アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第2節 すべての魔物を倒せ

 アレスはうまく魔物をはじき返しつつ牽制し、後ろからロイドがバッサリとトドメ、2匹とも難なく倒せた。 それにしてもあの青銅の大剣でよくあの魔物を一刀両断できるものだ――アレスはロイドを見ながらそう思った。
「鉄の剣は使わないのか?」
「使いたいのは山々なんだけどな。安くなったら買うことにする」
 アレスの疑問にロイドは答えた。 現在のアーカネルでは少し前から鉄の値段が高騰していて非常に手に入りにくい。 それゆえにアレスの手持ちもまだ青銅の長剣、人のことは言えなかったのである。 アーカネルもこの事態を解決すべく力を出しているが、なかなか事態は収拾せずである。 今回の門の前での戦いのように、各地では徐々に魔物が凶暴化したり多発したりしているが、 鉄の原因も採掘場に魔物が出現しているせいで危険が付きまとうのだそうだ。
 いやしかし、魔物が出ることぐらいは普通なのだが採掘場の場合はどうやらあまりに強力な魔物が住み着いているらしく、 危険度が高いと噂されているがあくまで噂でしかないので真偽のほどは定かではない。

 町はとても広いため馬車も利用する。 今回の任務では徒歩ばかりではアーカネルの町を知ることにならないということで、 利用できる公共の交通手段は一通り使うように言われている。 無論、徒歩での移動手段も必要ではあるが。
 南東の島国では”バス”と呼ばれるものが走っているらしいがアーカネルの場合はほとんどが石畳の道で、 ”バス”も普及しておらず、専用の道路も存在していないためお目にかかることはない。
 とにかく、可能な交通手段を駆使してお昼には町の中心街に出た。
「昼飯にでもするか」
 ロイドはそう言うと2人は適当なオープン・カフェで昼食をとることにした。 その場所は町の中心街、正門からお城までに続く広い石畳の道、この町のメイン・ストリートである。 正門はアーカネルの南西側に位置しており、外は”オーレスト”の町方面に街道が伸びていることから”オーレスト門”でも通じる。 なお、北東には大陸の遥か北東端にある”アルティニア”と呼ばれる都市があることから”アルティ門”とも呼ばれる門がある、 ”オーレスト門”とは正反対の位置にある門である。 各々の都市のことについては後に語るとしよう。
 食べ終わると仕事を再開、ストリートに沿ってオーレスト門である南西へ向かって歩いていた。 ところがその時にどこかで見たことのある女の人とすれ違った。
「あれ? あの人どこかで……」
 アレスはそう言うとロイドはすぐに気がついた。
「大会で見た女だ」
 そうだ、あの女だ。 2人の実技試験を行っているときにギャラリーにいた、貴族らしい女の人だった。 しかし、今日は2人と似たようなユニフォーム、新米女性騎士のユニフォームを着用していた。そうか、彼女も新米騎士なのか。
 でも、何故あの時ギャラリーにいたのだろうか、そればかりが気になっていた。するとロイドは――
「……それにしても、俺、アイツを大会以前に見たことがあるんだけど……誰だったかな」
 そう言うが、言われてみればアレスもどこかで見たような人物だったことを思い出した。 少なくとも貴族のハズということならそこそこに有名人であることは確実だろう、 無名な者もいるが、彼女の場合はそうではないほうだったような気がした。それでも誰だったのかまでは思い出せない。

