさそうね」
 ライアがそう言うとルイスは答えた。
「そのとおりだ、騎士でもハンターでも何でもいい、倒せることが重要だ」