話をすることはあまりなく、そろそろお開きにしようかというところまでさしかかった。
「そういうわけですので、イングスティアの件はよろしくお願いいたします。
無論、我が国が主導で動きますため、バックアップをお願いします」
「ええ、それなら心配には及ばないわ、すでにそのつもりで動いているからね。
それにしても――キラルディア国って優秀な人が多いのね、羨ましいわ。」
「いやいや、何をおっしゃいますか!
それこそ、クラウディアス様は優秀な人材を多く有していらっしゃるではないですか!
リリアリス様はもちろん、アリエーラ様にフロレンティーナ様、
あとは、シャナン様にオリエンネスト様、それから……あっ!
あとはアリエーラ様とフロレンティーナ様を忘れるわけにはまいりませんね!」
と、大総統補佐官が言った、いや、アリエーラ様とフロレンティーナ様2回言ったし。
まあ、美しくて麗しく、素敵な美女のアリエーラ様とフロレンティーナ様、
それから伝説の美女と名高き女神様であらせられるアリエーラ様とフロレンティーナ様だったら何度名前が挙がってもいいぐらいだから当然と言えば当然だが。
するとそこへ、大総統代行が言った。
「そこでなんですが、折り入ってお願いがございます」
なんだろう、リリアリスは訊いた。
「クラウディアス様に置かれましては、こちらの土地から遠いこともありまして、
いちいち渡るのは不便だなあ、と……
あっ、いえ、決してクラウディアス様の土地に行きたくないとか、そう言うことではございません!
要は、あまりに離れているということもありまして、
勉強のためにこちらで選出したメンバーをクラウディアスの地に置いておきたいというのが意図でございます。
無論、大使館を通じてお話したかったのですが、せっかくお見えになられるということで、直接お話をと思いまして――」
大使館があるのに、わざわざほかのメンバーをクラウディアス本国に置いときたいということか……リリアリスはそう思った。
でも、リリアリスはその裏の意図をすぐに見破った。
「狙いはセラフ・リスタート計画でしょ♪」
何故バレたし! キラルディアのメンバーは全員驚いていた。それについてはルルーナが秘書張りに端末を操作しながら答えた。
「なーるほど、これは……セラフ・リスタート計画の話が出たあたりからキラルディアさんのほうから何度もラブコールを送られていますね。
ですが、何度かそれを却下されている、何故か? サミットで毎度毎度ほかの国からクラウディアス様に任せておけばいいんだという話で終わってしまうから。
だからキラルディアさんがそうしたいっていう話も上がってこないし、そもそも話にも出ないからクラウディアスにもそれが伝わらない、と――」
リリアリスは頷いて言った。
「バレたというよりはカマをかけてみただけなんだけど、まさか本当にその通りとは――まあ、今一番ホットな話題でもあるしね。
ドリストン劣勢国としてもそうだし、何より今言ったようにクラウディアスから……いいえ、セ・ランドからも遠くて全然活躍できないから。
だからこそ、そこはうちもきちんと協力しますって態度を示さないことには連合国の一員としては示しがつかないと、
計画に参加したい理由としてはそのあたりが考えられそうね。」
まさにその通りだったようだ。すると、リリアリスは――
「いいのよ別に、セラフ・リスタート計画についてはセ・ランドの復旧はただの過程でしかないのよ。
つまり、真の目的は計画の内容通り、”回帰への道”の先へ行くこと。
私ら”ネームレス”の真相を――要するに、私ら個人個人の問題を解決したいだけのこと――
つまりは個人の都合によるところが大きいし、
何よりそこから脅威がもたらされているといってもやっぱり私ら”ネームレス”の世界の何かが悪さしているってわけだから、むしろ私たちが申し訳ないと思っているぐらい。
だから、自分たちの世界の住人の中で解決すべき問題と思ってやっていることだから、そんなに気にされなくたって大丈夫よ。」
するとヴェラルドが言った。
「いえ、あの――お言葉ですが、やはり頑張っている者がいるとするなれば、我々もやはり協力しないわけにはまいりません。
我々はクラウディアス連合国、いえ、エンブリアの民の一員です。
たとえ”ネームレス”様の世界の問題で脅威がもたらされているのだとしても、我々の世界が脅かされているということに変わりはありません!
他所の国からの侵略者がやってくるのと同じで、やはり我々も一丸となって対応しなければならないのと、
それに――その”ネームレス”様の世界というのがいかなるものなのか、確認したというのが本音でございます!」
ただの興味本位と言われればそれまで。だが――
「賢者キラルディアの悲願――弟子のドルクーガが引き継いでいるけど、確かにそれだけじゃあ彼らの悲願は達成できていないようね。
まあいいわ、そう言うことなら一緒に行きましょ。」
いいのか? クラフォードはそう言うとリリアリスは言った。
「何言ってんのよ、あんただって似たようなもんでしょ。
だいたい異世界に行けるっていうのならまさに夢物語そのもの、
純粋な興味として言えば行きたいに決まっているってのがサガってもんでしょ、私だったら2つ返事で行きたいって言うしね。
だから、そもそも論として別にそんなことをこちらで許可を出す権利もなければ拒否する権利もないんだしさ、
人には人の事情があるんだから、行きたいって言うんだったら行かせてあげればいいんじゃないの?」
ティレックスも追随した。
「エンブリアの人がそもそもその異世界の人由来であるんだったら俺も確認したいところだな。
別に今の生活がどう変わるとか、そう言うのは期待しているわけじゃないが、
建前上、国に貢献するっていうことならアルディアスの歴史を解明する旅に出ることはありだし、
それに、そこでとんでもない発見を――アルディアス民にとって有害な発見があるというのなら、俺はそれを排除することを覚悟のうえだ。
もちろん、本音はリリアさんの言うように、ただの興味本位だ」
リリアリスはニヤっとしていた。
「まあ、そう言うわけよ。
だから、行きたいんなら止めないわよ、ヴェラルド♪」
はっ? 何故、私? ヴェラルドは言った。
「あんた、行きたいって気持ちが顔に現れてる。」
そう言われるとヴェラルドは顔を真っ赤にしていた。
その様子にほかのメンバーは笑っていた。
「まあそんなわけだから遠慮はいらないわよ。
セラフ・リスタート計画自体は大変なものかもしれないけど、
それとは別に好きなように考えてもらえると嬉しいわね。」
来る者は拒まず、それがクラウディアスのスタンスである。