ドリストン大陸を横断していたはずのガルヴィスは、やはりリファリウスの支配権の近場というのが気に入らなかったためか、そのままバルナルト国という場所へとやってきていた。
「どこの誰だか知らないがこの俺に挑んでくるとはいい度胸だ、そういうことなら相手をしてやろう。
だが生憎、俺はすこぶる機嫌が悪い――命が惜しければさっさと尻尾を巻いて逃げ出すことだな!」
それから少し経ち、ディスタードのガレア軍とヘルメイズ軍、つまり王国派ディスタード軍は次なる作戦を講じていた。
「まったく、本土軍のせいで計画が変わっちゃったじゃないか。」
アール将軍こと、リファリウスたちは再びガレアでディスタード内サミットを開いていた。さらに話を続けた。
「それにしてもみんな、わざわざガレアまで悪いね。」
グラントは答えた。
「いやいや、ガレアは地の利がいいですからね、集まりやすいに越したことはありませんよ。
当然、それでもヘルメイズでもっていう声はあるかもしれませんが、残念なことにガレアほどの華やかな会場がなくてですね、
いろいろと考えているのですよ」
リファリウスは言った。
「それなら貴族の屋敷なんかはいかがでしょう?
この前、ディアティラのエスハイネ邸にお邪魔したのですが、あそこはとてもいいところでしたよ。
とはいえ、その場合はどこかしらのお宅に交渉しなければならないと思うのでそれがネックかもしれませんが――」
するとグラントは申し訳なさそうに言った。
「そうですか? 我々としてはむしろそこまでという感じでは――。
それでも気に入っていただけるようでしたらちょうどいい場所がありますので、次回はそこを使います?」
リファリウスは楽しそうに言った。
「いいですね! なんだぁ、ちゃんといい場所持っているじゃあないですかぁ♪」
「いえいえ、そんな、お見せするほどの場所では……」
グラントは謙遜していた。
今回の会議部屋はガレア内で新しく作られたホールで、西の海が望めるガラスのサッシの部屋だった。
テーブルは今回はリングテーブルではなく、如何にも会議室にあるような四角のテーブルで、
カタカナのコの字型に並べて部屋の中央を囲っていた。
一方で椅子はボックスソファ、テーブルと色を合わせており、どちらもベージュで統一されていた。
「机は利便性、椅子は座り心地重視にした結果だよ。」
だが、デザインはどちらもなかなかオシャレなセンスをしていた。
部屋の様相も何やらただの四角形のデザインではないようだ。
極めつけは西の海が望めるガラスのサッシ、すべてただの壁ではないところにこだわりを感じる。
クラウディアス大陸とその海が見える景色を隔てる窓枠などが一切なく一望できるという点は拘りに拘りぬいて作ったところである。
「どうせならクラウディアスのある海が見える場所がいいと思ってさ。
まぶしかったらスクリーンを閉めるといい。」
オシャレなのはいいが高そうだ。しかし――
「確かにただの壁にすれば安く済んだんだけどね、
自前で作る分にはそんなに気にするようなところではないから拘るところは拘って作るのがうちのモットーだ。」
ガレアの建物の秘密、それは外部から資材など購入するのではなく、調達した素材を使って自前で全部作っているところにある。
例によってリファリウスのことなので何でも作れそうな気がするが。
「ということで、この際だからガレアは建築事業を手掛けるところにしようかなと思って。
ガーデン法だとか各地の復興事業にも着手しているわけだからちょうどいいかなと思って。
無論、ハイエンドモデルをご所望の方だったら豪邸でも別荘でもなんでもござれ。
このガレアの様相はまさにモデルハウスだと思ってくれればいい。」
素晴らしい! 多くの者はそれに対して絶賛していた。
もはやディスタード帝国なんていうのは衰退もいいところ、未来に目を向けた方針への転換が迫られている。
そのハズなのだが、ガレアは設立当時から方針が一貫しており、最初からそのまま未来に向かって突き進んでいたというわけだ。
「確かに素晴らしいガレアの街並みだと思います。
ですが、砲撃などを受けた場合はどうするのでしょう?」
リファリウスは得意げに答えた。
「その心配はいりませんよ。現にこの建物はディスタード本土軍の砲撃を一撃受けています。
ということはつまり、そういうことですよ。」
なんと! それでも破損しないで残っているとは! それには誰もが舌を巻いた。
「ただ、このガード・コーティングを施すとなるとちょっと値が張りますね。
ガーデン法でギリギリ復興できた町にはいずれもそれがなされていません。
ガーデン法が行われたところでそのコーティングがなされているのはアクアレアとティレフ・ガーデンのみです。」
ちなみに、ガーデン法の名前の由来はそのティレフ・ガーデンである。
ガレア軍の新拠点ティレフ・ガーデンを設置する際に用いられた建築手法がその時にリファリウスが考えた手法であり、
ガーデン法と便宜的に名前を付けただけだそうだ。
「では、ユーラルなどはいざというときに敵からの攻撃で破壊されてしまうということですか、
それならなんとか考えなくてはいけませんね――」
グラントがそう言うとグリモッツが言った。
彼はもともと本土軍の中堅だったが今はガレアへと亡命し、ガレア軍に従事していた。
「いえいえ、ユーラルだけではありません。
リファリウス様の開発されたガード・コーティングを必要とする場所はユーラルなどのみならず、
全世界で必要とする技術だと私は考えます!」
まったくもってその通りだった。
戦争がなくならない世の中である以上は残念ながらどの国にもそれが必要である、言われれば確かに――誰もがそう思った。
「言っても高いという理由の背景に、これを施すのが大変なことと作るのが大変なこと、
それと材料も大変と、とにかく大変なんだ。
だからグリモッツ氏が言うようにどの国にも必要なのはもっともだけど、
おいそれとできるものではないのがどうしてもネックだ、やりたいのは山々なんだけどね。」
そんなに大変なのか……誰もが思っているとグラントは話を聞いた。
「材料というのは何が必要なのでしょう?」
リファリウスは右手で抑えるようなしぐさをしていた。
「まあまあ、それは追々で。とにかく面倒するのは確実だ。
ベストな体制でそれを実現させるのならクラウディアス連合国が一丸となってやらなければいけないレベルだからまたの機会にしよう。
それよりも早速だが本題に入りたい。」
えっ……連合国全体って、それはなんとも大規模な計画になりそうである。