アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第5節 風雲の騎士団

 次はアレス=ティンダロスの自己紹介。
「ティンダロスってまさか、あのティンダロスか!?」
 そしてロイド=ヴァーティクス、 次がシュタル=ヴィームラス……この顔触れはそういうことで、 ルイスが驚くのも無理もない。
「私はライア、ただの騎士よ」
 先ほどアシュバール貴族の話をしていたことが不満だったようだ。 確かに、なんであんな家の令嬢が騎士なんかやろうとしているのかが不思議だった。
 しかしそこに不思議がっている余裕もなく、もはや息つく暇もなかった。 それは次にルイス中佐が言ったことだった。
「サイスのやつ、”メンバーがこうなった”とはよく言ったもんだが、 これはどう考えても出来すぎだろう、こんな4人と一緒とはな」
 4人?
「あなたたちの知る”アルクレア=キサラギ”は、”アルクレア”お姉様のことなのよ」
 えっ……それってまさか――
「お前があの”雪女”の妹だったとはな」
「えっ、”雪女”って何よ……」
 ロイドはだしぬけに言うとライアは呆れ気味にそう訊いた。 ロイドはそのアルクレアっていう”雪女”をよく知っていた。 しかもそれがライアの姉で、本名アルクレア=アシュバールだったとは。
 ルイス中佐もアレスもこのメンバーに驚いていたが、 シュタルはそれ以上で、ショックを受けて泣いていた。
 シュタルはエドモントンの出身、アーカネルから北にあるイナカの町である、例のエドモント門に通じている農村だ。 イナカゆえにあまり情報が入ってこないこともあるのだろうが、両親からこの話を、父親の話を聞いたことが無かったのだろうか、 なんとも嬉しかったらしく、涙を流して喜んでいた。
 ライアはシュタルの隣にくっついて背中を優しくさすっていた。

 ところで”こんな4人”とはどういうことか、それをこれから説明するわけだが、それにしてもなんともできすぎた話だった。 この4人の共通点として、まずはそろいもそろって年齢が18で、今から12年前に親または姉がかつてゴールデンチームと言わしめた騎士団、 ”風雲の騎士団”を結成していたこと、そしてあの4人は公式では7年前に全員行方不明または死亡とされている状態である。
「今のこのメンバーを編成したのはサイス、 あいつはそれぐらい知っていてもおかしくはない。 でも、この妙な共通点はあまりにできすぎている」
 ルイス中佐は顔をしかめていた。 特にそろいもそろって同じ年齢とはあまりにもできすぎている、 親または姉が同じ”風雲の騎士団”に属していたため、何かしらの司令の上で行方不明になったことは確実だろうが。
「そんなメンツを引き連れてクロノリアに行けという指令……わけありのようだがどういうことだろうか?  まさか、サイスが提案したんじゃあないだろうな?」
「で、でも――サイスさんは抵抗があるとか言ってたけど……」
 アレスはそう言うとルイスは改めて訊いた。
「ロイド、サイスの話じゃあ”クロノリア”はロイド向きと言っていたよな、何故だ?」

