アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第3節 ダーク・エルフの兄妹

 街道に出ると、右のほうに角獣に果敢に向かっていくダーク・エルフらしき女騎士がいた。
「しつこいなーもー! そろそろ倒されろー!」
 その後ろにもう1人のダーク・エルフの女騎士がいるが既に倒れていて気を失っていた、 どちらの騎士も2人と同じぐらいの年齢みたいだった。 そこへロイドは角獣の前に立ちはだかると女騎士に訊いた。
「大丈夫か?」
「ナニ? 援軍?」
 小剣を二刀流で構えていた女騎士は気が強そうな話し方で答えた。 その時、角獣は女騎士に体当たりした!
「わっ、しまっ……」
 それをロイドがかばうと、ロイドは弾き飛ばされた!
「えっ!? ちょっ……大丈夫!?」
 ロイドは受身を取りながら倒れた。 しかし、勢いよく飛ばされたにも関わらず、すぐさま起き上がると話をし始めた――なんだか余裕そうな表情だった。
「なかなかやるな。アレス、こいつの体当たりを受け止められるか?」
 えっ、俺? アレスはあっけにとられていた。
「そりゃあ、やってできなくもないかもしれないけど――大丈夫か!?」
 それにしても、人ひとりを卒倒させるほどの強烈な力を浴びたにもかかわらず、 よく平気だなと改めて思わされた、むしろそちらに驚かされた。
「とりあえず、やってみようか?」
 ものは試し、重装備に任せてやってみようか……アレスは考えたが、なめし革の素材で大丈夫だろうか。 すると、アレスは盾を――そう言えば北西の門で大盾を借りたまま返すのを忘れていたアレス、 よく見れば騎士団の支給品じゃないか、だったら別に構いやしないか。 盾の中央には大昔に現れたとされる怪鳥の意匠が刻まれた盾、この世界では割とメジャーなデザインの盾である。
 アレスは角獣にぶつかっていった。 互いにぶつかったときの反動は大きいが、このままの状態だと自分が負けそうだと思ったアレス。
「いいぞアレス! そのままあと5~6秒持たせてくれ!」
 ご、5~6秒!?
「おっ、押し返される……これ以上は――」
 明らかにアレスは押されていた……早く――
 ロイドは大剣を構えて大きく宙へと飛び上がった。そして、そのまま角獣の背中目がけて大剣を思いっきり突き刺した。 すると角獣はもだえ苦しみ始め、ロイドはすぐさま離れた。
 しかし、そのまま大暴れした角獣を相手にアレスは手間取っていた。
 前足で跳び、前半身を上下している角獣、アレスはそれにビビって大盾で目前をガードしたまま動けないでいた、このままでは――
「マズイな、急所を少し外しちまったか――あと少しなのに、この始末をどうするか……」
 ロイドは悩んでいた。しかしそこへ――
「イチ、ニのサン!」
 女騎士は角獣が前半身で跳びあがったタイミングを狙い、その腹を小剣の一撃で貫いた。
 角獣はその勢いで後ろ脚だけで立ち上がると、そのままのけ反り返って倒れこみ、息絶えた。
「……は……? 終わった――のか?」
 アレスが気がついたときにはすでに終わっていた。 気が付けばロイドは倒れていた女騎士を道の傍らに寄せ、その辺の岩の上に座って休んでいた。 あの女騎士も近くの岩の上に座ってくつろいでいた。

「あんなの相手によくタイミングをあわせて狙えたな」
「ふふん、まーね! 修行の成果かな!」
 ロイドと女騎士の2人は話をしていた。
「スピード・ファイター系の才能があるってわけか、なるほどな」
 文字通りのスピード・ファイターはスピードを生かして狙いを定めた器用な攻撃が得意なクラスである。 まさに堅牢な守りこそ要のアーマー・ナイトとは正反対の性質である。
「まあねー。それにしてもあっちの人ってすごいタフだねぇ、よくあんな攻撃を受け止められるなあ――」
 女騎士はアレスを指して言った。するとロイドが、
「あいつはああいうのが得意だからな――お前と違って動くのはとことんニガテだが」
 と言った。
「へえ、なーる……」
 女騎士はそれで納得した。話はさらに続いた。
「キミもスゴイよね、上からズバッ!  それに、さっきの体当たり食らってよく生きてたね! 2人ともタフなんだね、すごいや!」
「まあな、一時期はこれで飯を食っていたこともあったしな」
 そこへアレスが話に参加してきた。
「とりあえず、みんな無事みたいだな」
「あの倒れているのとお前が無事ならな」
 ロイドの言う通りだ。 それより、ロイドの言うように、あの人は大丈夫なんだろうか。
 そういえば名前がまだだったことを思い出してアレスは話を始めた。
「俺はアレス、アレス=ティンダロスっていうんだ、よろしくな」
 だが、彼女はピンとこなかったようだ。 家は有名とはいえ人によるということ、必ずしもそうではないということである。
 ところがロイドが自己紹介をすると、違った反応を見せた。
「知ってんのか?」
「ウン! ”ティバリス=ヴァーティクス”って結構凄腕のハンターじゃん!」
 シュタルは続けた。
「お母さんから聞いたんだよ……”ティバリス=ヴァーティクス”で合ってたよね!?」
 まさにハンターつながり、それはロイド自身だけでなく、父親のほうも元ハンターの騎士だったってことか。 でも、何故騎士時代のほうは知らないのだろうか。
「私は”シュタル”、”シュタル=ヴィームラス”だよっ!」
 ヴィームラス!? それって確か――
「レギナスの娘、ランバートの妹か」
 と、ロイドは冷静に言った、それだ。
「ウン、ショーグンやっているランバートは兄貴だけど……、お父さんも?」
 お父さんのことは知らない?  しかしあの二刀流の構え――確かに兄妹そっくりである、持っている得物はまるで違うが。 お父さんの話はとりあえず後にしよう、少し長くなるかもしれないから。
 その兄貴の話を受けてシュタルは、
「ゲゲゲ、バカがうつったカモ!」
 と言った。ば、バカって――あのランバート将――アレスは焦っているが、
「面白い兄妹だな」
 アレスの考えをよそに、ロイドは笑いながら答えていた。

 噂をすればなんとやら、そのうちランバートが部下を引き連れてやってきた。
「魔物はどこだっ!」
「そこでくたばっている角獣がソレです」
 ロイドはランバートの問いに対してそう答えると、ランバートは悩んでいた。
「んだよ、ロイドいるじゃんよ、そりゃあ終わってるに決まってるわな……」
 ランバートが彼に頭が上がらない要素の一つとして、 助けられたことにつながる根本的な原因としてロイドの戦闘能力のほうが強いことを示しているようだ。 力比べではそんなに差はないようだがそれでもロイドのほうが上なのか――アレスは絶句していた、 将軍とタメを張る男――
 しかし、ランバートにとってはさらに都合が悪いことに、魔物のほうに目をやると……
「げ――今日はなんて日だよ……」
 その方向には自分の妹であるシュタルがいた。
「もう終わっていますよ、遅いじゃないですか、将軍”様”」
 ”様”を意図的に強調して言った時の口調は皮肉たっぷりだった。
「まあ……いいか――とりあえずあれだ、とりあえず――城に戻ってくれ、サイスが話をしたいらしい」
 やや動揺感がぬぐえないランバートの口調、その後ろから見覚えのある女騎士が現れた。
「あれ、あの人……」
「またか、よくよく会うな――」
 どうやら彼女がサイスのもとまで案内するらしい。