エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

遥かなる旅路・天使の舞 第6部 妖魔の決意 第7章 妖魔の休日

第138節 3つの懸念点

 数週間前、例のA会議室での出来事。
「”天命の刻30”ですか?」
 アリエーラはそう訊くとスレアも訊いた。
「20はともかく、”天命の刻”って何だよ」
 リリアリスが答えた。
「今の世がこんな風になっているのって自分たちで言うのもなんだけど、多分”ネームレス”ありきだからなんだと思う。 しかもその”ネームレス”が結構集まっているところでのことだからさ、まさに”ネームレス”無双よね。」
 ディスティアは頷いた。
「確かに”ネームレス”ありきという感じですね。 ”ネームレス”なくしてはこのようなことにはならなかったと思います」
 リリアリスは頷いた。では、何故”天命の刻30”なのかというと――そこにも提示されている20について訊いてみた。
「20――順当に考えれば何かの経過年のことだろうか……20年前と言えば――」
 スレアは考えながら言うと、
「20年前で”ネームレス”と言えば”フェニックシアの孤児”が発見されたのがちょうどそのぐらいの時期でしたっけ?」
 シャナンがそう言うとリリアリスは頷いた。
「なるほど、最近は世界を均すために”ネームレス”というピースが重要だったと、 そして、まさにその原点となる時期を”天命の刻”と名づけ、今がちょうどその20年後ということですか!?」
 ディスティアが言うとリリアリスは頷いた。
「あくまで節目という意味合いで命名したに過ぎないんだけど。 まさに”天”から”ネームレス”が遣わされ、世界均衡という使”命”を遂行すべくっていうようなイメージで適当に考えただけなんだけどさ。」
 ネーミングセンスについては良くも悪くも定評のあるリリアリス、”天命の刻”とはなかなか好評のようである。

 リリアリスは悩んでいた。
「でも、戦争はまだ終わんないのよね――」
 シャナンは言う。
「ないに越したことはありませんが、人間生きている限りはどうしてもですね――」
 世の常か――
「やはりロサピアーナでしょうか?」
 ディスティアは言う、例のロサピアーナか――リリアリスは悩んでいた。
「念のために訊くけど、ウォンター帝国とは違うのよね?」
 リリアリスは訊くとシャナンが言った。
「北のダムサード大陸の大国として有名ですね。 随分と前からクラウディアスとは仲が良くなく、戦争を続けている国ですね――」
 仲違いどころか今も戦争が続いているのだろうか、リリアリスは訊いた。
「ソーヴェって国があって、解体したうちの1つの国よね?」
 それに対してシャナンは言った。
「解体したうちの1つの国というよりもロサピアーナの前進がそもそもソーヴェで、周辺の国を吸収していったという感じですね。 現状はクラウディアスとは緊張状態がずっと続いていますね――」
 緊張状態がずっと続いているということはいわゆる冷戦状態――リリアリスは思った。
「私、あんまり知らないんだけど、戦争になるようなきっかけってあったの?」
 シャナンが答えた。
「バルナルドの戦いですね――」
 あっ、なるほど、そう言うことか……リリアリスは思った。
 バルナルドといえば元々はソーヴェに吸収されそうになっていた国だという。 バルナルドはクラウディアスに支援を求め、ソーヴェから身を守ることにした。 だが、それが戦争の引き金となってしまったのである。
「戦争の結果はあっさりとクラウディアスの勝利、3日で決してしまったので3日戦争とも呼ばれています。 ソーヴェ軍は大人しく退くことにしたのですが、 そのあとはエダルニアと手を組んだりなどしてクラウディアスをはじめとする各国に対して挑発していましたね」
 だが、ソーヴェは長らく続かず、解体した。 それにより冷戦は終わったかと思われたが、それでもやはりロサピアーナはクラウディアス旧連合軍などを警戒しているのだという。
「つまりはそれでまだ冷静の状態で続いているってことか――」
 リリアリスは悩んでいた。
「そう言えばディスタードと言えば皇帝の足取りはつかめたのですか?」
 第2の懸念点、皇帝はどうしているかということである。
「全然ダメ。お金も時間もこれ以上かけられないから、結局捜索は打ち切りが決定したわね――」
 それならそれで仕方がない。

 そして、第3の懸念点についてはリリアリスから話をしだした。
「問題はそのロサピアーナと手を組んでいたっていうエダルニアというやつね。 なんか急に弱体化して再編成とかいう話が合ったみたいだけど、弱体化した原因とそして再編成した後の状況が気になるわね……」
 それにはシャナンも悩んでいた。
「確かに、弱体化した原因というのはまったくわかっていないんですよね。 確かなことを言うと、エダルニアの猛将と呼ばれていたエイジャルやレンバル、そしてザワールが死亡したという話があり、 それで再編成ということらしいですよ?」
 あれ、どこかで聞いたような名前――リリアリスは悩んでいた。
「いずれも元々ウォンター帝国の手の者でしたが、政策違いにより、植民地だった旧エダルニア領を根城にして独立してエダルニア国を建てたのです。 もちろん、ウォンターからは反感を買いましたが、エダルニアはロサピアーナと手を組んだことにより、ウォンターとしては手が出せない状態になってしまったのです」
 ただでさえクラウディアスとは緊張状態が続いている中、 ここでさらにロサピアーナと戦争となればウォンターとしては厳しい状態に追い込まれるため、諦めざるを得なかったそうだ。
 それにより、ウォンター帝国はさらに強固なる地盤を固めようと各国の植民地化を行い、 クラウディアスやロサピアーナをも支配する力をつけようとしていた。 だが――
「クラウディアス連合軍に先に目をつけられてしまった。 戦争に負け、エダルニアのような失敗の前例もあり、内部抗争が再度発生してウォンター滅亡への道を歩んでいった、と……」
 リリアリスはそう言った。 もはやウォンターではダメだと判断し、ディスタードなどの別組織で世界支配をもくろむ輩たちがウォンター滅亡へと追いやったということだそうだ。
 ともかく話はそれたが、
「で、先にウォンターから離れていった連中はそれだけの手練れだったっていうワケね。」
 ディスティアが頷いた。
「ですね。まあ、リリアさんならご存じの通りの末路をたどったあの件の時のことですよ――」
 ディスティアはリリアリスに目配せしていると、リリアリスは「ああ……」などと言って納得していた。 それに対し、シャナンらは首をかしげていた、ルシルメア東部でのあの件はどうやら公になっていないらしい。 それで、リリアリスは話すべきかどうか悩んでいた。
 ともかく、プリズム族に関連する話についても、どうやらこれらの懸念事項については避けては通れない状況のようである。