リファリウスこと、アールが副将軍の座についてからまもなくの話。
リファリウスはヒュウガと共にサウスディスタードの西のほうへとやってきていた。
そこには広大な荒れ果てた土地が広がっており、その土地の上にいくつかのみすぼらしい建物が辛うじて建っているだけの光景だった。
北西部はそんな様相とは裏腹にいくつかのきちんとした建物が立ち並んはいるものの、活気はない様子である。
「これが私らが任された土地というところだね。」
アール……いや、リファリウスは得意げに言うとエイジ……ヒュウガは腕を組んでいた。
「だな、新米のお前に任せるところなんかこんなところで十分だっていう意思表示とも取れるな。
けど、こんなもの――」
リファリウスは頷いた。
「ああ、何もないというのならむしろ好都合だよ、自分で1から作り上げられるほうがいいに決まっている。
まさに、まさに作り手の血がうずくってもんだね!」
ヒュウガはため息をついた。
「楽しそうだな、お前。
俺としてはむしろある程度の形があったほうが決まりがつけやすくてありがたいんだが」
リファリウスは両手を腰に手を当てて訊いた。
「おや、その点は随分と見解が分かれるところだね。」
「ったりまえだろ?
ってか、そもそも町づくりからやれってシムシティかよ?
やらなきゃいけないことは他にもあるんだ、そっちはどうする気だ?」
リファリウスは顎に手を当てて考えた。
「ルシルメアの件だろう? なんたって無数のレジスタンスがいるんだから一筋縄ではいかないよ。
それに、ルシルメアの件については残念ながら私としても妙案が浮かばない、だからもう少しインプットが欲しいところだけれども……」
「で、何もやらずに待っているぐらいだったら町づくりでもしていようってわけか?
随分と優雅な副将軍様なことだな」
「言ったろう? 私はそもそも将軍の器じゃないってさ。」
「ああ、聞かんでも見ればわかる、どう考えても将軍って器じゃないもんなお前」
「うん、でもキミのような根暗が務めるよりは私のほうが適任なのは間違いないね。」
「だから根暗言うのやめろ。
それに五十歩百歩、お前がやったってただただ悪くなるだけだ、
だからディアス将軍に”すいません、魔がさして手上げただけです”って言って来いよ」
とはいうものの、いろいろと人を動かしてはなんだかんだとやっている2人はその土地を立て直していた。
そう、この地こそが後にアールが将軍となった後の地盤でもあるサウスディスタード花の都・ガレアの前身なのである。
「アール副将軍! このような感じで進めていってもいいのでしょうか!?」
それは、北西の区画の建物一帯を取り仕切っていた、老紳士風のお偉方だった。
「わざわざ人を動かしてもらってすみませんね――」
アールは悪びれた様子で言うと相手は頷いた。
「いえいえ! むしろ、ここがこのような荒れ果てた地になってからというもの、
長らくこの状態が続いていますので――」
すると、アール副将軍はおもむろに――
「あっ! そちらはお気を付けください! 不発弾がありますので!」
と、規制線が張られている場所の先へと進んだリファリウス。
「なるほどね、空襲によって破壊された町の痕、未だに問題が続いているのか――」
お偉方は答えた。
「そうです! それはもう何十年も前のことですが、
当時は飛行技術も存在していた頃はそのようなこともありました!
ただ……それも廃れてしまいましたがね――」
リファリウスは訊いた。
「私はそれが廃れた理由を知らないんだ。
どういうことなのか教えてくれると助かるね。」
お偉方は頷いた。
「というよりも、むしろ関係筋しか知らない情報だと思います。
一般的には飛行のためのエネルギーの確保の難しさ、
そして昔の戦争時代からの教訓として敵に狙われた際のリスクの高さが言われていますが、
エネルギーに関してはさほど問題ではなく、
リスクに関してはそもそも狙う側がそれ相応のリスクを伴うことからして議論に上がることはあまりありませんでした」
「ということは、他に理由があると?」
「はい。それはエーテル波を用いた妨害電波のせいだと言われています」
リファリウスは考えた。お偉方は続けた。
「もちろん、それ自身もエーテル対策を施していれば問題はありません。
ですが、飛行技術だなんていうもの自体が最先端の技術であり高度な技術、
技術を持っていない国からすると、それは何とも羨ましいものであることは明白ですからね」
リファリウスは再び考えた。
「つまり、飛行技術を羨んだ連中は抗エーテル機さえも上回るエーテルによる妨害波を発生する代物を作り出して無力化することを試みた、
自分たちが扱えない技術を使う相手に一矢報いるために既存の技術の精度を高めることで対等に立とうと考えたわけだ。」
「まさに仰る通り。
そして、それらを発する拠点がこの世界の各地にいくつかあったりします。
何の変哲もないものが電波の発信源だったりするのです。
それにより、実際に航空産業で栄えた文明は大打撃を食らいました。
このガレアの地はそうなる前によその国の爆撃を受けてこのようになってしまいましたが、
ガレアを爆撃した国の航空産業もまた電波の餌食となり、壊滅したようです。
今では電波の発信源を設置した勢力は時代錯誤で廃れていったそうですが、
発信源については現状そのままであるため、結局飛行技術に関しては復興できないまま時代が流れているのですよ」
なんとも詳しいな――リファリウスはそう訊くとお偉方は頷いた。
「はい、実は私は実際にその飛行技術に携わっていた者ですので。
遅ればせながら、私はエルディック=ランドブリームスと申します。
以後、お見知りおきを――」