エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第6章 エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ

第73節 侵略の地への再訪

 一行は各々車に乗り込み、数日かけてクラルンベルへと向かっていた。 クレイジアとクラルンベルの国境を越えるのは容易だった、ロサピアーナが攻撃した跡なので国境がないも同然、出入りフリーという感じだからだ。 ロサピアーナはクラルンベルを侵攻しているためそうなっているのだろうが、 逆にクラルンベル側からロサピアーナ側へとなると言うまでもないだろう。 とはいえ、侵攻されている以上はまさに国境がないも同然の状態、ロサピアーナからすれば国越えという認識ですらない可能性が高い。
 そしてそのままマンディウへと向かうと、なんだか物々しい雰囲気に包まれていた。
「ロサピアーナに面している国はもちろんだが、面している町の方はもっと大変なもんだな」
 ヒュウガは周囲を見渡しながらそう言った。 ここはロサピアーナから奪還した後の再侵攻の影響は受けていないのだろうか、受けているようにも見えないのだが。
「なんだか落ち着かない雰囲気ですね、目立ちそうなので早めに行動しましょうか」
 と、ディスティア。彼は後ろ手に縛られているイールアーズを振り回しながらそう言った。
「目立つも何も、ここに来ている段階で気が付かれている可能性もありそうだけどな」
 と、ティレックスが言うとヒュウガは頷いた。
「まだ来ない連中がいる、もう少しだけ待たないとどうにもならないぞ」
 それもそうだった、具体的にどこでという指定をしていなかったため、わかり易い場所で待っているしかなかったのである。

 待つこと数分、どうやら全員がその場に集まったようである。その最後尾にはシャルロンが。
「みなさん、大変お待たせいたしました。それでは参りましょう」
 シャルロンはそう言いながら先導をし、ある建物の中へと全員を促していった。 するとそこに――
「あら? あれはまさか――」
 ララーナはすぐさま気が付き、その人のもとへと駆け寄った。
「あっ、あなたは以前にお会いしたララーナさんでは!?」
 なんと彼女はプリズム族、しかも先日赴いた森に避難していた者だった。
「どうしてここに? ルシルメアへと向かったのでは?」
 ララーナの問いに彼女は答えた。
「ここの方々からそれを手配して頂けるというので頼ってきたところです。 海を渡るといっても始めてのことで不安だったので、テミアさんという方の提案でご厚意に甘えることにしたのですよ――」
 テミアさん?
「勝手ながらすみません、テミアは私たちの隊員で私の上司でもあります。 テミアがここから避難しているプリズム族を見かけ、こちらへと誘導したようです。 ルシルメアに掛け合うようデュロンドを介して手配していますので――」
 それに対してララーナはにっこりとしつつお礼を言っていた。
「私たちのためにそこまでして頂けるだなんてなんてお礼を言えばよいのか――」
 シャルロンは首を振っていた。
「そんな、お礼だなんて――当然のことをしたまでですよ。 それよりも早く、中に入ってゆっくりとお話ししましょう。 恐らく、テミアがお待ちしておりますので、是非、彼女の話を聞いてくださいませんか?」

 それから待つことさらに数分、一行は薄暗い部屋の中、電灯の明かりに照らされた状態で待たされていた。
「テミアって人、遅いな。 ディスティアとクラフォードもどこに行ったんだろ」
 ティレックスがそう言うとスレアが答えた。
「イールがあんな状態だからな、一旦地下牢に閉じ込めることにしたらしい。 それで2人が暴れているイールを抑え込めるために付き添っているんだとさ」
 そんなことが――そういえばイールアーズの問題が残っていたっけ、ティレックスは納得していた。
「エンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ、厄介な敵がいたもんだな。 そうなるとこれ以上は手出し不可か、敵を直接叩くしかないんだろうな」
 それに対してユーシェリアが口をはさんだ。
「ということはつまり、今度はそのための作戦を立てるということかな?」
 すると、その部屋に1人の女性らしき人が入ってきた。 その人の服装は全体的にシースルーの生地でかなり透け感が強く、 ボディーラインがよく見えるようなセクシーな見た目の上にローブを軽く羽織い、 右手にはきらびやかなステッキを持っていた。
 だが、それ以上に特徴的なのが彼女の顔を覆っている面で、何とも無表情な面をかぶっていた。
「大変お待たせいたしております、私は幻術師テミア、幻術師ということもあってこのような格好をしております」
 そうは言うが、その様相に誰もが驚かされていた。 そして彼女に続いてクラフォードが現れた。
「ん? あれ? ディスティアは?」
 スレアがそう訊くとテミアが答えた。
「すみません、あちらの方がなかなか手が付けられない状況でして、その方に様子を見てもらっています。 確かにあの方にかかっている術は強力な妖術です、私でもあれを解くことはかないませんでした――」
 そんなに重症なのか――
「それはともかく、長旅でお疲れでしょうからまずはゆっくりとお休みくださいませ」