アーカネリアス・ストーリー

第1章 流星の騎士団

第1節 初仕事!

 よく晴れた日の朝、アーカネル城の1階の大広間では新米騎士たちが集まっていた。 その中にはアレスもロイドも入っていた――そう、2人は合格したのだ。
 集まっていた騎士たちのユニフォームのデザインはみなほとんど同じだった。 違いといえば戦士タイプの違いと体格の違いぐらいか。 アレスは重装備でそれなりに重厚で頑丈な鎧に身を包んでいるが、 一方のロイドは同じ鎧でもアレスのとは対称的に割と軽装である。 とはいえ、ユニフォームの素材はどれも革製品、実戦で耐えうる代物ではないため、 ほとんど見習い騎士のために用意されているものだと思っていいだろう。
「さて、みなさん集まりましたか。では、あなた方に最初の任務を与えます」
 大広間の奥で一人の長身の男性が話し始めた、あの人は確か――
「その前に自己紹介をば。私の名前はサイス、サイス=ラクシュータと申します。 アーカネルにおいては”執行官”という役職に就いております。 主にみなさんのような騎士たちに仕事を与えるのが仕事ですので、 今後、私と会う機会も増えていくでしょうね、そういうことですので今後ともよろしくお願いいたします」
 と、すごく丁寧な物腰で話し始めた。その後もサイスの話は続いたが、ロイドはなんだか退屈そうな様子だ。

 話の後、アレスとロイドは一緒に仕事に出た。新米騎士に与えられる仕事は恒例のアーカネル巡視だそうだ。
 アーカネルの町並みはちょっと古めかしい感じの漂う建物が多い。 ここよりはるか南東にある島の都市の建物は立派なビルディングが建っているというが、 ここはそれに比べたら町並みは古いが、人々の生活自体は割と文明的である。
 2人はとりあえず最初に城から北西側にある門へ向かった。 城下町の北西エリアは騎士たちの寮が並んでいる区画である。 ちなみに城の建ち位置は町の中央よりは北東にずれており、北西エリアもそこから割と近い。 なお、北東のエリアには城のほかに貴族の邸宅が比較的多い傾向にあるが、アレスの家もその北東のエリアの中にある。 流石は名門ティンダロス家である。
 一方これから向かう北西門の近くには教会もあり、 ”ヴァナスティア神教”や”クレメンティル教”の信者たちが熱心に通ってくる。 ”クレメンティル教”は”ヴァナスティア神教”の派生宗教であり、 クレメンティル教信者にとっても”ヴァナスティア神教”は重要な宗教である。
 逆にヴァナスティア神教信者にとってクレメンティル教はそれほど重要なものではないが、 異なるものという認識でもないため対立しているわけでもなく、お互いに尊重し合っている関係のようだ。
 なお、アレスもロイドもどちらの宗教に対しても熱心な信者というわけでもないため、深い関心はない。 とにかく、2人の中で共通しているのはアーカネルは世界的に”ほとんどヴァナスティア神教”という認識である。

