さらに数日後――
「つまりはその、”インフェリア・デザイア”というのを倒したということですな!
流石はクラウディアス様! すべては丸く収まったということですな!」
と、アルディアスは調子よく言うがデュロンドが釘を刺した、リモート会議の席である。
「違う違う。”インフェリア・デザイア”というのはいくらかが存在し、
今回倒したというその”イーガネス”はその中の一部に過ぎん、と申しておっただろう?」
それと同時に一緒に会議の席にいたティレックスも頭を悩ませていた。
それに対してグレート・グランドのバフィンスが――
「ん、でもその”インフェリア・デザイア”の親玉の”イーガネス”というのを斃したんじゃねえのか?
だったらつまりは”インフェリア・デザイア”てえのはもうガタガタってこったろ?」
ダメだこりゃ――リファリウスは呆れていた。それと同時に一緒に会議の席にいたクラフォードも頭を悩ませていた。
「ちょっと整理が要りそうだね。
まあいい、それについては後ほどメールで改めて送ることにするね。
結論から言うと”インフェリア・デザイア”はまだ全部倒されていないということだ。
だから、とりあえずエンブリアの脅威は”一旦”去ったけどまだ安心はできない、という理解でいいと思うよ。」
それに対して、セラフィック・ランドが言った。
「一応、こちらではすべて理解しているつもりですので、そのうえで訊かせてもらいたいことがあるのですが、
となると、問題はその”インフェリア・デザイア”がどのぐらいいて、どのぐらい強いのかということですね。
それに――それほどの存在が、どうして存在しているのでしょうか、その目的は?
クラウディアス様、このあたり、説明いただくことはできますか?」
しかし、リファリウスは――
「ごめん、残念だけど、私ではいずれの解も持ち合わせていないんだ。
だから、これについては引き続き調査をしていくしかない――」
それに対し、セラフィック・ランドが前向きに回答した。
「なるほど、そうでしたか。
では、そういうことなら、セラフィック・ランドにお任せを――」
しかし、リファリウスはそれに対して拒否した。
「いや、それには及ばないよ。
そもそも向こうに行ったときに感じた空気――異世界アンブラシアは私らの故郷の世界で間違いない。
それに――私らがこちらの世界でかなりの実力者として名をはせることになった理由も何となくわかったよ。」
それについてはクラフォードが言った。
「過酷な環境は人を強くする、まさにこれに似たようなことが言えるな。
あの世界の空気は確かに濃密だった、一定空間当たりのマナの保有量が多分エンブリアよりも高いんだろう。
だからその分あっちの世界に生きる生物もマナの恩恵が得られる量が多いだけ強いってわけだ。
そんな生物相手に普通のエンブリア民がかないっこないのは目に見えている」
クラフォードは話を続けたが――
「つまりは”ネームレス”の故郷であることはおそらく確実で、この件はそいつらと、俺らに任せておけばいいってことだ。
幸い、俺はこの”ネームレス”でもあるクラウディアス特別執行官様にずいぶんと世話になったからな、
おかげ様で晴れて”ネームレス”並とは言わないまでも、それ相応の能力はあるつもりだ」
クラフォードは少々リファリウスに対して圧を強めにかけてそう言った。
すると、バフィンスが言った。
「へっ、なんでい、なんだか面白そうな話じゃねえか。
向こうには強えやつがごまんといるってことか! そりゃあいいぜ!」
いいわけねえだろ、クラフォードは頭を再び抱えていた。
「うおっし! この場をちょいと借りてクラフォード!
これからテメェに修行を課す! その異世界アンブラシアとやらに行ってむこう10年間みっちり修行して来い!
それまではティルア……いや、グレート=グランド……いや! エンブリアに帰ってくるんじゃねえ!」
やめろ――クラフォードは殺意に満ち溢れていた。それを聞いていた周りは苦笑いしていた。
「ふふっ、大丈夫だよクラフォード君、お誂え向きにここにとても優秀な師匠がいるからね、修行にはこと困らないよ。」
クラフォードは殺意に満ち溢れた顔でリファリウスに言った。
「ああ、どうやらそいつは間違いないみてえだな……くれぐれも頼んだぜ、師匠!」
さらにそれに続いて再びグレート=グランドより、今度は主のリオーンから。
「じゃあついでに……イールのやつはいねえみてえが、やつにも20年は帰ってくるんじゃねえって伝えとけ!」
いや、あの戦闘狂は伝えなくたって自らそうするに決まっている、ティレックスを含めた3人はそう思っていた。
「それから、異世界に行ったら、くれぐれもうまい酒を持ち帰ってくるのを忘れんじゃねえぞ!」
はいはい。
「そうだ! 一通り持って帰ってこい!」
じゃなくて、会議の席だぞやめろ。
何はともあれ、セラフ・リスタート計画については、これにて無事に終焉を迎えた。
最後はしょうもない話ばかりになったが、とりあえず、伝えられることは伝えられた。
しかし、一難去ってまた一難、今度は”インフェリア・デザイア”というやつをどうするかということにかかっていた。
やつらの存在理由は? イーガネスは害悪そのものだったが、ほかの者はエンブリアにとっては害のない存在でいいのか?
