その男は敵と戦闘を繰り広げていた。
「なんだよっ、クソっ、しつこいやつだ!」
その男は背中の大きな剣を引き出し、敵の目の前で立ち止まった。
「やたらめったら不用意に足を突っ込むもんじゃねえな。まあいい、俺にあったのが運の尽きだと思え!」
男は力をためると、直線状に地を這う衝撃波を放った。それによってその敵は――
「ぐはあっ!」
倒れされた。なんだ他愛のない――そう思って男は敵に近寄った。
「まだ生きているのは知っている、貴様、何者だ?」
男は倒れている敵の胸倉をつかんで持ち上げるとそう訊いた。
「いっ、痛てててて!」
「いきなりどういうつもりだ、この俺を殺そうなどとはいい度胸じゃねえか、どういう了見の所業だか言ってみろ!」
男は苛立っていた。それに対して敵は冷静に答えた。
「だ、誰がお前なんかに……」
男はその敵から手を放すと、敵の身体は再び地面に転がった。
そして再び背中の大きな剣を構え、思いっきり振りかぶった。
「そうか、言う気はないということだな。だったら仕方がない――」
そしたら敵は命乞いを始めた。
「まっ、待て! 頼むから助けてくれっ! 俺には家族がいるんだ! 頼む!」
「そうか。でも、お前の選択がその家族の運命をも決めたんだ、後悔はあの世ですることだなっ!」
男は勢いよく剣を振り下ろした!
「分かった! 言う! 言うから命だけは助けてくれ!」
男が振り下ろした剣は――敵の身体の少し手前でピタリと止まった。
敵は悲鳴を上げたが男は冷静に言う。
「ほう、そうか、言う気になったのか。
よかったな、まだ首と胴体がつながっている状態で。ならばさっそく言ってもらおうか?」
男は剣を少し上げたが、まだ、敵を切断せんという状態のまま構えていた。それに対し――
「たっ、頼むからその剣をしまってくれ!」
「ダメだ、先に話をしてもらおうか?」
「お前のさっきの攻撃で足をやっちまった! どうせ逃げられねえよ!」
すると、男は敵の足を自分の足でグイっと踏み込んだ――
「いっ……! そこだけはやめてくれ!」
その男からは涙が出ていた、捻挫か、本当に痛いようだ。
男は敵が痛がっているスキに持っていた得物を取り上げて言った。
「いいだろう、しまってやる。さあさっさと吐け、でなければ次こそ本気で殺す」
こいつ、マジでヤバイやつだ……敵はそう思った。
敵改め、ケガをしている男は少し落ち着いたところで話を始めた。
「俺は傭兵だ、それでどういうことかわかるだろ――」
それでどういうことかわかる……わけがなかった、意味不明である。
そのため、男はそいつから取り上げた剣を引き抜きつつ、さらに問い詰めた。
「そうだな、どうやら殺すしかなさそうだ――」
すると相手は慌てていた。
「なっ、なんでだよ! どうしてわからないんだよ! いいか、俺はライザット軍に雇われたんだよ!
それでお前を殺れって言われてきたわけ! それで満足か!?」
どうせ生きて帰れる見込みはない、そいつは開き直ってそう言った。
だが、男は首をかしげていた。
「俺を殺す? 何故だ? ライザットって一体何の話だ?」
相手のほうはそう言われて困惑していた。
「は? 何ってお前――”修羅のレイノス”だろ!」
しかし男は否定した。
「誰だそれは? そんなやつは知らん。
そもそも俺にはガルヴィス=クラナオスっていう名前がある」
ガルヴィス!? ”修羅のレイノス”ではないのか!? 相手の男はびっくりしていた。
「は? 違うのか? マハディオスに雇われたあいつじゃないってのか?」
マハディオスというのも知らん、ガルヴィスはそう言うと再び剣を引き抜きながら話し始めた。
「おい、まさか――俺は人違いで狙われたとかそういうオチじゃないだろうな――?」
その表情は殺気に満ち溢れていた。それに対して相手の男は慌てて答えた。
「す、すまん! 本当に悪かった! この通っ……痛たたたっ!」
男は即座に土下座しようとしたが捻挫した脚が痛くてその場でもがいていた。
無様なやつだな――ガルヴィスは呆れつつ、男から取り上げた得物をその場に落として去ろうとしていた。
しかしその男はガルヴィスを慌てて引き留めた。
「まっ、待ってくれ! 悪かった、本当に悪かったから! だから、その――」
ガルヴィスはその男のほうを振り向かずに行った。
「まさか、足を挫いたから今度は町に連れてってくれとかそういうふざけたことを言うつもりじゃないだろうな?」
そっ、それは――相手の男は一瞬だけ考えた。
「いや! 本当にすまなかった! だからお前……いや、あんたをライザットの町に招待しようかと思ってな!
だから、その、つまり――頼む! 俺を連れていってくれ! この通りだ!」
男はガルヴィスに頭を下げていた。
こいつは自分を勘違いで襲ってきたやつだし、そもそも縁もゆかりもないこの男とライザットという……町? 組織?
なんだか知らないけれども面倒ごとに巻き込まれる予感がする、そう思ったガルヴィスは断るつもりだった。
しかし――残念ながら、ガルヴィスがこれまで通ってきた道のりはどこもかしこも戦・戦、戦があちこちで展開されているこのご時世、
どこに行っても同じようなもんかと思うとすぐに諦めた、そろそろ宿屋も欲しいし、
戦争なんてやっているご時世で何の情報もなしに野宿とか危険すぎる。
それにこいつによると、この大陸はどうやら他に休めそうな町がないらしい。
そういうことであれば仕方がない、その男の捻挫している脚に土系の回復魔法を使うと手を乱暴に引っ張り上げ肩を貸すことにした。
「いっ! 痛たたたたっ!」
「うるせえぞ、回復してやったんだから我慢しろ。さっさとそのライザとやらに案内しろ」
厄介なやつに関わってしまったようで相手の男は後悔していた。しかし後の祭りである。