 いよいよオーレスト門に着いた。 事前情報としてオーレスト門に大型の魔物の接近が警告されていたらしく、それに備えて厳戒態勢が敷かれていたようだ。 その場所には2人の実技試験の際にギャラリーにいたランバート=ヴィームラスこと、ランバート将軍がその指揮をとっていた。
 ランバート将軍はアーカネルの将軍の中でも一番若い人物で、この2人とは10歳ぐらいしか違わない。 肌の色が日焼けしたような黒が特徴だが、これは日焼けの色ではなく彼が”ダーク・エルフ”族であるからなのだ。
「おっと、期待の新星の登場だな?」
 ランバート将軍がそう言うと、ロイドは返した。
「それは”将軍様”のほうこそでは?」
 アレスの父親のエルヴァランとロイドの父親のティバリス、 この2人はかつて同じチームで活動していたのだが、その3人目である”レギナス=ヴィームラス”はランバート将軍の父親である。 その息子のランバートは1~2年前に将軍の座を頂くことになり、むしろ彼のほうこそ”期待の新星”である。
「ははは、言われてみればそうだな!  でも……なんかお前に”将軍様”って呼ばれるのもこそばゆいなぁ……」
 ランバートは照れていた。
「じゃあ”ランバート”でいいか」
「おいおい……両極端なやつだな、言うに事欠いて結局呼び捨てかぁ? まあ、そっちのほうがお前らしいけどな!」
 どうやらちょっとした知り合いらしい。 それもそのはず、ランバートはハンターとして活動していたこともあり、 仕事の際に何度かロイドと仕事したこともあったのだが何度かロイドに助けられている、 微妙に頭が上がらないらしい――将軍に恩を着せるとは恐るべし、ロイド……。
 話を戻すが、レギナスは主に隠密行動を得意としており、 双剣術では右に出る者がいないと云われているほどの凄腕だったが、 ランバート将軍の双剣はメチャクチャで、彼のスタンスは小剣と大剣の二刀流剣術である。 ただでさえ片手で扱うのが大変な大剣をあえて片手で扱うというのは相当努力したに違いない。
 だが、言われてみればそういう人物がいるという話をどこかで聞いたような気がしたアレス、その人の影響だろうか……?
「とりあえず、お前らもがんばれよな」
 ランバートがそう言うと、ロイドは再び返した。
「ランバートもな。でも、俺らもここに駆り出されんのか?」
 確かにこの体制の指揮をとるのは大変そうだが――
「なぁにこの程度、お前の手を借りるほどじゃねえよ! ”将軍様”だからな!」
 ランバートは調子よさそうに答えた。

 夕暮れ少し前、今度は南東の”ミストガル門”に着いた、 ミストガルとはこの先にある”ミストガルト山地”のことを指しているが、 基本的にはこの先にある”ランペール”という港町に通じている出入口という認識のほうが一般的にある。 先に話した”バス”というものがある島国への航路がある港町である。 ところがこちらも様子がおかしい。
「なんだろう? ロイド……」
 アレスはロイドにそう訊いたが彼はすでにアレスの隣にはおらず、行動に出ていた。
「何があったんだ?」
 ロイドは早速現場の番兵に話を訊いていた。
「ボス格らしい角獣が襲ってきたんだ! そいつは今、門の外にいる! 油断するなよ!」
 番兵はもう1人いるがそちらは負傷しており、傍らに倒れていた。 恐らく正面から衝突されて流血しているが大した量でもなく、 ケガもそこまで大したことはない、気を失っているだけのようだった。
「あのおとなしい角獣が襲ってくるなんてただ事じゃないな」
 ロイドはそう言いつつ背中の大剣を取り出すと番兵は言った。
「あんたらが来る前に別の新米さん2人が先に来て戦っているぞ。 今、苦戦中みたいなんだ、助けてやってくれよ。 俺はとりあえず、怪我人のために医者を呼んで来るから!」
「わかった、俺に任せておけ」
 ロイドはすぐさま外へ向かった。彼に続いてアレスも動き出した。
「医者よりも正門にいるランバート将軍を呼んだほうがいいと思うよ!」
 医者はもちろんだが軍医も部下も多く引き連れていて現場指揮を担う将軍のほうがよさそうだとアレスは判断した。 それに、恐らく大型の魔物の接近――今回の角獣のことではなかろうか、 あの温厚な生物が襲ってくるだなんてアーカネル防衛のための新たな課題になりそうである。