エンドレス・ロード ~プレリュード~

最後の奇跡 第1部 光を求めて 第2章 再起への誓い

第26節 彼はもう振り返らない

 早速、腕を鳴らそうとディルフォードとレヴィーアとで手合いを始めた。
「さーて、どれで相手してやろうかね――”おたま”で倒せるやつ相手に剣だしたくねぇしな――」
 完全にコケにされていた。
「いようし! それじゃ、これで相手してやろうじゃあないのよ♪」
 彼女はやはり”おたま”を取り出して構えた。 そんな相手にディルフォードは悩んでいた、かつて万人斬りと呼ばれたこともある男に対していくらなんでもそれはないだろう。
 だが、そんな考えは甘かったことを痛感させられた。

「遅い!」
「うわあっ!」
「ほらほら、どうしたよ!」
「ぐはあっ!」
「ほい! 次は――右のひじ!」
「くっ! させるかっ!」
「だから遅ぇっつってんだろうが!」
「ぐばぁ!」
 ……ディルフォードは”おたま”相手の彼女に対して一方的にやられていた。
「今度は――左ひざの裏!」
「ま、待った、降参だ! しかし何故なんだ、なぜそれほどの強さが!?」
「甘いわ!」
「うわあっ!」
 ディルフォードは最後に勢いよくぶっ飛ばされ、完全にダウンした。

 それから2か月ほど続けてディルフォードは彼女に挑み続けた。もちろん歯が立たない。 そもそも彼女のことはよく知っている、一言で言えば”バケモノクラスの強さ”なのである。 以前に”万人斬り”である自分と”鬼人の剣”と呼ばれるイールアーズ、 そしてクラフォード……”万人狩り”と呼ばれる彼の3人でこの女に挑んだことがかつてあった。 その結果は見事なまでに惨敗……この女にはもはや強者が束になったところでかないやしないのである。 それも別に細工なしの正面からの真っ向勝負で……仕返ししたければいつでも請け合うなどと言われて2度3度挑んだがそれでもダメだった、 この女、どうなっているのだろうか。
 しかしディルフォードは彼女が相手の部位を正確に打ち抜けるあの能力をどうしても知りたかった、 それさえあればエレイアを助けることができるかもしれない! だから彼は諦めることなく彼女に挑み続けた。
 だが――
「残念だけど、この技はあんたには無理だから諦めたほうがいいわね。」
「そんな! 何故なんだ、何故無理なんだ!」
「こういうのは理屈では説明できないからそんなこと言われたって困るけど、 とにかく無理、絶対に無理、諦めな。」
 彼女は片手で”おたま”をクルクルと回しつつ、そう言うと目の前に突き付けてきた。 だがしかし、ディルフォードは食い下がらなかった、エレイアを……彼女を助けたい――どうしてもエレイアを助けたいんだ!  ディルフォードは自分の剣をその場に伏せ、彼女に懇願していた。
「……本当にやる気?  もちろんどんなことでもするし、今まで自分が戦いで獲得してきたこともすべて捨てるほどの覚悟がいるっていう条件付きよ、 それぐらいでないと多分あんたには絶対に体得できないと思うわね。」
 すべて覚悟の上だった、今の自分などどうでもいい、いや……むしろ今の自分自身から脱したい。 何よりエレイアを助けるためなら何だってする、今まで獲得してきたものにどんな意味があったというのだろうか、 血塗られた剣に血塗られた道……今ではそんなもの、もはや忌まわしくさえ思ってきた。 だから私は今までのものはすべて捨てる、必要なのはエレイアを助けることだけだ、 それ以外のものはすべて放棄してもかまわない――ディルフォードの決意は揺るがないものとなっていた。
「そう、よっぽど決意が固いのね……気に入ったわイケメンさん。彼女のこと、大事にしてあげてよね。」
 彼は今まで戦いの中で得てきたことをすべて放棄した。 やってきたことの事実がぬぐえることはないが、 それでもこれまで得てきたものを引き換えとして新たなものを得るのだ、 それは茨の道となることは容易に想像できることだろう。 だが、彼はもう振り返ることはない、エレイアを助けるためなら――
「今まで使っていた刃をよこしなさい、それは私が処分しておくから――」
 ディルフォードは”骸”と呼ばれた血塗られた剣をレヴィーアに差し出した。 この剣はもともと何の変哲もない剣なのだが、血で滲んでいるその剣はいつしかそう呼ばれるようになっていた。