アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第8節 マジメなアレス

 シュタルはアレスの家で一日を過ごした、彼女にとって”キゾク”の家というのは初めての体験である。 シュタルの家はエドモントンの農家の家だから広いと言えば広いのだが、”キゾク”の家というのとはまた次元の異なる広さだった。 とにかく彼女はここでわざわざ宿舎を借りるのも面倒だから、今後はここに住もうかと考えていた、 それはロイドが最初に「無駄に広いだけのアレスの家に来いよ」
 朝7時、4人で朝食を取ると早々にオーレスト門へと集合した。
「よーし、みんなそろったな。さあ、行くぞ!」
 そのうちルイス隊長が来たので互いにあいさつし会うと、まずはオーレストへ向けて出発した。

 外の世界は平和そのものだった。 魔物が相変わらず登場するのはこの世界の常だけどそれほど活動的でもなく、 そんなに強いとも言えない種類しかいないので、安全と言えば安全と言えそうだ。 ただし、
「最近の魔物は何か様子が変だ、今までの空気とは何かが違う」
 と、ロイドは言った、言われてみれば魔物の種類も少しずつ増えてきているような――それは誰しもが感じていたことだった。
「いずれにしても用心するに越したことはないってこった」
 隊長はうまくまとめた。その通りと言えばその通りなんだが。

 オーレストへ向けてしばらく歩いて行くと遠目から狼2匹と出くわした。狼は円を描くような動きで彼らに迫ってきた。
「奇襲か?」
 アレスは構えた。
「どうやらそうらしいな、後ろに気をつけろよ!」
 隊長はそうみんなに促した。しかし――
「隊長、その後ろからも群れが迫っています」
 ライアは気がついたようだ。シュタルは後ろを振り向くと、魔鳥の群れ3匹が飛来してきている光景が――
「みんな、こっち!」
 シュタルは魔鳥の軌道から挟まれない位置を考えて、そこに皆を誘導した。
「ロイド、頼んでもいいかな!?」
「ああ、俺に任せておけ」
 ロイドは頼りになる、彼には狼をひきつける役を任せたのだった。

「へえー、ロイドってベテランのハンターなんだぁ~」
 前日の夜、ルイス隊長がいないところでさらに突っ込んだ話をしていた。
「まあ、5~6年は……ベテランかな、一応」
 ロイドは12のときから学生兼ハンターとして活動しているらしい。
「でも、アーカネルの法律じゃあ中学生のハンター活動は制限されているんじゃあ……」
 しかしロイドはアルティニア出身、中学生からでも許されていると言う。
「向こうは雪国、アーカネルとはいろいろ事情が違うからな」
 どうやら雪という厄介なもののせいで土地感のある使い手が必要とされるのだ。 さらにアーカネルとは違って騎士団・兵士団の詰め所が少ないこともあって人手が足りないというのも一因である。 もちろん、学生でも出来るタイプの仕事だけに限定されているのは言うまでも無いけども。
「ロイドのハンター初階級は何なんだ?」
「俺は”ブロンズ・スターター”だ」
 ハンターにもお城の騎士などと同様に階級があり、 その初階級といえば最下位級から ”ペーパー・ハンター”、”レザー・ハンター”、”ウッド・ハンター”、”ブロンズ・ハンター”あたりになる。 もっと実力のある人は”アイアン・ハンター”と言う人もいるけども、だいたいこの辺りが限界か。
 ロイドは”ブロンズ・スターター”ということは”ブロンズ・ハンター”が初階級ということ、 つまり下から4つ目なのでそれなりに実力が評価された者だということである。
「じゃあ今の階級は?」
 ライアが訊いた。
「今は”ゴールド4段”だ」
 ハンターの階級は”ペーパー”、”ウッド”、”レザー”、”ブロンズ”という大まかな階級の中に、 さらに段位が10段階で別れている。 ロイドも最初は”ブロンズ1段”からはじまり、 とにかくがんばって10段まで昇格、そして次は”アイアン1段”というふうに昇級していくのである。
 ちなみに”ゴールド”までの階級は”ペーパー”、”ウッド”、”レザー”、”ブロンズ”、 ”アイアン”、”スチール”、”シルバー”、”ゴールド”という序列があり、 ”ゴールド4段”はグレード8ランク目の4段にあたることとなる。
「すごいわね、私はまだ”スチール6段”なのよ」
 ライアはそう言った……貴族の家柄の人なのにハンターをやっているとは意外なことである。 しかもグレード6ランク目の6段階目なのでそれなりに経験していることは確実である。
「私はまだ”アイアン”になったばかりなのに……」
 と、シュタル。彼女もまたハンター業は初心者を卒業していっぱしの仲間入りを果たしたばかりだった。
 また、ゴールド以上では”プラチナ”、”グレート”、”マスタリー”、”リミテッド”、”レジェンド”、”ゴッド”と、 ここまでは接尾辞にハンターの名を冠するグレードとなっているが、 残りは”カイルフレアザード”という固有名詞が充てられたグレード名があり、これが最上級グレードとなっている。 なお、ハンターの昇級昇段については日々の業務でこなせるのだが”グレート・ハンター”以上の昇級については昇級試験を行う必要があるため、 一筋縄ではいかなくなるらしい。 また、”カイルフレアザード”の名前は昔に存在していた伝説のハンターの名をとって付けられた名前らしい。
「そっか、私も頑張んないと、だね……。じゃあ、アレスは?」
 シュタルはそう訊くと彼は戸惑っていた。
「えっ……あれ……? ということはもしかして……」
 いや、もしかしなくても――ロイドは言った。
「どうやらアレスだけはハンターをしたことが無いらしい」
 それに対してアレスは言う。
「で、でも、騎士は公務員だから内職は出来ないんだろ?」
 しかし――
「えっ、そうだったっけ?」
 シュタルはそう言った、それは間違いではないのだけれども――
「そうね、騎士団規定集には”ハンター兼業については、 本来の業務遂行に際して支障が無ければこの限りではない”とあるし、 ”特定の魔物討伐などハンター活動との切り分けが難しいため、 ハンター業務の一部の活動を除き、それを奨励する”なんてことも書いてあったかしら?」
 と、ライアが言った。 実際、それについては昔、大きな混乱を招いたこともあって、こういう風に規定が変わったんだそうな。 確かに、ハンターのギルドという組織で討伐指定としている魔物なのか、 アーカネル騎士団で討伐指定としている魔物なのか、 はたまた両組織で指定されているのかどちらでもないのかはっきりしていない場合が多い。 特に両組織から討伐指定されていることはよくあることで、 そのために混乱を招くことも多く、その間をとって現状の形となっているのだという。
「というか、ランバートはしっかりハンター活動しているんだが。 俺があいつと知り合ったのもあいつがアーカネル騎士になった後のことだからな。 言い換えれば、将軍様と呼ばれる方までやってらっしゃるわけだから、 アレスも世のためと思ったら組織に関係なく魔物討伐のひとつはやってみてはいかがだろうか」
 と、ロイドがアレスに訊いた。
「わ、わかった、規定集をもう一度じっくり読んでから考えさせてもらうことにする……」
 彼の場合はマジメすぎるのが玉に瑕である、決して悪いことではないのだが。