エンドレス・ロード ~ティル・ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド~

悠かなる旅路・精霊の舞 第3部 黄昏の入り江 第5章 もう一つの軌跡

第72節 物騒な男と赤髪の女

 セラフィック・ランドはスクエアの都、リファリウスはガルヴィスと遭遇してしまった。 その時は訳があって一部のメンバーと共に現地で待ち合わせを予定していたのだけれども、 リファリウスは今回ばかりは運が良くなかったようである。
「やあ、また会ったね。悪いけど今忙しんだ。申し訳ないんだけどまた今度にしてくれると――いいんだけど……ダメ?」
 その時のリファリウスは両手に華状態であり、 右手にはクラウディアスのエミーリア女王陛下、一般民に扮してリファリウスの右脇にべったりとくっついていた。 一方で左手にはカスミという小さな女の子がリファリウスの左脇にべったりとくっついていた。 この状況のため、ガルヴィスの怒りをさらに助長させることとなったようである。
「黙れ! 今貴様をここで始末する!」
 怒りをあらわにして剣を取り出し、周囲が何事かと思うほどの様相のガルヴィス、 それに対してリファリウス、その様を見ながら半ば呆れ気味な態度、少し強めの口調で言った。
「……勝手にしな。だけどここはスクエアの町のど真ん中、フェニックシアという片田舎の町とは規模が違う。 こんな大都会のど真ん中でそんな物騒なものを振り回すだなんて危ないだろう?」
 とはいってもその場所は大通りとかではなく、少し外れた横道ではあった。 しかし、リファリウスの言ったことに対してガルヴィスの怒りがさらに増幅することになった。
「ならば街から今すぐ出ろ、この俺が今すぐ貴様を始末してやる!」
 それに対してリファリウスは再び強めの口調で言った。
「何度も言わせるな、私は今とてつもなく、非常に忙しい。 だから今回は諦めろと言っている、次に会ったら相手をしてやるよ。 そしたらその時は私を殺すなり、煮るなり焼くなりなんなりすればいいだろう。」
「ふざけるなっ!」
 ガルヴィスは本気でリファリウスを殺しにかかってきたが、リファリウスは両手の華を抱えたままなんとかかわした。
「ちょっとちょっと! 私はともかく、2人を巻き沿いにするとは酷いじゃないか。」
「黙れ! 死ね!」
「だから、それは無理な相談だと言っている、忙しいから死んでいる暇なんかどこにもないんだよ、 いい加減にしてもらえないだろうか。」
 と、リファリウスはガルヴィスの猛攻を避けながらそう言い返していた。 リファリウスとしてはいつも言っていることであるが、 こういう面倒なやつほど敵に回すとろくなことがないとよく言っている、 そしてこれがまさにその典型であった。 こういう面倒なやつ――というと、リファリウスこそがそれという意見も多々あるが、 それを差し置いてもこういう敵はあんまりである。
「仕方がない、やるしかないか――」
 リファリウスは右手で剣を抜こうとした、ところが――
「得物を抜いたな! だがもう遅い!」
 ガルヴィスはリファリウスが剣を抜こうとするその前に即座にリファリウスの間合いに急接近!  そのまま振りかぶってリファリウスに一太刀……浴びせる予定だったのだが――
「キミは本当に私を殺す気なのだろうか、それだけが未だによくわからないよ。 だから本当はこんなことをしても意味がないことを本当はわかっているんじゃないかな?」
 リファリウスの抜刀行為はフェイントで、左手の指から魔法剣を繰り出すと、 間合いに急接近してきたガルヴィスの顔面にクリーンヒットした。 ガルヴィスは思いっきり弾き飛ばされた。
「ぐあっ! くそっ、リファリウス!」
 ガルヴィスは受け身を取って何とか態勢を立て直しながら前に向きなおったが、 その場にはリファリウスら3人の姿はどこにも見当たらなかった。
「……くっ、逃げやがったかあの野郎、次こそは必ず――」

 もはや得物を介さずとも魔法剣を完成させてしまうリファリウスの能力だが、 ガルヴィスに運悪く出くわしてしまった場合はだいたい同じような手段を使っていた。 だからリファリウスは本当に自分を殺す気なのだろうか、こんなことをしても仕方がないことが分かっているんじゃないかと言ったのである。
 そして、最後は自らに霧を発生させて姿をくらます魔法”ミスト・スクリーン”を使い、その足で逃げ出すのである。
「今の人誰ですか? リファリウスお兄様のこと殺すとか言っていましたよ!?」
 エミーリアは心配そうにそう言った。
「物騒。今すぐ逮捕拘留監禁酌量余地皆無即死刑妥当」
 カスミはそう言った、いつもながら感情を押し殺したような感じの棒読みちゃんだけれども、 それにしてもまたすごい内容のセリフである。
「面倒ごとに巻き込んじゃったみたいでゴメンね2人とも。 あいつがガルヴィス=クラナオスだよ。」
 それに対してエミーリアは驚いた。
「あれがガルヴィスさん? なんだか怖い人――」
「ガルヴィス、”フェニックシアの孤児”、リファお兄様と同じ。でもあいついたらダメなやつ」
 すると、その場に待ち合わせをすることになっていた女性が一人その光景を見ていたようで、 心配というかドン引きというか驚き気味というか、 とにかくいろんな感情が入り混じった感じの態度で3人の背後から話しかけてきた。
「なるほど、あれがあんたと仲違いしているガルヴィスってやつか。 確かに、なんちゅー危ないやつだ。 あんまり関わり合いにならないほうがいいかもしれないね」
 その女性の話に気が付いたエミーリアとカスミの2人は驚き、すぐさまその女性のほうへと振り返った。
「関わりたくないのはもっともなんだけど、 残念ながら面倒は向こうからやってくるから避けようがないんだよねぇ――」
 リファリウスはガルヴィスから逃げてきた方向をじっと見つめながらそう言った。 そして態度を改め、その女性のほうへと向き直って言った。
「それにしてもわざわざ呼び出したようで悪いね、フィリス。」
 フィリスと呼ばれた女性は返事を返した。
「よっ、リファ、何はともあれ元気そうじゃん」
 フィリスの髪は金髪のセミロングだが、前髪は少し赤みがかったような色合いなのが特徴的だった。 すぐにでも覚えられそうな特徴だ。