あれから数日が経過、リリアリスたち4人の女性陣は依然として目を覚まさないでいた。
「お姉様たち大丈夫かな――」
エミーリアがいつもの5階の寝室で4人の様子を心配そうに眺めていた。
「精神力を使い果たして魔力欠乏症に陥っているからしばらくは目を覚まさないでしょうね。
私にも身に覚えはありますが、とにかくこういう場合は自然治癒に期待するしかありません――」
シャナンはそう言いながらエミーリアを諭していた。
「お姉様たち、タフだから大丈夫ですよね!」
「ええ、もちろん。こんなことでやられるぐらいならとっくの昔にやられています。
ですからそのうちきっと目を覚ましますよ」
シャナンにそう言われるとエミーリアは静かに扉を閉めた。
「そうだよね、大丈夫だよねきっと。おやすみなさい、お姉様たち――」
そして、ヒュウガとティレックスとユーシェリアはフェラントの港にあるドッグにこもり、マダム・ダルジャンのメンテナンスを続けていた。
「とりあえずシステムは全部正常に戻ったな。そっちも大丈夫か?」
「大丈夫だ、船は操縦できなくても計器類を見て正常か異常かはわかるからな」
「それはいい。そっちは?」
「システム・オール・クリアーだよ! 問題なさそうですね!」
ユーシェリアはコンソールからチェックをしていた。
「ということは制御室はもういいな。そしたら――」
すると誰かがドッグの中へと入ってくる光景が見えてきたヒュウガ。
「あのー、リリアさんが治療中ということなので船についてお伝えしないとと思うのですがどなたに――」
それに対してヒュウガが船から出てきて言った。
「船のことだったら俺が請け合う。何か問題でも?」
そいつはドッグの外へと促した。そこでヒュウガが見た光景は――
「なんだこれは!? えっ、全部生ごみ!?」
相手は頷いた。
「リリアさんがフード・ロスはダメって言っていたのですが、
それでもきゅうりのヘタとか野菜の皮とか腐った食べ物とか、どうしても出てしまうものは出てしまうんです。
リリアさんはそういうのは一手に引き取ってそちらの機械に――」
ヒュウガは言われたほうを見るとそこにはまた別の機械が――
「考えたなリリアリス――」
ヒュウガは感心していた。
「ナニナニ? どうしたの?」
ユーシェリアはそう言いつつティレックスとともにやってくるとヒュウガが説明した。
「生ごみをこの機械にかけて燃料ブロックにしているみたいだな。
で、あの船はこの燃料ブロックで動いている。
つまり、よく食う女は自前の船にもたらふく飯を食わせているってわけだ」
それに対してその場にいたものは全員笑い倒していた。
「リリアさん、今の聞いてたら怒るだろうな」
ティレックスはそう言いながらも笑っているとユーシェリアが言った。
「そんなことないよ、お姉様だったら自分でそう言うと思うし!」
確かにあのリリアリスならそう言いかねない。だが――
「いや怒るだろうな、他人に言われた場合はな」
ヒュウガはそう言った。確かにそんな気が――いや待てよ、それは相手が男女の差によるところだな。
リリアリスら4人の女性陣はいまだに目が覚めない。
さらに、クラルンベルからデュロンド軍やティルア軍が撤退したという話も聞かない。
また、破壊兵器を載せていたロサピアーナ艦の件だがそれについても特に進展がなく、
もの自体は完全に消滅してしまったため仕方がないが、それによるロサピアーナ側のアクションも一切なかった。
さて、どうしたものだろうか、とにかく時間だけが過ぎていく。
「そういえばシェトランドがなぜ関係あるって?
セイバルとロサピアーナが技術提携を結んでいた、それだけでいいのか?」
クラウディアスのとある一室にてティレックスはそう言うと、端末をじっと眺め続けているヒュウガが答えた。
「シェトランドとしては同族に被害者を出したくないからな。
連中の動機としてはそれだけで十分なんだろう」
確かにシェトランドはセイバルからこれまでいろいろと痛い目にあっている、エレイアの件にルイゼシアの件も――
「イールなんか見ればわかるだろ? ああいうのがまさに典型的なシェトランド人そのものだ。
無論、その長もまさにシェトランド人そのもの、良くも悪くもわかりやすいのが連中の特徴だ。
逆にわかりにくいのがディスティアやローナ、あとはシャトみたいなのだな。
共通しているのがよその種族と関わっている時間が長い連中であることぐらい。
つまりプリズム族と同じで、外の世界をよく知る人物ほど俺らと価値観が似てくるようになるっていうわけだな」
そうだろうか、ティレックスは訊き返した。
「でもリオーンもワイズリアも、それにイールアーズだって外の世界をよく知るやつらじゃなかったっけ?