 そうこうしているうちに北西の”エドモント門”に着いた、 北西の農村”エドモントン”に通じていることからそう呼ばれている。 だが、門に着くと番兵たちがあわただしく動いていた。なにかあったのだろうか。
「アレス、魔物だそうだ」
 ロイドが口を開いた。どんな世の中でも魔物がいるのはこの世界の常だけど、 このご時世で町の入口まで押し寄せてくるのもなかなか珍しい―― いや、町の入り口付近でいざこざしている程度ならまだよくあるほうか。 それはそうと、2人は加勢することになった。
「魔物はどこに?」
 アレスはそう訊くと2人の番兵は指をさした、街道の茂みのほうだ。
「さっきまでこのあたりで2匹が大暴れしていたんだ、気をつけろよ、新米さん!」
 そうだ、これが”実戦”なんだ、今までの訓練とは違う、気は抜けない――アレスはそう思った。
「あの魔物は……甲殻虫だな」
 茂みの陰からちらっと見えたのを確認してロイドはそう言った。
「ああそうだ、うかつに近づくと跳ね飛ばされて、そのまま撲殺されるから気をつけろ」
 甲殻虫は二足で走ることができる爬虫類の仲間である。 特徴はその硬い殻というか甲羅を活かした体当たりだが、 足を引っ込めてボールのように転がってくることもあり、馬車すらひっくり返してしまうこともある、結構危険だ。 また、甲羅が硬いので飛び道具も有効とはいえない。
「あんた、コレ貸してやるからおとりをやってくれよ」
 番兵はそう言うと、アレスに大型の盾を渡してきた。
「そしたら、今度はそっちのやつの大剣でバッサリだ」
「んじゃあ、あとは騎士様に任せたぜ!」
 番兵2人で勝手にプランを立てていた。 だが、これは新米騎士に対する試練の一つである、番兵ならこの程度の魔物はわけない。
 しかし新米はどうだろうか、今回はあくまで新米の仕事なのだ、 今回は俺たちでやる――今回は番兵の立てたプラン通りにいくことにした。 本来であれば自分たちでプランを立てるべきであるが、今回は新米に対する試練ということもあり、 言われたとおりに物事をこなせるかという意味合いが含まれているのだ。
 アレスは”バックラー”と呼ばれる小型の丸盾なら扱ったことがあるが、 上半身をすっぽり覆うほどの大きな盾は初めてだった。 とはいえ、アレスにとってはこの程度の大盾ならそれほど重量があるわけでもないので、慣れれば簡単だったようだ。
 2人はそろっと前へ出るとやつらは姿を現し、身体をぶつけてこようとしていた。 それに対してアレスはその攻撃をなんとか盾ではじき返した。
「今年の騎士はすごい素材がいたなあ、”ブラックナイト・ディアス”の再来だぜ!」
「いや、あれはむしろ”ゴールドナイト・エルヴァラン”の再来だな」
 2人の番兵は興奮しながら言った、これは新米に対する激励である。 魔物という相手を前にして勇気を奮い立たせるための番兵からの贈り物ということだ。
 ”ブラックナイト・ディアス”とはアーカネル現役の将軍ディアス=クラウトのことで、”黒曜の騎士団”というグループを形成している。 アーカネル騎士団は団体で行動することが多いため、ディアス将軍のように騎士団内でさらにチームを形成している。 特に”黒曜の騎士団”は騎士団の中では最強のチームで、鎧の色がみんなほぼ黒色であることから”黒曜の騎士団”と呼ばれ、 アーマー・ナイトであるディアス将軍は”ブラックナイト”の異名で呼ばれる。
 一方、”ゴールドナイト・エルヴァラン”とは――
「そうだな、あいつは”ゴールドナイト・エルヴァラン”の再来というべきだな。 なんたってあいつはアレス=ティンダロスだしな」
 ロイドはそう話しながらアレスのほうに向かった。ロイドの言うことに2人の番兵は驚いていた。
「ティ、ティンダロスって、――まさか……」
「まさか……そうか、そうだったのか――もうそんなに経つのか、時間は早いもんだなあ……」
 ”ゴールドナイト”の異名を持つエルヴァランとはエルヴァラン=ティンダロスのこと……そう、アレスの父親のことである。
 ゴールドの名を持つのは黄金の手ということで凄腕であることを意味する。 さらに、2人の戦いぶりから番兵は気がついた。
「なあ、あの大剣の騎士って、あいつじゃないのか?」
 それはロイドのことである。 ロイドの父親の名前はティバリス=ヴァーティクス、エルヴァランと並び、アーカネルにおいては知らない者はほぼいないであろう有名人で、 同じチームで活動していた。 この2人はまさに各々の父親とそっくりであり、戦い方も似ていたようだ。
「これはなんかいい時代の波がやってきそうだな」
 番兵たちは何かを案じていた。しかし、この話はこれだけで止まらなかった。