エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第4部 遠き日々 第7章 幻想

第104節 憧れの女性

 講義の内容は大盛況、いい感じで幕を下ろした。 しかし、彼女人気は絶えず、サインをもらいたがる人もいる始末、特に女性陣。 オリエンネストはもみくちゃにされないように、クラネシアのところまで避難した。
「すごいじゃないか、彼女に大接近したなんて!」
 クラネシアは嬉しそうに言うとオリエンネストは答えた。
「まさかああなるなんて。だけど、どうもあの人は僕の記憶にあるあの子に間違いなさそうです」
 しかしどうしようか、この後のアクションについて悩むオリエンネストだった。

 しかし、その後の接触にはこと困らず、簡単に会うことができた。
 まず、放課後にオリエンネストの担任の先生が彼を呼び、 クラネシアが呼んでることを言った。
 そしてクラネシアに訊くと、体育館裏に行けと言われた。 なんで体育館裏なのだろうかと思いつつも言われた通りそこへ行くと、そこにはなんとリリアリスが!
「やぁ♪ お元気?」
 リリアリスはオリエンネストの姿を確認するとにっこりと笑い、そう話しかけてきた。 オリエンネストはドキっとした――だって、よりによって体育館裏――
「いいからこっちに来なさいな。えっと、オリ君でいいんだよね?」
「ええ、はい、まあ――多分――」
 オリエンネストという名前はクラネシアがつけてくれた名前、だから本当の名前はわからないと言うと彼女は――
「うーん、”ネームレス”でも自分の名前まで闇に葬られている人か、最近、いるのよねぇ……」
 オリエンネストはこの時にその”ネームレス”というものを知った。 この世界にはリリアリスや”フェニックシアの孤児”に代表されるような境遇の人が存在しており、 オリエンネストやクラネシアの境遇もこれに当てはまるため、間違いなさそうだ。 しかし、オリエンネストは名前がわからずじまい、この点についてはイレギュラーなことだそうだが、 彼女がつい先日見つけた”ネームレス”とは共通することらしく、今後はそういう人ばかりが出てくるのかと危惧しているらしい。
「それでクラネシアって人が私とあなたが多分知り合いでないかって言ってたみたいなんだけど――」
 クラネシアはそんなことを話したのか、どこまで話したのかはともかく、 それでも、オリエンネストは前向きに答えた、”ネームレス”は以前の記憶がない、 あるいは曖昧、そういう特徴を聞いてから枷が外れたかのように話し始めたのである。
「リリアさんっていつもアリエーラさんといつも一緒にいて、 アリエーラさんに迫ってくる男たちを退けていた――僕の中にはそんな記憶があるんです。 それに何というか、さっきの講義にしてもそうですが僕が知っているリリアさんのイメージそのままなんです――」
 リリアリスは答えた。
「私のイメージったって――確かに男相手ときたら容赦しないよ。 そもそも私なんか案外変な女で通ってるキャラよ。それもあって男どもは大体私とは一定の距離を置いている感じね。 アリのことも知っているみたいだけど――あの子とは対象的にお転婆のじゃじゃ馬女と言われたこともあるし、 男勝りともいえるわね、そんな女だけどいいのかしら?」
「はい! だからなんでしょうか、みんなに頼られているお姉さんって感じだったハズです!  確かに変わった人だと思いますけれども、それでも僕は――」
 勢い良く返事したはずのオリエンネストだったが、なんて言おうか急に言葉に詰まっていた。 だが、リリアリスはそれを察しつつも得意げに訊いてきた。
「ふふっ、そこまで言ってくれるんだったらいいわ。それで、あなたはどうしたいの?」
 えっ、そう言われると――オリエンネストはなんて言おうか迷っていた、 目の前にいるのはまさに憧れの女の子だった子、だが相手はそれをどうとらえるかが全く把握できないし、 ”ネームレス”という都合、記憶も全くない様子、オリエンネスト自身もそうなのだが、 だけど、彼女と共に行くという選択肢はあり得るのだろうか――オリエンネストはどうするか悩んでいた。
 するとリリアリスは気さくに話した。
「私はクラウディアスって国にお世話になってるのよ。 既に知ってると思うけどアリだってそこにいるし、私のこともアリのことも知っているっていうのなら、 そこにいるのがいいんじゃない?」
 えっ、いいのだろうか、オリエンネストは改めて訊いた。
「いいんじゃない? 知り合いらしき人が近くにいた方が記憶を取り戻せる――っていう保証は一切ないけれども、 それでも、知らない人だらけよりも幾分かマシなんじゃない?」

