クラウディアスに戻ってきた。
「で、スレアもやられたって?」
ティレックスはそう言うと、スレアはため息をついていた。
「リリアさん曰く、男どもがあんまり自分の彼女に対するリアクションがそっけないもんだから計画を実行したんだとさ。
言っても俺はそうじゃないほうだと思うんだが、なぜかついでにハメられちまった、腹が立つよな――」
自分の彼女に対するリアクションがそっけない件については、該当者がリリアリスに相談してきたことでもあった。
「ん、ということは――ほかにもやられた男がいるってことか?」
ティレックスはそう言うとスレアは頷いた。
「あとはクラフォードだな。
例によってルルーナにやられたんだとさ、クソっ、それはちょっと見てみたかった気がするぜ――」
クラフォードに代わって「おい、こら」。
「スレアは誰に? やっぱりフラウディアさん?」
スレアはため息をついた。
「いや――お前は知らないかもしれないが、フラウディアがジュリって女と結託していたようだ――」
ジュリってまさかのあのジュリ!? ティレックスは訊いた。
「知ってるのか? いずれにせよ、あの女もいろいろとヤバイ女だ。
滅茶苦茶リリアさんに仕込まれていることは間違いない、
危険人物とみて間違いないだろう、ルルーナと同じレベルのな――」
そしてテラスにて。
「協力してくれてありがとうね。」
リリアリスは言うとディアナが答えた。
「いえいえ、ティレックスさんに幻想風景を見せつつ場所をこっそりあの森に移す程度なら造作もありませんよ。
それにちょっと、楽しかったです! 私もすっかり妖魔の女の仲間入りですね♪」
リリアリスは答えた。
「いえいえ! そんな滅相もない! 私のほうこそステキな時間をありがとうね!」
「いえいえ、むしろ私のほうこそです!」
何の話だ――
「クラフォードさんはスケベさんですからねー、簡単に引っかかるんですよー♪
またシエーナさんに訊いてこようかなーって、どうせ私をオカズにしているに決まっていますもんね♪」
この女も超怖い。
「ええ、そうね、あの変態はそのあたりが関の山よね。反省してウィーニアにたくさん貢いでもらわないと。
それからあなた……なかなかやる女ね――」
ジュリはにっこりとしながら答えた。
「はい! こういうことでしたらお任せを♪」
リリアリスはにこっとしながら言った。
「所作がどれをとっても女性のもの、しなやかで繊細な動き、そんな風に育てられたっていう感じに見えるわね。
それに”花鳥風月”で舞った時のあれこそがまさにそれって感じよね――」
ジュリ……いや、つまりはこの方はあのイツキだということである。
「ええ、あの扇を持った時に思い出しました。
私は旅芸人の一座として修行をしている身だったんです。
何かに巻き込まれてやられてしまいましたが……でも、私はその中でも女形として一座を飾り立てていました。
そしてこの変身術……すごいですね! 男の人を騙くらかすこともできるだなんて、なんだかすごいし、
しかもよくわからないけれどもとっても楽しいです!」
とっても楽しいって……男性陣への波乱の展開待ったなし! それに対してリリアリスは楽しそうに言った。
「いや、そんなものより、あんたのその所作のほうがすごいわよ。
そのせいで変身術の方向性が全然別方向に向いちゃってる、これは――いろいろとまた研究していく余地があるわね――」
それに対してフロレンティーナが大いに喜んでいた。
「ホント、やばいわよねジュリったら。
でも、ジュリみたいな子だったらお姉さん、いつでも大歓迎よ♥」
「はい! フローラ姉様! これからもご指南ご指導、よろしくお願いします!」
なんか嫌な予感しかしないのだが。
後日――
「これでいいか?」
ガルヴィスはリファリウスに何かを手渡していた。その際の出来事をクラフォードが目撃していた。
「これは――まーた随分といいものを手に入れてきたもんだね。」
「フン、当たり前だろ。まあいい、そんなことより、そいつと交換だ」
するとリファリウスは何かを渡していた。
「はいよ。10個だから40個渡せばいいかな?」
「そんなに持ちきれねえよ。まあいい、そこにいるクラフォードに手伝ってもらうとするか」
何を手伝うんだ――そう思いながらクラフォードはしぶしぶ話に参加してきた。
「てか、何をしているんだ?」
すると、そこへイールアーズがもんくありげにやってきた。
「ガルヴィス! てめぇ……俺の獲物を横取りしやがってただじゃおかねえぞ!」
今度はなんだ……クラフォードは悩んでいた。
「悪いな、これで勘弁してくれ」
と、ガルヴィスは落ち着き払った様子で先ほどリファリウスから渡された何かを5個ほど取り上げるとイールアーズに差し出したが――
「そんなものでこの俺が満足すると思ったか!」
イールアーズはそれを手で勢いよく払っていた。
地面にそれが落ちると、その物体にクラフォードが気が付いた。
「これ、薬じゃないか? しかもリファリウスがさっき作っていたやつのようだが――」
ガルヴィスは頷いた。
「必要なんでな、こいつが作るものなんだから間違いねえんだがそんなにぞんざいに扱うとは――」
と、ガルヴィスは丁寧に拾い上げていた。だが、イールアーズはお冠のようすである。
「どういうつもりだガルヴィス! 説明しやがれ!」
それに対してガルヴィスはリファリウスに言った。
「なあ、悪いんだけど説明してやってくんないか? お前のほうが説明がうまそうだからな」
リファリウスは得意げに答えた。
「いいだろう、今回はいいものを持ってきてくれたから特別に引き受けよう。」
リファリウスはなおも得意げに説明を始めていた。
「イール君の問題はおそらく自分で倒そうと思った敵をガル君に奪われたっていうことだろう――」
「そのとおりだ! しかもこいつ、よりにもよってちんたらと手ぇ抜いてこれ見よがしにやってやがる! 俺のことバカにしてるだろ!」
イールアーズの怒りは絶賛上昇中。でもそういえば――クラフォードが気が付いた。
「そういやガルヴィス、お前最近妙な技使って魔物を殴っているよな? あれはどういうことだ?」
「それも私が説明しよう。」
と、リファリウスが言うと、2人はリファリウスに注目していた。
「ガル君がやっていたのは通称”アーティファクト・ブレイク”系のアーツだ。
基礎にはこういうのがあってだな――」
リファリウスはその場で構えると、クラフォードの胸めがけて魔法を放った!