だってネーム持ちだろ? 暴君リオーンに雷虎ワイズリア、それから鬼人の剣イールアーズって――」
ヒュウガは答えた。
「それ以上は外の世界をいつ知ったのかということと、あとは性格だろうな。
イールみたいな石頭だといつまでも自分の常識だけにとらわれて生きるハメになる。
親があのリオーンだからな、石頭はまさに親譲りって感じだ」
確かに……歳を取った人ほど頑固な人が多い、イールアーズはもともと頑固な性格、そう考えると頷ける話だった。
「そういえばイールってまだあっちにいるんだけ?」
ティレックスはそう訊いた。
「シェトランド人がデュロンド軍に参加しているからな。
それにセイバルの件があるから、さしづめそっちの線でなんか行動しているんじゃないか?」
ヒュウガがそう言うとティレックスは心配そうに言った。
「うーん、いいんだろうかそれって。
だってロサピアーナから解放するための作戦だよな?
で、今はロサピアーナ軍からの防衛……なんだけど、連中の性格を考えるとどうもロサピアーナ軍に攻撃しに行くような気がして……」
そう言われるとヒュウガもそれを気にしていたようだった。
「そうなんだよな、早まったマネをしなければいいんだが。
国家間でそのあたりの話がどうなっているかが気になるところだ。
少なくとも話は出ていないっていうことはないと思うけど、どのぐらいまで話題になっているのかは不透明だ」
するとヒュウガははっと気が付き、話を続けた。
「そういえばなんでこんな話しているんだっけ?」
ティレックスは答えた。
「いや……ただその……この先どうなるのかが全然わからなくてな。
リリアさんたちもあんなだし、ティルア勢もシェトランド勢もまったく戻ってくる気配がない。
だから――」
「つまりはやることがなくて落ち着かないというわけか」
まさにその通りだったティレックス。
「俺もクラルンベルに残ればよかったかな――」
「残ったって返されるだけだぞ。
現にティルアとデュロンドの連中以外は現地を離れることにしたらしいしな。
アーシェイスなんかもエネアルドに戻っているって聞くぞ。
状況的に他所の勢力に関してはあくまで秘密裏にしか行動できない、
だからお前がいたところでやれることなんてないと思うぞ、もちろんこの俺もな」
自分がいても仕方がないってことか、ティレックスはそう思った。
さらにその後セラフィック・ランドにて、
セラフ・リスタート計画を継続していたシオラとオリエンネストがクラウディアスへと戻り、
リリアリスら4人が休んでいる部屋へと直行していた。
「リリアさん! アリエーラさん! フローラさんにフィリスさんまで――」
シオラは心配そうに4人がいるところへとすぐさま駆け寄っていた。
「リリアさん――」
オリエンネストは力なくそう言った。それに対してレミーネアが他に同席している者に対して言った。
「……私たちは退席したほうがよさそうね――」
エミーリアは頷くと他に同席していた面々も部屋から出て行った。
「お姉様たち、全然目を覚まさないね――」
部屋の外でエミーリアが言うとレミーネアが答えた。
「……リリア姉様が前に言っていたんだけど魔力が切れた場合は1か月寝込んでいたことがあるって言ってたよ。
まだ1~2週間ぐらいしかたっていないからもう少し休む必要があるのよ、きっと!」
レミーネアはそう言い切った……いや、自分に言い聞かせていたというべきだろう。
「以前にも経験しているんだね、リリアお姉様って。だったら大丈夫よねもちろん――」
「ええ、経験したことがあるんだったら、まあ……」
「お姉ちゃん……」
エミーリアとレミーネア、そしてカスミの3人は心配そうにしていた。
果たしてこの先どうなることやら。
割とあっさりと終わるのかと思いきやどうやらこの話はここで終わらないようで、
何やら嫌な予感しかしてこない――