エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

あの日、すべてが消えた日 第3部 堕ちた天使の心 第5章 反勢力軍の反撃

第72節 不穏な空気

 夕食の席に出てこなかったシオラ、その夜にユーシェリアとフラウディアは彼女のことが気になり、彼女のいる部屋へとやってきた。
「あっ、すみませんお二人とも――」
 シオラは悪びれた様子でそう言うと、食器を手で示しながら言った。
「本当にすみません、わがまま言ったみたいで。 これ、おいしかったです――って、多分言う相手が違いますよね」
 クラルンベルの兵隊たちが作った食事なので、言う相手が違うというのはその通りだった。
「でも、この状況下でこんな食事にありつけるだなんて――言い方が悪いかもしれませんが、ここの人たちは恵まれている方なのかもしれませんね――」
 と、フラウディアが言った。どうやらフラウディアが体感した際にはあまり恵まれた環境ではなかった事もあったということらしい。
「ゴメン、私もそう思っちゃった、アルディアスでも不自由はしたことないし、帝国に行ってからはずっとガレアでいい思いさせてもらえてたし――」
 そして、ユーシェリアの場合はそもそも不自由を味わったことがない、問題発言が飛び出しそうだったので自重していたようだ。
 それよりもシオラである、何をしていたのか2人は訊ねた。
「もしかして、ずっとリリアさんとお話?」
 ユーシェリアはそう聞くとシオラは頷いた。
「はい、実はアリエーラさんともちょっとだけお話が出来ました。 まだ全然体調がすぐれないみたいなのですぐに離席されましたけど」
 そうだったのか、それでもとりあえずはよかった、2人は安心していた。
「あと、フィリスさんは画面じっと見ていると気分が悪くなるから参加されていませんでしたが、今は城の中を動き回るほどに回復されているそうです。 それと、フローラさんもお姿は見えなかったのですが声だけは聴けました! つまりは皆さん、大分回復している状態の様ですね!」
 どうやらみんな順調なようである。本当に良かった。
 シオラはさらに話を続けた。
「ちょっと相談事があったのでリリアさんとお話していたんですよ、”ネームレス”についてのお話ですね――」
 ”ネームレス”関連の話をしていたのか、2人は納得していた。
「実戦で精霊魔法の試し打ちをしてみたので効果のほどを報告していたんですよ」
 そんな報告義務があるの!? 2人はそう聞き返すとシオラは焦っていた。
「あっ、いえ……そういうわけでは、ただの私の善意によるものですから――。 リリアさんが以前に効果の程を出来れば聞いてみたいなって言っていたので使ってみた時のことを話していただけですよ。 ちょっと加減が難しかったですが、それを言うとリリアさんも私の時もそうだったって言っていました。 やっぱり私達、この世界の住人ではないんですね、みなさん誰もが同じような道をたどっているようです――」
 だが、リリアリスは相手がヒュウガなんだから大丈夫大丈夫と軽く言っていたようである。 確かにヒュウガは”ネームレス”だが、当然の如くその意図で言っているわけではないように見えるのは気のせいではないだろう。
「でも、シオラさんってそんなに実戦で使ったことがないのですか?」
 と、ユーシェリアは聞いた。確かにこれまでにも何度か使えていてもいいようなケースは何度もあった。 例えばディグラッドの件など、あれもそうなのではと思うところだが。
「そうですね、精霊魔法と一口にいっても色々ですからね。 今回のような強力なものはこれまでに使った覚えがなかったので、だからお話しておこうかなと思いました」
 程度の問題だったのか、しかし不安であれば話してみるというのはいい事なのかもしれない。
「でも、こんな強大な力を秘めている精霊魔法なのにそれをナチュラルに使いこなせるアリエーラさんってすごいな……」
 と、シオラは遠い目で言った。確かにあの光景は凄いものを見ているようだった。 例えばリリアリスのとんでも跳躍力に合わせて風の精霊を呼び起こし、軽々と浮き上がる様などはまさに彼女ならではの芸当といえるだろう。 無論、敵を適切に対処する際の攻撃魔法もしかりである、それは凄いものを見ているようだった。
 それについてユーシェリアが言った。
「やっぱり、精霊魔法って超高等技術ですよね、なんでアリエーラさんもリリアさんもあんなに簡単に使えるんだろうって、 すごい気になっているんですけれども、やっぱりシオラさんでもそう思うものなんですね?」
 シオラは頷いた。
「はい、それこそ世界の構成要素を直接操作する能力ですから扱いはとても大変です。 でも、その分だけ効果は確かです――」
 でも、それでもそれをシオラが使えるというのはやはり尊敬に値することだった、フラウディアが言った。
「程度なんて関係ないですよ! 使えることだけでもすごい事なんだと思います!  私なんか精霊魔法というもの自体始めて知りましたという程度の者ですが、 それでも、そこまで聞くと使えるだけでも如何にすごいことなのかはわかります!  だから、シオラさんもすごい人なんだと思います!」
 そう言われたシオラは照れていた。

