エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第5部 女神の輪舞曲 第8章 魔女の戯曲

第131節 出撃

 あれから数か月が経った。 やはりガリアスをこのまま野放しにしておくわけにはいかない、 そういった理由でクラウディアス連合軍側は決起したのである。
 ところが――
「おい、相手はいわゆる”超級ネームレス”なんだろ?  その割にはメンバーが……これでいいのか?」
 と、アーシェリスがリファリウスに訊いた。 それもそのはず、メンバーがリファリウスはともかく、 ほかにはティレックス、イールアーズ、アーシェリスとフェリオース、 そしてシャディアスと、”ネームレス”密度がやたらと薄い。
 それに対してリファリウスは得意げに言った。
「大丈夫、今回はかなり練りに練った作戦を考えている。 確かに”超級ネームレス”は私しかいないが、これはあえてだよ。 特に”超級ネームレス”同士で衝突するとなると、 最悪の場合島一つ消えかねないからね、それだけはなんとしても避けたい。」
 本当にそうなるかはともかく、やはりそれだけに”ネームレス”という存在は厄介ということである。
 ところで――”超級ネームレス”という言葉が出てきている。 というのも”ネームレス”によって症状の程度がまちまちであるため、便宜的な区分付けをしているのである。 基準にしているのは今回のガリアスの件で問題となった”強さ”だが、強さと記憶の具合は相関関係にあるようなので、 いずれにせよ、各”ネームレス”の深刻度合もわかるようになっているわけである。
「それに今回の作戦だけど、基本的にプリシラさんが仕切っているんだ。 だから実はこのメンバーについては彼女の指定でもあるんだ。 彼女が考えたこと以外のことをしたらそれだけで作戦のための邪魔となってしまう、 それで今回のメンバーはこれで行くことにするんだ。」
 ということはつまり、すでに作戦は展開されていて、これはそのための仕上げということか――メンバーは考えた。
「それにしてもずいぶんと偏ったメンバーだな、具体的に何とは言わないけど……」
 ティレックスがそう言うとアーシェリスは考えた。
「確かに。 最初に言ったように”ネームレス”は少ないし、イールと……あまりなじみのないシャディアスっていうのも気になるけど。 そういえば俺ら、そもそもプリシラさんとはあんまり面識ないな。 どーせお前のことだからいつもどーりなんだろうが」
 と、やはり女の人ということもあり、リファリウスにもんくありげな感じに言い放つと、 そのやり取りを見ながらティレックスは「いや、お前もそのいつもどーりの一員だよ」と思いながら頭を抱えていた。

 再びディスタード軍の船を使ってエダルニアへと出発することになった一行、ティレックスは何やら悩んでいた。
「どうしたんだ?」
 アーシェリスは訊いてきた。
「いや、なんか俺がずいぶん前に訊いた話だと、 そのプリシラさんって単に作戦を仕切っているってわけじゃあない気がするんだ」
 どういうことだ? アーシェリスが訊くとリファリウスが答えた。
「そう、プリシラさんはガリアスに取り入ったんだ、つまりはスパイだよ。 彼女きっての申し出だったから断るに断れなくてね。 私としてもそのあたりの作戦を考えてはいたのだけど……まさかそれを彼女がやるなんて言うとは――」
 マジか……アーシェリスはあっけにとられていた。
「なんか、案外大胆なんだな、プリシラさんって。どこかの誰かさんみたいだ――」
 ティレックスにそう言われたリファリウス、首をかしげていた。それはおそらくリリアリスのことだと思われる。
「でも、よくわからないのが、プリシラさんはあの武骨で排他的な感じのガリアスにどうやって取り入ったんだろう?  あいつのあの態度を見るなり、他人は信用しないし、ましてやあの時の俺らなんか見透かされていた気がするんだ。 それなのに何故?」
 リファリウスは答えた。
「確かにキミらは見透かされているのは間違いないだろうね。でも彼女はどうだろうか?」
 そう言われてみると彼女は――
「我々とは距離を置いていた。 距離があったからこそ、むしろありのままを話すことも可能だ。 それこそ彼女は連合国には属さないプリシェリアの名士という立場、しかも無国籍小隊だからね。 無論、クラウディアスには籍を移したとはいえ、それでもプリシェリアでの活動期間のほうがはるかに長い。」
 うーん、それだけでいいのだろうか。
「無論、キミらと一緒にいたことについても織り込み済みだよ。 ガリアス個人としてはやはり無国籍小隊プリシェリアの集団として見ていたのか、 それとも、たまたま同じ”ネームレス”同士で徒党を組んでいるだけで実際にはそれぞれを一個人として見ているのかもプリシラさん的にも図っていることだった。 そこでガリアスに取り入ったらどうだろうと考え、探り探り話を進めているところだった。 で、結果は御覧の通り、我々が出向いてガリアスを討伐するところまで話を持って行ったんだ、まさに彼女のなせる業という感じだよね!」
 なるほど、そう言われてみれば――確かにすごい気がする。
「さて、連合軍側のバックアップ体制はこれで完璧のようだし、あとは我々が事を起こすだけのようだね。」
 リファリウスは得意げに言った、すべてが完璧――
「ガリアスのやつ、何を隠しているんだ……?」
 最後にリファリウスはそう漏らしていた、えっ、どういうことだ?  でも、隠していると言えば確かに、 エダルニウスとしてはセ・ランド消滅事件で発生している異形の魔物を捕獲するという動きがみられた、あれはどういうことなんだろうか。