ユニットの中にはリファリウスが、ソファの上のそれをじっと見つめてたたずんでいた。
そして、そのソファの上のそれを見たティレックスは驚いていた。
「まっ、まさか――大事なものって!?」
すると、フィリスが「しーっ!」と言って注意を促していた。
ティレックスは慌てて口を手でふさいでいた。
しかし、ソファの上のそれはその音に反応したのか、動き出した。
フロレンティーナさんはティレックスとユーシェリアと一緒にユニットの外へと出てきた。
私たちは外に出ていましょ、フロレンティーナさんがそう言って2人を促したのである。
「言われてみればずっと引っかかっていた、
リファリウスからもフィリスさんからも共通の昔話を聞かされたことがあった。
でも、その中で唯一面識のない人物がいて、その人はどうしたんだろうと思ってた。
それがまさか、こんな形で対面することになるなんて――」
ティレックスはそう言うとユーシェリアは嬉しそうに言った。
「私も聞かされたことがあったよ、ここに大切なものを忘れたこと。
もちろん、私はそれがなんなのかも教えてもらっていたけど――でも、本当に、本当に無事で良かった――」
フロレンティーナさんは涙をぬぐっていた。
「ホント、無事でよかったわね。
これからまたクラウディアスが楽しくなりそうね――」
そしてユニットの中、その大切なものというのは――
「よかった、本当によかった――」
大切なものは人の姿をなしていた、ということは人であるということか。
しかし、その人は一言も発せず、ただただリファリウスを見つめながらキョトンとしていた。
「そっか、もしかしたらスクエアが封じられている間の記憶がないのかな――
でも、そんなことはどうでもいい――とにかく良かった、本当に良かったよ――」
リファリウスはその人を優しく抱きしめていた。
リファリウスの目からは涙があふれていた。
そして、その人の後ろから今度はフィリスが――
「本当にごめん、まさかこんなことになるなんて、そして置き去りにして――」
抱きしめた。リファリウスともフィリスとも面識があり、そして、今このユニットの中にいるメンツとも面識のある人物、
ティレックスの言うように、2人の共通の昔話に登場しているにもかかわらず、面識のない人物であることはおろか、
これまでほとんど語られていない人物、そして言葉を発せない人物、つまり、
「ホント、無事で良かったです、ティオさん――」
アリエーラも涙をぬぐいながらそう言った。
そう、スクエアの港のリビング・ルーム・ユニットの中に置き去りにしてしまった大切なもの、
それは彼女、ティオ=ブランディルという女の子で、彼女もまた”ネームレス”の一員と思しき人物である。
「あのなあ――そういうことなら最初から言わないか?」
クラウディアスにて事情を話したところ、ガルヴィスからいきなりクレームが。しかし――
「キミのことだから”また女かよ!”って言うと思って言うのをやめておいたんだ。
もちろん同様の理由で男性陣には伏せておいた、わざわざ説明するのも面倒だしね。」
ったく、こいつは――いや、確かにその通りなんだが。
だが、こんなに幼いとまでは言わないが、小さな女の子だとは思わなかった。
それに精神的疾患が原因と考えられる失語症とはまた穏やかではない、
しかも”ネームレス”とか、これは確かに放って置けない要素満載である。
「ティオりんはここに一度来ているから大丈夫だよね?」
ティオりんってなんだよ、クラフォードは呆れていた。
「シオラさんのこともシオりんとか呼んでるもんなあいつ――」
それに対してシオラはにっこりとしていた。
「まあ、そんなワケだ。
大切な旅の仲間の一員だからね、みんな、よろしく頼むよ。」
テラスがなんだかにぎやかになっていた。
ティオとカスミの癒しモンスター二大巨頭が一緒におり、
カスミの膝の上にティオが寝ていて彼女の頭をやさしくなでているカスミだった。
幼女を膝枕にしている少女――いやいやいや、逆だろ? あからさまにティオのほうがお姉さんである。