 翌朝、一行は慌ててアジト内のそれぞれの個室から出て食堂に集まると、 そこにあるテレビの前へと集まっていた。
「なんだ、どうしたんだ? 大変なことになっているって聞いたんだが――」
 ティレックスはそう言うと自分の端末をいじって何やらを調べているヒュウガが言った。
「ロサピアーナ軍がクレイジアに侵攻してきているんだそうだ。 同盟国じゃなかったんだろうか、何が何やらだ」
 どういうことだ? 確かに同盟国じゃなかったんだろうか――なんでロサピアーナがクレイジアに?
「でも、クレイジアのどの町にも影響は出ていないみたいですね――」
 と、ディスティアはテレビを注視しながら言った、目的は何だろうか。 するとテレビには山火事の様な光景が。
「酷い、森を破壊しているなんて――」
 フラウディアは悲しそうな表情でそう言った。
「確かにひどいな。しかも場所はエードラの近くか、 エードラっつったら……どうやらいきなり計画倒れだな、そっちは一旦あきらめた方がいいかもしんないぞ」
 そう、エードラの近くといえば昨日話をしたプリズム族の隠れ家がある場所に近い所である、 ロサピアーナが出張ってきている以上はこちらとしては大人しくするしかないかもしれないのである。
「大変です! みなさん情報を確認されています!?」
 と、今度はその場所にシャルロンが慌てて飛び出してきた。
「シャルロンちゃん! 見て! 山火事だよ!」
 ユーシェリアがそういうと彼女は口元を抑え、涙を浮かべながら「酷い」とつぶやいていた。
「しかも本当に山が燃えているみたいだな、場所はロサット山か、そっちも見合わせた方がよさそうだな――」
 と、ティレックス。それに対してララーナが違和感を覚えた。
「ヒュウガさん! お願いします!」
 ララーナにそう言われてヒュウガはピンときた。 そしてモニタを映し出した、それはマダム・ダルジャンからの映像だった。
「ロサプール付近の映像だが見てみろ、周囲は町を残して野放図の状態だ」
 周囲は丸坊主で町の建物以外は木々はなくなっていた。 それと比較するため、以前にロサプール付近に上陸した際の画像を出していた。
「酷い! なんでこんなことするの!」
 ユーシェリアは怒りながらそう言うとシオラがぼそっとつぶやいた。
「魔女狩り――」
 えっ、まさか――と、その時、テレビのほうにも動きが。
「今度はバングサーリ!? まさかこれって――」
 スレアがそう言うとララーナは頷いていた。
「いずれも昨日お話したプリズム族の隠れ家があるところですね。 具体的な場所であるかどうかはわかりませんが、でもそうだとしたらこれは――」
 まさかこの中にロサピアーナへの内通者が潜んでいて情報をリークしているのでは!?

 するとその時、背後から鋭い殺意を感じたディスティアは即座に振り返りながら抜刀した!
「やはり、鍛錬を怠っているからエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌとかいう者に踊らされてしまうのですかね。 目を覚ませとまでは言いませんが、少なくともこの私に盾突こうなど100年早いな」
 なんと、ディスティアに対してイールアーズが思いっきり剣を振り落としていたのだ!
「うるさい、黙れ――俺は、俺はエンプレス・フェルミシア・キャロリーヌ様の忠実なるしもべ…… あの方は俺にすべてを与えてくださる、だから俺はあの方のためなら何でもする、ただそれだけだ――」
 イールアーズの目は虚ろな状態だった、支配から逃れられていないようである。
「イールアーズ! くそっ、別の個体が支配してんのかっ!」
 クラフォードは悔しそうにそう言っていた、彼は平気なようだがエクスフォスの2人組は見かけない、まさか彼らもまた――
「となるとここは危険です! 早くこの町から脱出しましょう!」
 と、シャルロンは促した。そうか、ここにクラルンベルの別動隊がいるということがロサピアーナ側に伝わっているということである、 イールアーズやエクスフォスの2人がいる時点で――
「もう少し早くに気が付くべきでした、私がしっかりしていなかったばっかりに……」
 シャルロンは気を落としているとフラウディアが優しく諭しながら言った。
「そんなことないよ、シャルロンちゃんはちゃんとやっていたよ。 シャルロンちゃんの何を知っているわけじゃあないけれど、ここの一個体を任されているっていうことはそういうことなんじゃないかな?」
 そう言われると、シャルロンはにっこりとしながら答えた。
「フラウディアは優しいね! ありがとう! そうと決まったら早くここを脱出しましょう!」
 ということでアジト内にいた者たちは各々で脱出を試み、クラルンベルのマンディウという町で落ち合うことにしたのである。