エンドレス・ロード ~セラフ・リスタート~

エンドレス・ロード 第1部 果てしなき旅への軌跡 第2章 創造主の試練

第40節 戦への兆し、新たなる幕開け

 数日後――
「じゃーん! 炎の剣フレイムティレント完成!」
 リリアリスは剣を構えながらそう言った。 見た目は炎そのものと言わんばかりの代物と、またしても飾り重視なデザインである。
「これに関しては現物がまったくわからないからね。 エンブリア創世記においても行方知れずみたいな感じだし、それっぽいものを作れば十分でしょ。」
 じゃなくて、それはそれっぽいのかどうかが問題なのだが。 だが後日、アリヴァールの石板は反応したようなので、とりあえず良しということになった。 どういうことだよ、石板の判定もガバガバだな。 だったら剣である必要もないかもしれないような――
「残るは風の槍だけだが、そろそろその心当たりとやらを吐いてもらおうか」
 それに対してリリアリスは悩んでいた。
「なんだ、どうした?」
 ガルヴィスがそう訊くとリリアリスは言った。
「みんなと話したほうがいいわよね?」
 確かにそれもそうか、ガルヴィスはそう言うがリリアリスとしてはガルヴィスと直接話がしたくなかっただけである。 ガルヴィス、嫌われ気味な件について。

 リリアリスたちは話をしていた。
「アガレウス軍? なんだかまた聞きなれない勢力の名前だな」
 ティレックスがそう言うとクラフォードが言った。
「アガレウス軍の前身はデランダル軍の勢力の一部で、デランダル軍は元はウォンター帝国の分裂勢力の一部でエダルニアに渡ったという。 エダルニアの地に落ち着いてエダルニア軍を名乗ることにしたのがデランダル軍で、 そいつらとも対立してエダルニアを出て行ったのがアガレウス軍というわけだ」
 分裂の分裂とか……とにかく面倒くさい連中だな、何人かはそう思った。 そしてクラフォードは話を戻した。
「で、そのアガレウス軍が”ブリーズチャート”を所有しているんじゃないかってことになったってわけだな? 何故だ?」
 リリアリスは答えた。
「アガレウス軍からの攻撃でイングスティアが壊滅状態ですって、ヴェラルドが言ってたわ――」
 まさかドリストン大陸がピンチということか!?

 会議室にヴェラルドが現れた。 彼はドリストン大陸にあるキラルディア国の特別執行官を名乗る存在、要するに同国の偉い人である。
「少し前からアガレウスのイングスティアへの攻撃が始まりまして、 イングスティアも臨戦態勢こそ整えるも、そこまで本気を出して相手をしようという感じではなかったようです。 ですがイングスティアの思惑は外れ、アガレウスの侵攻を許してしまうと見る見るうちにイングスティアは壊滅していったのです」
 プライマリー・ステートというほどの大きな国のため、たとえ侵攻されようとすぐに押し返すに決まっている――誰もがそう思っていた。 だが――
「気がかりなのはアガレウスが槍一つでイングスティアを押し込んでいる点でした。 あの槍の力を基点に攻められることでイングスティアはなすすべなく崩されていったのです。 かの大国イングスティアが崩壊することでドリストン大陸の勢力のバランスも崩壊し、 最悪、大陸内で大きな戦争が起こることでしょう」
 それに対してアリエーラが心配そうに言うとヴェラルドは元気よく言った。
「その心配には及びません。 キラルディアの民についてはユーラル大陸のマーディッシュ国に掛け合い、民をすべて非難させていただいております。 キラルディアの民はもともと移民ですのでこうなったときは強いです、その点については誇りに思います!」
 なんとも頼もしい国民性なことで。 とはいえ、となるとつまり、アガレウスがイングスティアに成り代わってドリストン大陸を蹂躙し始めるということになるわけか――
「心当たりがあったのならなんとかできたんじゃないのか?」
 ガルヴィスはリリアリスにそう訊くとリリアリスは答えた。
「私が聞いたのは”槍を持っている”ということとだけで、しかも連合国としての決定だけで既に方針は固まっていたわ。 確かに”ブリーズチャート”の可能性は考えていたけど、 流石に大国1つを落とすのに”槍”一本でっていうことはあり得ないと思っていたからね――」
 ヴェラルドは頷いた。
「それについてはクラウディアス連合内でも話題になったことです。 無論、結論はリリアさんをはじめ、多くの方が”槍”一本で国が倒れるとは到底考えられないということで、 話は一旦様子見ということでまとまったのです。 ですが、イングスティアが侵攻された後にこちらが調査した結果、まだ完全に調査できているわけではありませんが、 イングスティアは実は内部的に密かに崩壊が進んでおり、 少なくとも、そのせいで”槍”一本相手に耐えられなかったのではという感じでした」
 ………とにかく面倒くさいな、政治ってやつは。やせ我慢までするかよ、何人かはそう思った。
「昔の世界的協調路線を蹴った国だからな。 エンブリアをいい感じにしていこうって働きかけているのにクラウディアス連合はダメとかたったそれだけの理由で突っぱねたやつだから、 その報いだと思って諦めるしかないな――」
 クラフォードは腕を組み、ため息をつきつつそう言った。そしてシューテルが話をした。
「イングスティアの内部崩壊論か。それは長らく言われていたことだがやはりそれが真相だったということか。 それにやつらは歩み寄ろうともせん、だから我々としてもやつらを突っぱねることにしたのよ、いわば冷戦という状態だな。 元はロサピアーナが我々とは対立姿勢を宣言した結果、 それによってやつらはプライマリー・ステート同士で協調できてないのになにが世界的協調路線だとぬかしよったのが発端だった。 これはその事の顛末ということでそろそろツケを清算してもらうべき時が来たようだな」
 そもそもそういう民族性ということもありそうだが、どういうつもりだったのだろうか。