エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第3部 果てしなき旅の節目にて 第8章 幻想を抱いたまま死ね

第144節 事態の悪化、回収の刻 その1

 竜巻通過直後、リファリウスらは慌ててクラウディアスのシステム・ルームへと足を運んだ。
「ヒー様! データは取れた!?」
 ヒュウガは答えた。
「完全型非破壊式解呪魔法打ってくれたみたいで全体像がはっきりとしたぞ。 とにかく、あれはバカでかいやばいものだということが分かった。 刺さったアンカーから分析すると、あれは”エンハンスド・クォーツ”だな」
 前半よくわからないけど”エンハンスド・クォーツ”! まさか!
「……ヴァレスタンドの”エンハンスド・クォーツ”、アガレウスでもなくイングスティアでもない、 じゃあどこなんだって、まさかこれが真相だったとは――」
 実は例のヴァレスタンドについては調査の結果、いくつかの”エンハンスド・クォーツ”が持ち出されていることが判明した。 さらに、例のリファリウスが苦言を呈していた資源の管理問題でも行方不明のエンチャント素材等の鉱石がいくつか判明。 しかし、それらがどこへ流れているのかはわからないでいた。
 だがこの度、それがまさかこのような形で判明することになろうとは――
「夜中だけど、今回はクラウディアス様だからってことに甘んじて各国に緊急召集をかけよう――」

 リファリウスは真夜中のリモート会議を開催。 すると案の定、その裏では各国のお偉いさんが今か今かと待ち構えていた、 クラウディアス様だからってことに甘んじたのは正解だったようだ。
 そしてその内容は、あの詰め所にいるクラフォードらやフィールド出力制御室にいる面々にも公開された。
 それに対してやっぱりアルディアスがすかさず――
「おおっ、クラウディアス様! ご無事でしたか!」
 だが、リファリウスもすかさず言った。
「悪いけど今回緊急をかけたのはほかでもない、急を要する事態が発生したからだ。」
 えっ、何があったのだろうか!? 各国のみならず、詰め所と制御室にいる面々も固唾をのんでいた。
「クラウディアスは危機を脱したが問題はまだ続いている、 以前にこちらでも少し話題に出たことなんだけど最悪のケースが発生した……だから心して訊いてほしい――」
 えっ、まさかそれは――
「もしかして、竜巻はクラウディアスを通過して今なお進んでいるのですか!?」
 イツキがそう言うとリファリウスは言った。
「キミの読み通りになったようだね、アレの目的はどうやらうちではなかったということだ――」
 なんだって!? まさか――セラフィック・ランドのグラトが言った。
「もしや――うちが狙いだということですか!?」
 すると、リファリウスは端末を操作して言った。 竜巻の進路予報線は中心地のスクエアとエンブリア、そしてフェニックシアまで伸びていた。
「どうやらそのようだ。 ほかに西南西方向の国を見ても距離が遠すぎる。 だったら別方向から進んだ方が近そうだろう、つまりはそう言うことになりそうだ――」

 リファリウスは話を続けると、ルーティスが訊いた。
「クラウディアス通過の途中で竜巻の力が消えた、ということですか?」
「厳密には消えたってわけではないけれども、端的に言えばそうなるね。 理由として考えられるのは、クラウディアスに衝突すると目的地であるセラフィック・ランドにまで到達の可能性がなくなるから。 ここで下手に力を消耗したりしようものならセラフィック・ランドには届かなくなるだろう、 それを恐れてクラウディアスに衝突などせず、害を与えることなく通過しようと考えたのだろう。 向こうとしては予想外の展開で、クラウディアスがあまりに抵抗するもんだからここは逆らわずに進むことにしようと考えた末の決断だったに違いない。 それがわかっていたら迂回の可能性もあったのかもしれないけれども――まあ、それについては真相は闇の中だね。」
 でも、だとしたら何故セラフィック・ランドを? その問いについてはフロレンティーナが言った。
「あくまで可能性だけど、ガリアスと同じことを考えているかもしれないわね、あるいは”インフェリア・デザイア”か。 要するに、エンブリアを滅ぼすために、再び”天使の舞い降りる地”から滅ぼそうと考えたんじゃないかしら?」
 まさか、そんな!
「さっきも言った通り、あの魔法の発信源は例の竜巻の真ん中にあった物体の中だ。 ご丁寧に姿くらましの魔法を使って隠れていた、もしアンカーが刺さっていなかったら私らでさえも見つけることはできなかったハズだ。 そう考えるとアンカー部隊の功績は大きいし、それだけの魔力を保有したやつが犯人とも言えるから、 やはり犯人は最初にも示唆され、そして今ほどもフローラさんが指摘した通り、 ガリアスのような”ネームレス”か、”インフェリア・デザイア”である可能性が非常に高いことになる。 しかも竜巻の大きな規模の魔力ということを考えても、その中にあんなエンチャント素材の塊を浮かせて移動している点でも、 そして風力を直にコントロールしている点でも、そのエンチャント素材の塊の中を根城にしてこの世界を蹂躙しようと考えているに違いない――」

