そして同じく、夕暮れ時のこと、いつものテラスにて――
「ふう、とりあえず、これでおしまいね。」
リリアリスは端末をたたみながらそう言うと、アリエーラが優しく言った。
「リリアさん、お疲れ様です、お仕事終わりましたか?」
2人はそのまま話を続けた。
「まあね、本当はまだまだやるべきことがいっぱいあるんだけどさ。アリのほうはどう?」
「いえいえ、全然終わりそうにありません。もう少し、人手があると嬉しいのですが――」
「わっかる、そう思ってさ、実は相談があるんだけどさ――」
翌日、その相談について、当事者たちを集めて話は再開した。
「どうよ、おじ様。」
リリアリスがそう言うと、シャナンは答えた。
「ええ、まあ、いいのではないですか?
私としては入ってきたばかりの部下がいなくなってしまうのが少々心残りですが、
でも、それはそれで私はいいと思います!」
それに対し、リリアリスは言い返した。
「いなくはならないわよ、ただ新しい人が入るだけ。
いずれにしても手練れなのは変わんないし、彼自身が手持ち無沙汰になっているわけなんだから、
ここでその腕を利用してもらうというのが一番なんじゃないの?」
それ自身はシャナンも考えていた、彼自身が手持ち無沙汰だからというのは別にして、人材としてはちょうどよかった。
「それにしても人事異動とは急ですね、ということは――」
「任命式についてはエミーリアとレミーネアにも話をつけているから準備はオッケーよ。
つまりはあとは実行するだけってこと、それだけなわけよ。」
それに対しフィリスが話をした。
「私からしてみると、そんなに簡単にクラウディアスの重鎮になってもいいのかなって感じがするんだけど――」
「大丈夫ですよ、私でもなれたのですから、フィリスさんだってうまくやれますよ!」
アリエーラがそう言うと、フィリスは言い返した。
「いや、でもさ、私は結構あちこちに――”ネームレス”ってやつの謎を知りたいからたまに出かけたいんだけど――」
リリアリスは答えた。
「それでも全然大丈夫。私だって似たようなものだしさ。
”ネームレス”ってことはこのまま見過ごしておくわけにもいかないでしょ?
だったら別に、それはそれでいいじゃない?」
そう言われると――フィリスは考え直した。
「まあいいわ、そういうことなら引き受けてもいい。
それにリリアとアリと一緒なら楽しいし、私の力が必要だというのなら喜んで手伝うよ」
そして翌日、謁見の間にて、任命式が行われていた。
対象者は一人一人、エミーリア女王陛下より役職を賜ったのである。
フラウディアとフロレンティーナはクラウディアス王室特務隊員として、
王室特務隊長であるシャナンのもとにこれまで従事してきた。
しかし、彼女らはその任を解かれ、新たな職へと就くことになった。
まずはフラウディア、騎士副団長のスレアと同じく副団長のナンバーツーとしての地位についた。
ここの副団長と言えばスレアのように独自に動けるような任務が得意ということもあり、
同じような立場の人間を増やしたかったという目論見があった。
もちろん、恋仲である彼と一緒ということなら彼女としても願ってもないことだが、
だからといってそれはどうなのかフラウディアに言われてしまった。
しかしリリアリスは「えぇ? なんだってー? あーあー聞こえなーい何も知らなーい。」と言って誤魔化していた。
それにそう言って誤魔化していたのは彼女だけではなく、アリエーラらなども――
「え? あっ、すみません、ちょっと予定が――」
そんな感じで我関せずを貫いていた。なお、2人の関係については男性陣などには内緒である。
たとえイチャイチャしていたとしても気のせいで済まされているようだ。
そしてフロレンティーナだが、リリアリスが試験的に優秀な美人秘書として採用していた裏がこの異動である。
そう、彼女は多忙なリリアリスの秘書……ではなく、
彼女もまたクラウディアス特別執行官としての地位に就くことになったのである。
最初こそ困惑していたフロレンティーナだったが結局リリアリスに説得され、任務に就くこととなった。
だが、それでもやっていることはまさに美人秘書としての役割……
まあ、彼女としては上位にリリアリスという女がいることもあってか最もしっくりとくるポジションだったようなので、
なんだかんだで美人秘書を継続しているようだ。
そして、レイビスである。
彼はもはや彷徨い人で、今後はハンター業でも頑張ろうかと考えていたところである。
だが、今後はシャナンの下で、つまりは王室特務隊員として従事することとなった。
根無し草の彼にしてみれば少々窮屈かもしれないが、それほど悪い話でもなかった。
さらにデュシアにもクラウディアス王国のとして役職を付与されることとなった。
元々ハンターである彼女だが、先の戦争でハンターに出された指令はレイビスら同様にユーラルでの本土軍殲滅の任務である。
その際、彼女自身がクラウディアスとの橋渡し役となったことで、つまりはその際の功績として、勲章を授与されるに至ったのである。
そして、今後は彼女自身がクラウディアス側にもっと歩み寄ることを考え、それによって役職が付与されるに至ったのである。
その名はクラウディアス民間委託顧問・ハンター部門であり、
主な役割は、クラウディアス側とハンター側との役割の差分調整役、
クラウディアス内、またはクラウディアスがクライアントの場合の任務において、
非常に強い権限を持っている役割でもある。
特に、民間と政治的なところとの調整役ということでもあり、なかなか重要な存在ともいえる。
そういうこともあり、何気に各国が真似しようとし始めている取り組みでもある。
ハンターズ・ギルドの動きとして、今後はハンター・ライセンスの付与と共に非常に重要な要素となるであろう。
最後にフェラルである。
故ディスタード王国は残念ながら復興の目途は立たず。
無論、別の王に仕える気もなかった彼女だが、
リリアリスとフラウディアの呼びかけによって彼女は再びこの地へとやってきた。
やはり、あの戦争のことで思うこともあったのだろうか、再び剣を取り、
クラウディアス騎士団最高顧問としての役目を果たすこととなった。
要するに騎士のOGとしての役割であり、彼女に剣術指南などを任せることとなったのである。
もちろん、礼節も――翌日から騎士団長ラシルの悲鳴が上がったことについては言うまでもなく、
逆に孫と将来はその旦那となるであろう男に対してはとても甘かった。