エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ライフ・ワーク・ログ 第1部 風精の戯れ 第3章 安定の策士ライフ

第45節 リリアリスのプライド

 なんだかんだで元から手に職をつけているような貴族もそれなりに多く、 リリアリスはその様子を見て呆れていた。
「ちょっと!? 私の描いているイメージとはえらくかけ離れた連中ばかりなんだけど?」
 リリアリスはそう言うとシューテルは得意げになって答えた。
「そう、クラウディアス貴族という地位ばかりに目がくらみ、 そしてそのまま堕落していったのが奴らという存在よ。 しまいにはクラウディアス貴族という地位に笠を着て政治にまで口出しし始める始末―― しゃしゃり出てくる場所としてはそもそもがお門違いもいいところの連中ばかりなのだ。 だからむしろ特別執行官殿のように自分の得意分野を中心にものを言ってくれるといいのだがな、 やつらにはクラウディアス貴族というプライドを持ってしまったばかりにそれができぬのだからたちが悪いのだよ、 要はそういうことなのだ」
 力を手に入れてしまったばかりにということか、リリアリスは納得した。
「その点、まさにリリアリス殿のような者はまさに理想と言えるわけだがな、 いや――むしろ、リリアリス殿のような存在のほうが特別というべきか――」
 まさに高位な精霊様であるが故の特殊な価値観が力に対する欲というのを抑制しているということか。
「ま、でも、力が欲しいと思ったことはあるわよ。 最初はそれが私の使命だから――敵を倒すのが使命だからと思って…… 使命を果たすには力が必要、だから欲しい……という感じね。 そして次にそう思ったのは、確か敵に戦いに挑んで負けて、それで死にかけて…… あの時はたまたま助かったからいいものの、本当はあの時死んでたハズ。 そう思うと――悔しかったのね。そしてもう一つは――」
 言葉をつぐんだリリアリスに対してシューテルは頷いた。
「私の耳にも入っておるぞ、フェニックシア大陸での出来事だそうだな。 あれはリファリウス殿の件と連動しておると言うことだが、 やはり人は悔しさをバネにした時のほうがより強く成長するものなのだな――」
 確かに、言われてみればそんな感じだ――リリアリスは顔を背けつつもそう考えていた。
「”ネームレス”は恐るべき力を持っている、それでもまだ力が足りぬと申すか?」
 シューテルはそう訊くと、リリアリスは得意げに答えた。
「そうね、あって困るもんじゃないからね。 それこそ、私としてはクリエイターとしての自覚と誇り、 そしてクリエイターとしての役割と責任があるからね。 私の役目はものを作ること……使う人の身になって作ることが私の役目。 作ると決めた以上は使った人が使い終わった時のことまで考えるのが作り手の責任。 最強の敵を倒すための兵器を作るのなら最強の敵を倒す力を身に着けて実践する、 そしてそんな兵器が要らなくなっても処分に困らないようなところまで考えて作るのが私の仕事。 そのためだったら妥協は一切しないわよ、妥協したら作り手として失格だからね。 だから――たとえどんなオーダーが来ても自分が常に万全の状態で要られるように力をつけておけば間違いないと言えるわね。」
 あくまで使う側の立場に立ったうえでの発言か、叶わんな――シューテルは考えさせられた。 しかもそれを発言している者はこれまで幾度となくクラウディアスへの脅威をいつも最前線で立ち向かってきた英雄とも言うべき存在、 そんな彼女が言うのだからその発言の重みにはぐっと来るものがある。
「ふっ、愚問だったようだな。 よかろう、そういうことならこれからもこのシューテル=ロブライド、 今後も特別執行官殿の駒となり、共にクラウディアスを維持する者として動くこととしましょうぞ!」
 リリアリスはいつものように得意げに答えた。
「ええ、これからもよろしく頼むわね、シューテル氏。」

 かくして、エンブリア一の大国クラウディアス、英華、隆盛を極め、 依然としてその影響力は強くあり続ける国、クラウディアス。
 だが、時にはこのように、クラウディアスの名声を利用し、そこで暗躍し続ける者もいれば、 そこに甘んじて胡坐をかき続ける者もいる。
 しかし時として、クラウディアスの名声を利用し、 利用したことによる責任を負いつつもさらなる未来への道を示す者もいることを忘れてはならない。 その場合、多くの闇や怠惰は取り払われることとなるのだが、此度の未来を示した者は何の気なしにことを進めただけの気分屋であることは忘れてはならない。
 そう、世の中、何が起こるか意外と分からないものである。
「おーい、みんな先に行っちまったぞ、そろそろ俺も行かないか?」
 テラス、ヒュウガがやってくるとリファリウスにそう訊いた。
「ん? あれ? いつもの暇人君は?」
 いつもの暇人君ってクラフォードか、ヒュウガは考えた。
「フェアリシア組はフェアリシア立ち寄るって昨日発ったじゃねえか。 ってか、リリアリスじゃねえのか――」
 そういえばそうだったっけ、リファリウスは考えた。
「姉さんは……まあ、その話はいいことにしようか。つまり、あとは私らだけってことだね。」
「そういうことだな。 ライトニング・リュースの修正パッチは既にあっちにロードしてあるから後は出発するだけだな」
 ヒュウガはそう言うとリファリウスは3本の剣……でいいのだろうか、アクセサリにも似たそれを取り出して言った。
「OK。すべての準備は整っているってことだね、感心感心。 それでは――そろそろ行きますか。」
 彼らの旅は続く。