エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

果てしなき探求 第1部 ガルヴィスとリファリウス 第2章 利用する者される者

第19節 未知の物質

 それから数日後、ディスタードのガレアにて。
「シエーナさん、わざわざ悪いね。」
 リファリウスが港で彼女を出迎えていた。
「いえいえ、いいんですよ、せっかくだから遊びに来たんですよ♪」
 シエーナは楽しそうにしていた。するとシエーナはとある物質をリファリウスに差し出して言った。
「これですね、ディスタード本土軍がどうしても採掘できなかったという物質です。 ガルヴィスさんが無理やり切り出してくださいましたが、これが限界でした――」
 リファリウスはそれを受け取った。 ちょうど500mlのペットボトル程度のサイズのそれはどうやら金属らしいが、リファリウスもそれには興味津々だった。
「これは見たことがない物質だな。 案外一般的に知られていないだけって可能性もあるけれども、よくわからないなぁ……」
 シエーナもその金属に手を当てて何やら考えていた。
「うーん――どうしても魔法金属とも感じるのですがそれにしては魔法金属的な特徴がなく、普通の金属のような感じなんですよね……」
 シエーナは手を引っ込めるとリファリウスはその金属を片付けた。
「そうだね、とにかくこれは預かっておくよ、いろいろとありがとうね。」
「いいえ、私は別に。それを言うならガルヴィスさんに……って、多分怒りますよね」
「多分ね。ほとぼりが冷めてから言うことにするよ。」

 2人はそのままヒュウガのもとへとやってくるとその金属をさっそく分析にかけていた。
「これがディスタード本土軍が見つけたという物質か。 こいつは確かに無茶苦茶かたい物質だな、この硬度だと工業用ドリルも入らないだろうな」
 リファリウスは頷いた。
「これをマトモに使用できれば確かに多くの軍を圧倒できたハズだろう、 私が知る限りでもこれほど頑丈な素材は見たことがないからね。 でも……こうも硬いとなると採掘はもちろんだけど、加工することも困難だろうね。」
 するとヒュウガから妙案が。
「なら、ガルヴィスにやらせるんじゃなくてお前が行けばよかったんじゃないか? そのキチ○イ刀だったら余裕だろう」
 ところが――
「こいつは……! 面白い、世の中にこんな物質があるなんて!  見てみなよ、私の剣が負けちゃったよ!」
 なんと! これまでなんでもスパスパと切ってきたリファリウスの”兵器”なのにその金属に挑んだ結果、まさかまさかの”兵器”のほうが刃こぼれしてしまった!
「なんだって!? 嘘だろう!? マジか!? なんだこれ!?」
 ヒュウガは驚いていた。
「ガル君が力づくで破壊したのに取れたのはこの一部だけ―― ”ネームレス”の力をもってしても採掘困難かつ加工さえも難儀する代物―― ディスタード本土軍やユーラルの現地の人たちの双方が採掘できなかった理由もこれではっきりしたよ、つまりはこういうことだったんだ。 これじゃあ私の剣なんて到底”兵器”と呼べないよね!」
 リファリウスは得意げに言うとヒュウガは言い返した。
「その理屈は理にかなっているし確かにその通りとは思うのだが、 お前のその得物は多くの武器や物体を破壊してはことごとくスクラップ化していったのだから”兵器”と呼ばれることは避けられねえな」

 そして、リファリウスの計画の全貌が。
「ったく、それにしてもよくやるよ、ユーラル大陸での作戦、ディスタード本土軍を一網打尽にするのにあいつの力を使わせるとは……」
 ヒュウガはそう言うとリファリウスは答えた。
「面倒くさそうな性格してるけど行動原理は案外単純だからね、あの人。 都合がいいことにユーラルで発見されたこの超硬度鉱物資源をネタにすれば彼としても納得のいく冒険になることだろうと思って考えたことなんだけどさ。」
 計画の全貌はこうである、時はちょうどクラウディアスとディスタード帝国本土軍との戦争の真っただ中、 各所で本土軍を倒すためにクラウディアス連合軍が総力を結集して挑むことになった。
 だが、それにはもう一つどうしても対応が難しい場所があった、ユーラル大陸である。 ユーラルは本土軍がずいぶん前から侵略を開始しており、大陸の面積で言うとほぼ半分以上というところまで掌握してしまった。 そこへ新たにキラルディア帝国がクラウディアス連合軍の一員として名乗り出ることとなったが、それだけでは戦力的にも足りていない。 そこでガルヴィスを利用したのである。
 もちろん、ガルヴィスにこの話を持ち掛けたところで断ることは目に見えているのでそこは考えなければならないのだが、そこで超硬度鉱物資源の話が出てくる。
 この物質はディスタード本土軍が前々から目をつけていた物質なのだが、あまりに超硬度な物質ゆえに採掘できないでいた。 だが、こんなレア・メタルみたいな物質を逃すはずもなく、現場に本土軍が採掘の拠点として基地を建設してしまったのである。 そのため、その物質を奪取するためにガルヴィスとカイトは一戦を交えその場にいた本土軍を蹴散らすと、 その超硬度鉱物資源の奪取に成功したというわけである。
 無論、そのままでは本土軍も黙っていないので攻勢転換してくるわけだが、 ガルヴィスとカイト、そしてシエーナの3人を中心とするクラウディアス連合軍が応戦したのである。 それによってディスタード本土軍は大敗を決し、クラウディアス連合軍によるユーラル奪還作戦は成功を収めたのである。
 そう、つまり――ガルヴィスは策士リファリウスに利用されていたのである。

 3人が話をしている中へカイトが参加してきた。
「レア・メタル的な超硬度鉱物資源だからね、そういう話になると彼も気にするだろうさ。 未知の物質があればもしかしたら自分たちの謎も解けるかもしれない、 まさに人間の心理に訴えた作戦だよ、リファリウス氏もうまく考えたもんだ」
 リファリウスはカイトに訊いた。
「ガル君は今はどこに? 怒ってなかった?」
 カイトは得意げに答えた。
「ディスタードっていうワードを出した段階で予想通り帰るとか言い出したけど、 リファリウス氏が関わっているわけではないことと未知の物質のことを説明すると何とか納得してもらえたよ。 ただ、2度目はないだろうね、ガルヴィスだけでなくリファリウス氏もだけどさ」
 カイトは3人のもとに近づきながら言った。
「今はそのドリストン大陸、キラルディアの人たちに連れられてそのまま大陸を横断するんだってさ」
 そっちのほうが面倒くさそうなものだが――リファリウスは言った。 というのも、あの大陸でも勢力争いがあるため、それはいいのだろうかと思ったのである。
「もちろん訊いたよ。 でも、”ディスタード”とかいうワードが耳障りだったのかな、 だから憂さ晴らししてくるんだとさ、本当におっかない人だよね……」
 まさに物騒。