「痛っ! なっ、なんだよっ!?」
すると、リファリウスの手のひらには何か小粒な物体が乗っていた。
「手加減したからこんなもんか。
とにかく、今私がやったのは”アーティファクト・ドロー”というもので、
出力も特別抑えたからこれしか採取できなかったよ――」
と、おもむろにそれを握ると、それは激しく燃え上がり、そして塵となっていた――
「今のは――エンチャント・ストーンのようだったが――」
クラフォードは胸を押さえながらそう言った。
「そう、キミの生命力から作ったエンチャント・ストーンだ。しかも火属性……燃え盛る闘志と抱いているとは流石というところだね」
クラフォードは頷きつつ、そして訊いた。
「なんとなく関連がありそうな気がするような気がしないような。
つまりはどういうことだって? あんたのその技とガルヴィスのやっていたそれとどんな関係が?」
リファリウスは頷いた。
「実は同系統のアーツなんだ――といっても
”アーティファクト・ブレイク”も私が開発した”アーティファクト・ドロー”が基礎になっているんだけどね。」
リファリウスは話を続けた。
「今やった通り、この系統のアーツは対象の部位を奪って自分のものにするという――要は盗賊の盗み技と同じようなそれでしかないんだ。
で、それをヒントになんかできないかと考えたところ、相手の生命エネルギーを何かしらの物体に変えてアイテムとしてゲットという技として出来上がった。
それの基礎技が”アーティファクト・ドロー”なんだけど、相手を攻撃する技としては威力が低いのがネックなんだ――」
それに対してガルヴィスが言った。
「でも成功率を考えると何度もしないといけないらしい。
しかも仕組み的にもう少し強い衝撃が必要ってことらしい。
だから俺は、それなら直接ぶんなぐれば早いんじゃないかって言ったんだ」
リファリウスは頷いた。
「まさに名案だったよ。それで”アーティファクト・ブレイク”ができたんだけど、
それで奪う効果を実現するにあたり、どうも相手の生命力を奪わないといけないことが判明したんだ。」
てことはつもり――
「それで獲物にトドメを刺す時にわざわざあんなことしてやがったのか――」
イールアーズは急に冷静になっていた。
「悪いな、こいつの作る薬が欲しかったんでな、材料集めに協力してやったんだ。
だが、このアーツの特製ゆえか、ちょっと火力が弱いのが玉に瑕でな、
トドメというときにちんたらと、もどかしい思いをしていたのなら悪かったな」
すると、イールアーズはガルヴィスが持っていた5つの薬を取り上げて言った。
「そういうことなら俺も魔物を弱らせるために手伝ったことになるからな! 手間賃だけはもらっとくぞ!」
イールアーズはそのまま去った。その様を見届けつつ、クラフォードはリファリウスに言った。
「……ものづくりへの道は険しいもんだな、アーツのほうにまで手を加えるとは――」
「そうとも、ものづくりは一日にして成らずだ、作るためだったら専用のアーツの開発だってするよ。」
なんかますますヤバイ。
「で、俺もできればそれで手伝えればいいんだが――」
クラフォードが訊いた。
「そいつは助かるね。
何せここんところのクラウディアスに戦争があったせいであちこちで少なからず何かしらがあるけど修復のためにいろいろと足りていないからね。
アーティファクト系の技を覚えたければフィリスのもとに行って来るといいよ、いい具合に指南してくれるはずだ。」
しかし後日――志願した男どもはことごとくフィリスに滅多打ちにされていたことは想像に難くない――。