 あの後2人はクラネシアの元へとやってきた。 クラネシアは召喚魔法秘術研究所の応接室にいた。
「おやおやお揃いで、その様子だと、お互いに話ができたみたいだね」
 リリアリスは訊いた。
「あんたが話に聞いていたクラネシアって人なのね。 訊くところによるとあんたも”ネームレス”みたいだけど、あんたはここに残るの?」
「まあね、ここは学術都市だから私としてはいろいろと調べ物ができて好都合だよ。 無論、そのクラウディアスというところも興味があるけれども――」
 クラネシアは話を続けた。
「このエンブリアにはセラフィック・ランドという地方があって、どういうわけか消滅していると聞いている。 セラフィック・ランドはエンブリア創世では切っても切り離せない神聖な土地らしいから、 それがなぜ消えているのか気になってね、そのついでにクラウディアスに行くこともあるかもしれないけれども、 まだこの都市の資料を調べつくしていないから、少し時間がかかりそうだ」
 ふーん、リリアリスはそう言うとオリエンネストが言った。
「僕はクラウディアスに行きます、僕はどうして”ネームレス”なのかそれを確かめたいと思います!」
 クラネシアは頷いた。
「うん、キミはその方がいいね。 そして、自分の記憶が取り戻せればいいね、 無論、”ネームレス”の謎が解けたら私の記憶も取り戻せるかもしれない、 それを期待していることにしよう」
 それに対してリリアリスは何故か眉をひそめていた。

 そういうことで話は決着した。 リリアリスは用事があるからと言って一旦去ると、後で落ち合おうと約束した、どうやらルーティスのナミス市長に用事があったようだ。 一方のアシスタントのスレアは、リリアリスが用事があるからというので先に定期連絡船に乗ってクラウディアスへと戻っていたらしい。
 そして2人は待ち合わせ場所に行くと、2人は港に向かい、そのままクラウディアスへ向かった。 彼女は自慢の改造クルーザー船”マダム・ダルジャン”を巧みに操り、クラウディアスへ向けて出港した。
 そこで、オリエンネストはリリアリスのクラネシアに対するリアクションについて訊くと、彼女は答えた。
「あのクラネシアってやつ、なーんか不穏な空気を醸し出しているわね。」
 不穏な空気? なんか怪しいのかな? 彼女に訊ねた。
「少なくとも悪いやつではないのは確かね。でもなーんていうか――寒気がするのよ。 言ってもほかの”ネームレス”にも似たようなやつがいるから別に変ったことでもない気がするんだけどさ――」
 ど、どういうことだろうか? するとリリアリスは話題を変えてきた。
「そんなことはどうでもいいわね。 それよりあなた、私とアリのことを知っているみたいだから訊くけど、プリシラって子覚えている?」
 プリシラといえば――リリアリスとアリエーラ――最初は2人組だったが、 それがいつしか3人組になっていて中学生になると4人組になっていた、その4人目がプリシラだった、 オリエンネストはそれを思い出したのである。
「へえ、あなたって結構私らのことを知っているのね、 まるで学生時代からの知人とかそういうレベルの関係なのかしら、面白いわね。」
 いや、知っていると言われても、それが本当なのかどうか――オリエンネストは悩んでいた。 リリアリスはさらに続けざまに訊いてきた。
「ちなみにフィリスって子、覚えている?」
 フィリスは――そういう人がいたかどうかはさっぱりだった、 少なくともオリエンネストは知り合ったことはない気がした。
「うーん、そうなのね、中学生になると4人だったってあなたも言ったけど、 その中に彼女は含まれているわけではないみたいね。だったら――あれは誰だったのかしら……?」
 言われてみれば彼女らは4人組だったことをオリエンネストは改めて思い出していた。 でも、もう1人は誰だったっけ、オリエンネストは再び考えていた。
「性格は――それこそリリアさんみたくお転婆――というよりはちょっときつい感じだったかな?」
 それに対してリリアリスは頷いた。
「そのフィリスに会った時の印象なんだけど、 まさに彼女のイメージがしっくりくるのよね、なんか不思議。」
 オリエンネストは出し抜けに言った。
「思い出した! そういえばその子は”燃えるような赤い髪”が特徴的だった!」
 えっ、燃えるような赤い髪――ここへきてまさかその特徴を聞かされることになるとは―― リリアリスは操縦を自動運転に切り替えるとそのままリビングへと赴き、ソファへと座り込むと泣き崩れていた。
「ご、ごめん――僕、今何か酷いことを言った?」
 オリエンネストは慌てながらそう言うとリリアリスは優しく言った。
「ううん、なんでもない、ちょっと涙が出ただけ。」
 だが、その悲しみ様は尋常じゃないほどの悲しみで、ボロボロと泣き崩れていた。 もしだったら話をしてくれないだろうか、そうしたらすっきりするんじゃあなかろうか、オリエンネストはそう促した。
 するとリリアリスは話し始めた、悲しみに耐えきれなかったのだろう。

 リリアリスの話を聞いたオリエンネスト、話の中にはリリアリスはおらず、 代わりに彼女とシンクロしているらしいリファリウスという男がいた。 それについてはともかく、オリエンネストは難しい顔をしながら話をし始めた。
「そっか、リセリネアさんが――」
 リリアリスは涙を拭いていた。するとオリエンネストはリリアリスの意表を突いたことを言った。
「ん、でも、リセリネアさんって名前もどこかで訊いたことがある気がするな――」
 それにはリリアリスは驚いていた、どういうことだろうか、オリエンネストに訊いた。 するとオリエンネスト――
「思い出した! 燃えるような赤い髪、そのフィリスさんみたいな人の妹の名前がリセリネアさんだったハズだ!」
 それを言われたリリアリス、そういえば以前にもそれっぽい話題があったが、 まさか本当に血縁者の可能性に言及されるとは――悲しみを通り越して驚きのほうが勝っていた。