後日、リリアリスはシオラとシャルロンを呼び出した。
「リリアさん、お身体の調子はいかがです?」
シオラは嬉しそうにそう言うとリリアリスは得意げに答えた。
「ええ、おかげさまで見ての通り快調よ。
命まで狙われたっていうのにそれでも生きているだなんてさ、我ながらなかなか図太い根性しているわね、
そうは思わない?」
それに対してシャルロンは申し訳なさそうにしていた。
「ああ、いいのよ別に。それはクラフォードが私こそが厄介な女だと思って判断していたことみたいだから。
彼からはそもそもプライベートでもそう思われている節があるから、刃を向けてこられても別にどうってことはないわね。」
厄介な女だと思われているリリアリス、自覚しているのか。
もっとも、それを別に正そうなどとはこれっぽっちも思っていないところはリリアリスらしいが。
「で、そのクラフォードたちだけどしばらくはティルアでお休みね。
ついでにエクスフォスの2人もティルアで救護してもらってる。
ウィーニアとかもしばらくはティルアから動けないって言ってたわね。」
とはいえ、なんとか無事らしいということでシオラは安心していた。
「とりあえず近況については以上かな。
ちなみにクラルンベル情勢だけど、ロサピアーナはまだ軍事侵攻をやめたわけでなく、
当然のごとくクラルンベルは徹底的に対抗する姿勢ね。
その協力国はデュロンド、ティルアをはじめとするクラウディアス連合国が今回正式に表明したわ。
表明したのはセ・ランドのお偉方を通じてのことで、表立って”クラウディアス連合国が”なんて言わないけれども、
事実的にはクラウディアス連合国の参加という形になるわね。
だからまたしても戦争時代に突入っていう空気になってしまいそうだけれども、そこは今後の展開次第ね。
なんていうか、政治って面倒くさいわ、なんでこんなことしているんだろ私。」
何を今更……。
「ところで2人を呼んだのはほかでもないクラウディアスでのお仕事の話なんだけどさ。」
えっ、2人は驚いていた。
「そろそろセ・ランド復活が軌道に乗っていることだし、
だからシオりんは本格的に私らと一緒に行動するのならここで何らかの形で携わっているほうがいいのかなと思って。
そういう意味ではシャルロンちゃんも同じ理由で誘っているつもりなんだけれどもどうかな?」
ど、どうかな――2人はそれぞれ迷っていた。でもお仕事というのはどんな仕事?
「2人ともルーティスとは関係が深いからね、だからクラウディアスの特別執行官としてルーティス専任の外交官となってほしいのよ。
ルーティスとはいろんな協定を結んでいるけれども、いい加減そろそろまとめる役の人がいたほうがいいからね。」
その話の後、シオラとシャルロンはフロレンティーナに連れられてアクアレアのとある施設へと向かった、そこは――
「これは学校?」
フロレンティーナはていねいに一礼すると、優雅な雰囲気を引き立たせながら甘い香りだけを残していった。
「フローラさん、ステキな人だなぁ……ああいうのいいな……」
シャルロンは彼女のその立ち振る舞いに至極見惚れていた。
彼女の装いは、まさに女子の憧れそのものだった。
そしてその施設の中からとある者が現れた、それは――
「あっ! パミル!」
シャルロンはそう言うとお互いに顔を合わせ、そしてお互いに慌てて駆け寄ると、しっかりと抱きしめあっていた。
「シャルロンちゃん! 本当に、本当に良かった――」
「パミルー! ずっと、ずっと会いたかったよ!」
お互いに泣きじゃくっていた。そんな光景にシオラももらい泣き、2人の傍らにそっと歩み寄っていた。
ルーティスとの連携についてはクラウディアス側からはクラウディアス特別執行官のルーティス専任外交官であるシオラとシャルロンが、
そしてパミルはルーティス側からの使者としてルーティスの窓口たる役割を担うこととなった。
要は話を3人でうまい具合にまとめてくれというような役割である。