さて、どうしたものだろうか。
リファリウスはリモート用の端末を片付けていると、そこへフロレンティーナがやってきた。
「会議は終わったのね。で、これからどうするの?」
リファリウスが訊いた。
「あれ、ロミアンの里にはいかなかったの?」
フロレンティーナが言った。
「ええ、行かなかったわ。
私はもうすでにアンブラシアに行くって決めてたからね、あの時にそう決意して飛び出してきたつもり。
ロミアンが見たって言う風景を目指すことが私の使命だからね、ここで報告するのは時期尚早かなと思って」
なるほど、リファリウスは頷いた。
「ああ、そうそう、トトリンたちがキラルディアの船団と一緒にこっちに来たわよ。
これでクラウディアスにはラミア族の女性も一緒に暮らす国となるってワケね」
フロレンティーナがそう言うと、リファリウスは頷いた。
「みたいだね。
昔ながらの掟への選択と、別の選択肢、生物はもっと自由でよかったハズなんだ。
だから選択肢は多いほうがいい、彼女らにもそれが伝えられてよかったよ。」
フロレンティーナはにっこりとしていた。
「そうね、それこそが、ロミアンの目指したラミア族の未来の姿だからね――」
すると、そこへカスミがひょっこりと現れ、フロレンティーナが話を続けた。
「ああ、そうそう、ちょうどさっき、カスミに手合わせをしてもらったのよ。
やっぱり、この子って侮れない能力の持ち主よね――」
やっぱり可愛いは正義だな――リファリウスはカスミの顔をじっと見つめながらそう思った。
いや、じゃなくて――
すると、フロレンティーナは訊いた。
「ねえ、ガルヴィスじゃないけど、どうして異世界間移動したときの反動でそんな違いが出るのかしら?
確かに彼の言う通り、記憶があったりなかったり、それこそ、リファ様たちはフェニックシアの”孤児”としてエンブリアに来たって言うじゃないのよ。
それに、例の”産業の神”の件もそう、あまり年齢がいっているような人物はいないし、幼いアリみたいな子もいたし。
でも今回は逆、私たちがむこうに移動した分には何も異常はなかったように思うのよ――」
それに対してリファリウスは答えた。
「実は、それは考えたんだけど、今回はとあることがあったからあえて無視することにしたんだよ。」
とあること? フロレンティーナは訊いた。
「うん、今回私らは”精神トンネル”を介して行ったんだ。
これはつまり、幻獣が召喚される場合のルートと同じ道をたどることと言える。
幻獣の場合、つまりは彼らの場合はおそらくフェニックシアの”孤児”などの”ネームレス”のような現象は起きていないハズだと思ったから、
そう言うことならと思って、今回は気にしないことにしたんだ。」
確かに、記憶などがなくなろうものなら幻獣は召喚されて目的を見失うことでどうにもならなくなるだろうし、
毎回器が変わるというのであれば、それはそれで活動が面倒かもしれない。
「だから、純粋に異世界間を移動した方法が違うんじゃないかってこと。
そう思ったんだけど、向こうに行ったときにそれについて思い出したことがあってね――」
何を思い出したのだろうか。
「”次元の狭間”と呼ばれるワームホールが問題となっていたことを思い出したんだよね。」
”次元の狭間”!? フロレンティーナはさらに訊くと、リファリウスは頷いた。
「もしかしたら、あれに飲み込まれたんじゃないのかと思うんだよ。
次元を超越する方法を使って世界間を移動すると、今度は精神の器が異常をきたすようになる。
無論、この方法で移動した場合に器の見た目について変わるかどうかについてはなんとも言えないところだけれども、
少なくとも、記憶についてはあやふやになることが言われているらしいんだ。
世界間を移動した際のペナルティというべきか、つまりは前にいた世界での記憶がショックによって封じられるらしい。」
そんなことが――フロレンティーナは頷いていた。
「でも、精神トンネルを経て移動した場合は――ペナルティを受けない?」
リファリウスは頷いた。
「恐らく、前にいた世界との精神の出入りがちゃんとうまくできていれば大丈夫ってことなんだろうね。
トンネルは”標”が形成した”道”だった、”道”を進んでいる分には大丈夫だったんだろう、そう解釈するしかなさそうだね。」
そして、フロレンティーナはリファリウスの隣に座った。
「それって、どこの情報?」
リファリウスは頷いた。
「うん、あれは確か、アンブラシアにある”ヴァナスティア”の図書館だったかな?」
物語は――一気に加速する!