アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第7節 ロイドの可愛すぎる妹の話

 今度の場面は先ほどの話から2年後である。 アルクレアが正式にアーカネル騎士となり、”風雲の騎士団”としての活動も順調だった頃の話だった。
 ロイドの実家はアルティニア、アーカネルのアルティ門から出て辿り着く遥か北東の雪国。 冬真っただ中のこの季節で真夜中の時間、天気は吹雪によって荒れに荒れていた。 そんな中――
「よう、ただいま! ロイド、元気にしているか?」
「ロイドた~ん♪ 久しぶり~♪」
 実家でゆっくりくつろいでいたロイドは耳を疑った、家に入ってきたのは父親のティバリスと、それから――
「げっ! お前はあの時の女!」
 その声の主に恐る恐る相手を確認すると案の定”あの時の女”、アルクレアだった。 ロイドは当時7歳、アルクレアは19歳なので12個も歳が離れていることになる。
「オイオイオイ――ロイド、これからお前らしばらく一緒に暮らすことになるんだからな、仲良くしてくれよ」
 ティバリスは呆れ気味にそう言った、ロイドは意味がわからなかった。
「仕事でな、彼女はアルティニアでの任務をすることになったんだがせっかくだから家に誘うことにした。 だが、俺はあっちに戻らなきゃいけないから、じゃあな」
 あっちとは……アーカネルまで戻るということらしい。その状況にロイドは危機感を覚えた。
「ちょっ、待て! オヤジ!」
「ロイドた~ん、逃がさないわよ~? どうしてくれようかしら――こいつめ~!?」
 アルクレアはロイドを揶揄い、ロイドがギャーギャー言っていると、奥の寝室から誰かが目をこすりながらやってきた。
「う~ん……ナ~ニ~?」
 その子はまさに妖精みたいな小さくて可愛らしい女の子、アルクレアはびっくりした。
「あっ、えっと……」
 もちろんこの女の子のことも既にティバリスから聞いたことがあったアルクレア、名前は……
「……ネシェラだ」
 ロイドがそう言うとアルクレアはピンときた。
「そう! ネシェラちゃんだ!」
 その2人が会うのはこれが初めてだそうだ。 彼女はネシェラ=ヴァーティクス、当時3歳、ロイドには4つ下の妹がいる――アレスとの話でも妹がいると言っていたな。
「何この娘! カワイイ~!」
 アルクレアは今度は彼女に食いつくと、ロイドは難を逃れられたかと思ってほっとしていた。
「えっ……お姉ちゃん誰?」
 ネシェラはキョトンとしていた。
「例の嵐のような女だ」
 嵐のような女……しかし、アルクレア本人はあまり気にしていないようだ。
「アラシ……あっ、アルクレアお姉様!」
 それだけでわかるとか……。
「起こしちゃってゴメンネ~。どれ、お姉ちゃんと一緒に寝よっか?」
「……ウン!」
 お姉様は片手でネシェラを抱きかかえて立ち上がった。
「よーしよし、じゃあ寝よ! ロイドたんもおいで!」
「えっ……」
 もう片方の手でロイドの手を引っ張った。
「わぁい♪ お兄様も一緒♪」
 ネシェラは喜んでいた、可愛い……んだがこの娘――

「という感じで毎日暮らしたってわけさ」
 一緒に遊んだり勉強したり、ご飯食べたりお風呂に入って寝たりと―― ロイドとしては一生封印しておきたいような恥ずかしい話だったのかも知れない。
「仕事のほうもそうさ、俺やネシェラと一緒に実地訓練だとか言って一緒に3人で雪山登ったりしたな。 なかなか魔物もしぶとかったけど……あの女の剣さばきはすさまじかったな」
 魔物? 剣さばき? ライアはどんどん訊いてみた。
 メタルマインでの魔物騒ぎ、もしかしたらその時から始まっていたのかもしれない。 その時も数か所で魔物の局地的な出没が問題視されていた。 その拠点としてドミナントにはエルヴァランが、クレメンティル大聖堂にはティバリスが、 そしてレギナスはリオルダートやランペールに。 もちろんアルティニアもそのうちの1つで、アルクレアはそこに来たのだった。
「あの女は”魔法”が使えるようになっていた。 どうも吹雪系の魔法との相性がいいらしく、よく魔物を氷漬けにしていたっけ。 剣技の殺傷力をより高めるためにと吹雪の魔法剣技を使ったりと、自由自在に吹雪を操っていた」
 アルクレアを”雪女”と呼ぶ理由はそこにあるようだ。しかしそれが”魔法”の力によるものだったとは――ライアはあっけにとられていた。
「もしかしたら”雪女”に限らず、他も全員”魔法”が使えるのかもしれないな」
 いずれも”魔法”には縁のない環境に住んでいたのにどうやって!?
「使える原因としてはクロノリアに行ったことかもしれないな」
 クロノリア――まさにロイドたち4人も同じ道をたどっていることになるようだ。 だからなのか、サイスはロイドたちにこの任を託したのかもしれない。
「しかし、未だにどうやってクロノリアを説得したのかがわからない」
 どうやら、一筋縄ではいかなそうだ、それほど大変なのは容易に想像がつく。