アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第4節 予兆

 とにかく”タスクライノ”と呼ばれる角獣を倒した。 あの魔獣の背中の皮膚は硬く、しかも自身の体当たりの衝撃に耐えるために分厚くなっているため、 大剣のような大きさ・太さ・強度のある武器でなければ背中を貫くことは難しい。
 しかし、その効果が甘かったせいでひきつけ役のアレスが危なかった。 だが、シュタルが思わぬ活躍をしてくれたおかげでそれを乗り越えることができたのだった。 普段は見えてない腹のほうの皮膚は柔らかくて弱点となっているため、 まさにスピード・ファイターのなせる業といったところか。

 それから……あの女騎士に連れられて、今朝集まった城のホールに戻るとそこにはサイスがいた。
「どうも、お疲れ様です」
 だが、それに対してロイドが――
「テメーが先に言うか普通?」
 というと、それにはアレスも女騎士も焦っていた。
「あっ、悪い、ついついクセで――今のは忘れてくれ――」
 ロイドは悪びれた様子で言うとサイスは普段通りの面持ちで答えた。
「ははは、私はデスクで仕事をしているだけですから、お気になさらず」
 サイスは普段通りにそう答えた。
「それより、角獣の背を貫いたそうですね」
「えっ、知っているんですか!?」
 アレスはそう言った、驚くのもムリはないが、
「いえいえ、これはただの推測ですよ。 角獣が現れたとの報告があり、現場にロイドさんがいるとなればそうするだろうと思っただけですよ」
 サイスはそう答えた。
「まさか、ロイドとサイスさんって知り合い!?」
 アレスは確信を突いてきた。
「はい、ある意味兄弟のようなものですよ、実際は親戚ですけどね」
 親戚――つまり、サイスもライト・エルフ系の種族、なんとも意外な話だった、 どう見ても人間族のようだがロイドもどちらかというと人間族っぽいので外見だけではなかなかわからないものである。 しかし、”テメーが先に言うか普通?”という発言も顔見知り故のものと思えば納得のいく話である、だからこそのクセなのか。 それにしてもランバートといい、ロイドの顔の広さを見せつけられる今日この頃である。
「それより人を待たせてあります、行きましょうか」
 それを先に言えとは、彼とロイドの間柄であればもはや当たり前の流れ、 今更言ってもこの淡々とした性格では何を言っても無意味だろう、そう思ったロイドだったが――
「あれ、言わないのですか?」
 当たり前の流れを汲んでいるサイスはそう訊くと、ロイドは――
「何を?」
 と言って誤魔化した。しかし――
「おやおや、新しいパターンがきましたね」
 と、なんだか楽しそうに返すサイスだった。
「お前、俺のこと揶揄ってんだろ――」
 そんなやり取りにアレスと女騎士は茫然としていた。

 サイスは彼らを2階へと促した。そういえば今までずっと気になることがあるのだが、
「その女、誰だ?」
 ロイドはそうサイスに訊いた。試験の日、今日の昼近く、そして今一緒に歩いている女騎士のことである。
「おや、存じていない?」
 だから訊いている、ロイドはサイスにそう返した。
「なるほど、では……」
 すると女のほうから自分で言うからとサイスを止めた。ここで女は初めて喋った。
「私はライア、ライア=アシュバールよ」
 アシュバール……それというのはつまり――
「これは知らないとはいえ、本当にすいませんでした!」
 アレスが全力で頭を下げ、謝っていた。
「いいの、気にしないで」
 ライアは優しく諭した。
「ライア……アシュバール?」
 シュタルは首をかしげていた。
 アシュバール家はアーカネルでは一番大きな権力を持った貴族の家である。 もう、国王の次がこの家だというぐらい影響力の大きい家だ。この女、そこの令嬢か。
「へぇ……そりわスゴイ――」
 彼女の家の話を聞いたシュタルは絶句していた。 ただ、ライアは自分の家柄の話を聞いてなんだか不服そうに見えた、なんかあったのだろうか?

 そして、そのまま城内を進み続けると、3階のとある部屋の前に着いた。
 アレスもロイドもずいぶん幼い頃に一度この城に来たことがあったような気がするが、その頃から変わってないような印象を受けた。
 内装も明るく、3階から上の階は下の階と違い、すごく綺麗で高価であろう赤い絨毯が敷いてあるところも変わっていないハズだ。
「この中です、どうぞ」
 サイスは扉をあけると4人に部屋へ入るよう促した。 部屋にはランバートよりも少し年上の30歳前後の男がイスに座っていた。
「ささ、みなさん座ってください」
 サイスはそう促すと、そのまま立ったまま話を続けた。
「さて、みなさんに集まってもらったのはほかでもありません、 ある仕事を受けてもらうためです」
 それは流石に誰しもが予感していた、わざわざ人をこれだけ集めてする話なのだからそういうことだろう。
「ロイドさん――実はあの”クロノリア”へ行けという仕事なんですよ――」
 ロイドは耳を疑った、はあ? 寝ぼけているのか、サイス――
「私もちょっと抵抗があるのですが、重役会ではそう決まったようです」
 重役会の決定とは何とも大きな話である。ところが内容が難解……
「とにかく、どちらかといえばロイドさん向き―― 私はそう勝手に判断いたしましたのでメンバーもこうなりましたが……」
 あ? 俺向き? メンバーがこうなった? ロイドは意味がわからなかったので訊いてみた。
「ロイドさん向きに関しては、ほかの人に頼むぐらいならまだわかる人のほうがいいかなということです、 もちろん、”クロノリア”が何という程度のことですが……。 メンバーに関しては……みなさんでお話すればわかるのではないかと思いますので――」
 サイスはそう言うと、軽く概要を話してから30歳前後の男、ルイス中佐に後はお任せしますと言いながらその場を後にした。

「さーて、んじゃあ早速自己紹介といくか!」
 自己紹介の前に4人は見習いの証たる革製のコスチュームを脱ぎ捨てていた、支給品なので後で返しておかないと。
 ルイス中佐、ルイス=モーティンは32、ランバートは28と4つも若いので、彼よりも年上ということか。 いずれにせよ、ルイスはアレスやロイドよりも14個も上だということになる。
「それにしても、今年の新米はみんな自前の装備は銅製品なのか?」
 各騎士の戦闘スタンスは千差万別なので、基本的には国からの現物支給は僅かで、現金支給がメインとなっている。 ところが今回の新米の装備のほとんどが鉄ではなく銅なので中佐は悩んでいた。
 銅は鉄よりも比重が軽いので学生などには向いている。 もちろん銅のほうが延性・展性に富んでいるため加工がしやすく、その分値段も安い。 しかし、実用性を考えると銅では心許ないため、成人になる頃には鉄製品に切り替えるのが普通だ。 そのため、4人はできればそっちにしたいと考えているところだが、できない理由があった。 それは前にも述べた鉄の値段の高騰だ。
 ルイスの出身地はオーレスト、オーレスト門を出て街道沿いに進むと半日程度で着く町で、 ロイドもアーカネルで試験を受けるために一時期寝泊りをしていた町でもある。
「俺は以前、”メタルマイン・シティ”の作業員をやっていた、かれこれ7年も前の話だけどな」
 メタルマインは鉄鉱石の鉱山、ルイスがそこを辞めてから3年後に魔物が沸いたということらしい。 しかし、それでも未だに解決していないのも不思議な話、危険な魔物がいるという噂は本当なのだろうか。