 アレスは考えていた。
「学校じゃあ西のドミナント大陸にあるエルナシア連山の中では最も標高の高い山がクロノリアの山で、その山の5~6合目に町があるって教わったけど――」
 それぐらいなら誰だって知っている知識だが、それ以外のことはあまり知られていない。
「クロノリア、またの名を”時空都市クロノリア”、とんでもない所にある碧落の都だ」
 ロイドがそう言うと、今度はライアが訊いてきた。
「時空都市? 時空を操る都ってこと?」
 クロノリアへ行って具体的に何をするのかというと、技術というか、 町が有している一部の力を提供してもらいたいという依頼だそうだ。
 すると、ロイドは鼻で笑った。
「何を言うかと思えばそういうことか。当然、無理に決まっているだろう。 しかし、重役会で誰がそんなことを言ったんだろうな、 逆にクロノリアを知っているならそんなこと言うハズがないんだけどな、 あのサイスさえ抵抗があると言っていたぐらいだからな」
 続けざまに説明したロイド、それに対してルイスが訊いた。
「無理とは? そんなに説得が大変なのか?」
 それに対してロイドは大真面目に答えた。
「そうだな、俺やサイスが完全な決定権を持っていたら、そんな案さっさと破棄してしまうな。 大体、町が有している一部の力を提供してもらいたいっていうが、その力が何だと思っているんだ?  言っとくが誰だって知っている力だぞ、使い方は知らないだろうけどな。 そう――その力ってのはまず間違いなくあれのことだ――”魔法”っていう力な――」
 何!? ”魔法”!? ルイス中佐をはじめ、みんなが驚いていた。 ロイドが言うには、アーカネリアスでは”エーテル”を”魔法”として行使するための力に大きな制限をかけていて、 その役目を担っているのがクロノリアなのだそうだ。 クロノリアの民はみんな”魔導士”と呼ばれる存在、 アーカネリアスで魔法が使える者はこのクロノリアと”エターニス”などの民だけだそうだ。 クロノリアもエターニスも精霊族しか分布していないため、必然的に精霊オンリーの力ということになる。
 すると、ルイスは話をし始めた、アーカネルでは比較的有名なおとぎ話だった。
 昔、魔法を使った大きな対戦があり、 終戦後にはその過ちを繰り返さないためにも魔法の力は人々の間で徐々に制限されつつあり、 いつしか魔法の存在さえも忘れ去られていった。 その話にロイドが付け加えると、精霊たちもそれに応じて魔法の力に制限をしていったということらしい。
「過去の過ちを封じるため……そして、今回の仕事は……」
 アレスも理解していった如何に今回の仕事が難しいことなのかを。 早い話、過去の過ちを封じた張本人たちにその力を提供してもらおうという内容だということである。
「それは無理だろー!」
 今度はシュタルが声を上げた。
「下っ端はつらいわね、そんな仕事を任されるなんて」
 ロイドはそう言おうとした皮肉をライアが先に言った―― この女、ただの貴族の女というわけではなさそうだ、ロイドはなんだか関心を示していた。

 クロノリアでどうこうするという話は保留、 とりあえず、この”アルクラディオス大陸”から西の”ドミナント大陸”に渡らないといけないので、 それから考えることにしよう――今日はこれにて解散ということになった。
 ティンダロス邸へ帰ったのは家主のアレス、ロイド、それから――
「私もいっかな?」
 シュタルは宿舎はまだエドモントンから移していないらしい。
「だったら、無駄に広いだけのアレスの家に来いよ」
 ロイドはそう言うとアレス本人は何も言わずに軽く笑っていた。 だが、彼女はともかく、こちらの人は流石にみんな驚いた。
「しかし、何で?」
 アレスの問いにライアは答えた。
「帰る家がないの。だから」
 アシュバールという非常に大きな家に帰れない? オイオイ、もしかして――
「そう、家出したの。だからお願い」
 アレスは「別にいいけど」とは言ったけど、家出発言にはあっけにとられていた。
「家出……」
 アレスには理解し難かった。でも、ロイドにはその意図がすぐにわかった。
「そうか、よろしくな、”ライア”」
「あら、そう呼ばれるのも面白いわね」
 ライアは楽しそうにそう言った、もしかして気に入ったのだろうか。

 適当に夕食を済ませ、各々、部屋……多いのでどこでも自由にだそうだ。 すると、ライアはロイドのいる部屋にやってきた。
「何だ?」
「”雪女”の話でも訊こうかしら?」
 ロイドは納得した、そういえばこいつはあの”雪女”の妹だった。
 しかし容姿はともかく、性格はあまり似ていない姉妹だった。 妹は先ほどのように皮肉めいたことを軽く言うような人間なのに、その”雪女”のほうはというと――