 夜が明けようとしていたが、まだ辺りは真っ暗。 竜巻は現在セラフィック・ランドに進行中、到達見込みは5日後の昼……一行は会議室でどうするか悩んでいた。
「中身にあんなものがあったところで手の出しようがないもんな、 リファリウス、いっそのこと、お前のその得物で何とかならねえのか?」
 ガルヴィスが言うとリファリウスは答えた。
「竜巻の風抜きにして考えた場合、竜巻は多分何とかなると思うけれども、 刺さっているアンカーによる分析だと内部はなかなか高密度な魔力で覆われているようだ、 だから魔力の暴走が予想される、そうなったらって考えると――」
 ガルヴィスは再び悩んでいた。
「だよな、そんなこったろうと思った。 そもそも中にいるのが”ネームレス”クラスとしたら、んな下手な真似はしねえもんな……」
 あの性格からなかなか考えられないほどのこいつのこの態度、 全員が集まっているところでの出来事ということもあってか、何人かが物珍しく彼を見ていた。
「さらにリオメイラとキラルディアで共同で調査したところ、意外な事実が分かった――」
 リファリウスは恐る恐る言うと、ガルヴィスはリファリウスのほうに向きなおった。
「まずは流通ルートだ。 やはり、いくつかの行方不明だった物資がグラウガンの地に流れて行ったっていう形跡が見つかったみたいだ。 グラウガンを改めて調査したところ、恐らくルシルメアで採掘されたであろうエンチャント鉱石が見つかったってさ。 で、物資の流れを見ると、一旦あのヴァレスタンドを経由して入ってきていることがわかったんだ。 で、ヴァレスタンドでの流入と流出だけど、なんかよからぬ方法で取引が行われていたらしい、いわゆる裏取引ってやつだ。 無論、各ルートからこっそりと持ち出していたこともわかっていて、国によっては関係していた者を全員縛り上げている状況らしいね――」
 それに対してティレックスとユーシェリアは頭を抱えていた。 確かに、自分の国ではこんな時間に関係各所でパニックになっている状況らしい。大丈夫か、この国――
「そして、問題の犯人について。 ”ネームレス”らしきまでは特定できた。 でもそれがなんと、意外な人物が浮上してきたんだ――」
 そいつはなんと、これまで行方が分からず、 そしてクラウディアス連合軍が躍起になって探しているその人物の可能性が浮上してきたのである。
 それについてはヒュウガが説明した。
「連合軍の調査隊の調べでは、そいつはグラウガン行きの正規のルートでやってきていることが分かった。 逆算してそのルートをたどると、エガルドラ、オーサートフォー、そしてリオメイラも経由しているらしい」
 グラウガンからリオメイラまでの距離を考えるとずいぶんとまた大回りをしているんだなと思った一行である。 竜巻がグラウガンからリオメイラ南沖までにかかった時間は3日、 リオメイラからであれば別の港を経由してグラウガンに行くことも可能だが、 その場合は1日程度のハズで、このルートだと1週間以上はかかる見込みらしい。
 するとティレックスは気が付いた。
「ん? オーサートフォー? そこって確かタンゲルって国にある港町だよな?  タンゲルってそう言えば――」
 そう言ってティレックスはまたしても気が付いた。
「おい! まさか、そいつって言うのは――」
 リファリウスは頷いた。
「そう、リオメイラからタンゲル行きの船に乗って最終的にグラウガンで破壊兵器を発生させ、 そして今やその兵器でエンブリアを脅かしているのは―― リオメイラの前に一旦ヴァレスタンドに行っており、なおかつその前にはリジアルにも立ち寄っていた。 その前をさかのぼると、あろうことかアルディアスに一旦立ち寄っていることもわかっており、 さらにその前にはなんとディスタードの旧本土島……いや、当時はディスタード本土島にいたこともわかっている。 その人物は何を隠そう、あの旧ディスタード帝国の皇帝その人だ――」
 なっ、なんと、まさか!