だが思い出してほしい、フェアリシアのシオラの件を。
そう、思いのほか歳を取っているカスミのほうが実は年上なのである。
「可愛い――」
カスミはティオの頭をなでながらにっこりとした面持ちでそうつぶやいた。
「カスミんのお姉さん節も可愛いよねえ♪」
リファリウスは楽しそうにそう言うと、カスミはにっこりとしながら得意げに答えた。
「知ってるし」
誰よ、彼女にこんなこと吹き込んだリリアリスは。(確信)
そこへフロレンティーナさんがやってきて、ベンチに座ると話をし始めた。
「それにしても彼女はどうして置き去りに?」
対面に座っているフィリスが答えた。
「それを話すにあたって、まずはユニットを外した意図から説明するわけだけど――」
フロレンティーナさんは考えた。
「外す意図と言えばつまり、船で一戦交える際にユニットを仕方なしに外したとか?」
フィリスは頷いた。
「そん時ティオは寝てたからね。
あまりに気持ちよさそうに寝ていたもんだから起こしづらくなっちゃってね、
で、そのままスクエアでユニットを組み替えて出港したワケよ。
だけど――」
フロレンティーナさんはため息をついた。
「そのままスクエアの消滅に巻き込まれ、彼女はユニットと共に――」
リファリウスは両手にそれぞれコップを持って、彼女たちのいるテーブルのところにやってくると、
それを2人の前に差し出しながら言った。
「皮肉なことに、それをした際の件もスクエアからのお達しだった、
ガブリエル・トラウトが確認され、甚大な被害が出ていたっていう問題だった。
当時のマダム・ダルジャンの性能だと流石に相手にするのは困難、
だから対ガブリエル・トラウト用に作ったユニットで対抗することになったわけだけど――」
「それでリビングを外したのね?」
「そう――リビングは場所をとるからね、仕方なく外すことにしたんだ。」
確かにあのリビング・ルーム・ユニットは、
マダム・ダルジャンに積むユニットにしてはプレイルームほどとは言わないまでも、そこそこに大きなサイズだった。
「ん? あんたがやったのか?」
そこへティレックスがやってきた。今の話を聞いていたようだ。
「また来たんだ、聞いてるよ、例の資源の取り決めの件で謝りたいって話だろ?
いいよもう、それはあとで会議の席で請け合うよ。
各国がそれぞれのことでとにかく謝らせてくれってうるさいんだ、
仕方がないから各国の謝罪会見を一手に見守る会を作ってその機会を設けることにしたんだ。」
先に話が来ていたのか、ティレックスはあっけに取られていた。
「それより今の話だけど、当然リリア姉さまとフィリスの話だ。
私は水の中はNGだからね、そうなると姉さまの出番になる。」
それを聞いてティレックスは頷いた。
「そう、水中NGって聞いてたからな、ちょっと納得した。
でも、さも見てきたかのように語るのが妙な感じだよな」
リファリウスは得意げに答えた。
「仕方がないだろう、姉様とはシンクロしているんだもん、
さも見てきたかのようにどころか、ほぼ自分の体験と言ってもいいレベルだ。
姉様にもシンクロを通じてでなく、直接ティオりんに会わせて上げたいね。」
まだ会えてないのか、ティレックスは考えていた。
「飛行手段の確保の件か、大変そうじゃないか?」
リファリウスは答えた。
「いやいや、作業は着々と進んでいるよ、メカニックが優秀だからね。
さてティレックス君、3時間後には会議が始まるけど、準備はいいのかな?」
えっ、そうなのか? ティレックスは耳を疑った。
「今言ったように、謝罪会を開くから緊急招集になった、面倒くさいよね。
さあ、キミらの謝罪もゆっくりと聞いてあげるから、きちんと納得できるようなスピーチをするんだよ。」
それに対してティレックスが言った。
「い、いや、俺が言うわけじゃないんだが――」
「なんだよ、反省しないってのか?」
「いや! 別にそう言うつもりじゃないから! 勘弁してくれよ――」
ティレックスはリファリウス相手に参っていた。