まあ、この3人なのでほとんど雑用みたいな役割でしかないが、
それでもいつも忙しいリリアリスらやルーティスのお偉方にしてみればかなり重要な雑用という位置づけである。
で、この3人については基本的にアクアレアのここの施設、ルーティス大使館での業務がメインとなる。
仲良しの3人がまた一緒になる時が来たのである。
「めでたしめでたしってね。でも、さっそく仕事をしてもらわないといけないわね。」
リリアリスはそう言うとフロレンティーナが答えた。
「ルーティス学園への学士支援金と共同開発援助金の予算会議ね、
年度の予算会議とは別にやらないといけなくなるだなんてツイてないわね」
リリアリスは頷いた。
「今回のせいで学園都市である都合、なおさらルーティスの難民の負担が増えちゃっているからね。
それに……全部ディスタードやロサピアーナとの戦争のせいよ、
復興支援金ばかりに回してしまっているせいでいろいろと間に合っていない。
これはうちだけでなく、クラウディアス連合国内全土で同じような状況に陥っているからみんな慌てて対応しているところね――」
アリエーラが話した。
「それに来月は決算、年度の予算決定の締め切りも目前に迫っていますからね。
それに学士支援金も共同開発援助金もこれまでルーティスとだけでしか交わしていないものですので、
クラウディアス連合国内全土ということになりますと――つまりはそういうことになりますね。」
リリアリスは頷いた。
「特に学士支援金についてはどの国も基本的にルーティスにあてたものになるわけだからルーティスでやりくりする人はものすごく大変よね。
もちろん、ルーティスの負担を減らすためにこっちがいろいろとやる必要もあるわけだから――」
「それに――共立ルーティス特別校クラウディアス学園も作ってしまったからね、ルーティスだけでなくてこっちも大変よ」
と、フロレンティーナが言った。ルーティスの大使館に併設されている学校がそのクラウディアス学園である。
もとはクラウディアス王立の別の学校だったのだが、
使わなくなったこの学校の跡地をルーティスに委譲してできたのが共立ルーティス特別校クラウディアス学園とルーティス大使館である。
なお、それとは別にクラウディアス内にも王立学校が存在する。
基本的にはクラウディアスの地元向けのものだが、大昔はやはり”クラウディアス”という一種のブランドのせいで競争率が高く難関校としても知られている。
だが、実際のカリキュラムとしてはルーティス学園と連携しているだけあってさほど変わらなく、現在ではクラウディアスの地元向けの学校でしかないようである。
しかし大学に至ってはルーティス学園とを行き来しているような学生も多く、大学教授の往来もなかなか激しいものとなっている。
無論、クラウディアス城内にも研究室がある学部なんかもあり、入学の競争率は一層激しいものとなっている。
そういうこともあり、ルーティスとの外交についてはほかの国に比べてより忙しい案件となっており、
雑用がいるだけでも全然違うのである。
「ルーティス大使の雑用はもう少し数を増やしたほうがよさそうね。
今はまだいいけどこれが加速したらみんなで泡を吹くことになるからね。
でも、その前に早いところシステム面で是正していかないと――これから忙しくなるわね。」
もちろん、そのシステムに手を出しているのはクラウディアス特別執行官である。
「クラルンベルからも難民が出ますし、学校という話となるとこれからもどんどんと忙しくなりそうですね――」
アリエーラは苦笑いしながら言うとリリアリスは頭を抱えていた。
「ふぅ、頭痛くなってきたわ。今日はもうお休みしましょ――」
快調と言いつつもまだ調子が取り戻せていないリリアリス、そこにあるソファへ倒れるように寝転んでしまった。
「あんまり無理しないでくださいね、リリアさん――」
「そうよ、休めるときにちゃんと休んでおかないと」
またしてもアリエーラとフロレンティーナに心配された彼女だった。