ウォンター帝国、その当時は各地を支配していた巨大帝国で、ルーティスよりもさらにはるか南に位置している国であった。
しかし、国内の内部闘争が続き、中には勢力が分裂していくところもあった。
シェトランド人のオウルの里や、現ディスタード帝国の本土軍が拠点化している町は元々はその帝国の所有地だった場所で、
ウォンター帝国の解体によりそれらの拠点もウォンター帝国軍が撤退していったのである。
そして、ヘラッセルは解体したウォンター帝国の一部の者によって支配された国だった、
それこそ、ちょうどリオメイラのように、内部にウォンターの残党によって支配されている状況が続く国なのだという。
「ヘラッセルには宰相ゲトラウズってのがいてだな、こいつがかなりのクセモノだ。
元々はウォンター帝国の影の支配者って言われてたやつでが、ウォンター帝国の内部分裂を機に乗じて独立してできたのがヘラッセルだ。
で、その野郎はあろうことか、グレート・グランドに喧嘩を吹っかけてきた、
やつの狙いはここを支配し、そしてルシルメアやクラウディアスを手中に収めることだったらしいな」
グレート・グランドからルシルメア、そして、クラウディアスを!?
何人かは驚いていたが、ナキルはその話に付け足していった。
「グレート・グランドに宣戦布告ということで、
つまりはその国の軍隊としての顔もあるティルア自衛団――当時は自警団だけれども、ヘラッセルに対抗することとなった。
要するにバフィンス氏の出番というわけだ。
無論、そういう状況だから、ウォンター帝国に対して常日頃から危険を感じていたルーティスとしても見過ごしておくわけにもいかず、
その当時のルーティス市長の命を受けて私らがルーティスに召集され、グレート・グランド軍と戦うことになったのだよ」
さらにバフィンスが話を続けた。
「一度は敗戦し、諦めたと思われたヘラッセルなんだが、
あの手この手でなんとか体勢を立て直してきたらしく、グレート・グランドに再度喧嘩を吹っかけてきやがった。
まあ、そん時もなんとか俺がやつらを潰したんだけどな。
で、そん時は流石にヘラッセルもやりすぎなもんで、
そん時のヘラッセルの司令官でもあった宰相ゲトラウズはクラウディアス、
セ・ランド、グレート・グランドとアルディアスの提唱する国際法……
今となったら旧国際法ってやつなんだが、それに則ってA級戦犯に認定、
敗戦の折にやつは捕えられるとすぐさま処刑された」
しかし、それでもヘラッセルは諦めていなかった。
グレート・グランドは難しいということがわかると、今度は他所に目を向けることとなった。
セラフィック・ランドやルーティスは流石に厳しく、崩せそうな感じではない。
そこで次に狙いをつけたのが、まさか……ティレックスはこの流れからして恐らく――そう驚いていると、バフィンスは答えた。
「そうだ、アルディアスだ。
無論、アルディアスもそう簡単に行くわけがないことは連中もわかっている、
アルディアスにはライナスとレンティスが指揮してる最強の軍隊ルダトーラ・トルーパーズがいるからな。
だから連中は攻め方を変えたわけだ、当時はアルディアスと親交があったリベルニアを襲撃し、
アルディアスの弱みに付け込むっていう作戦でな!」
そう言われてティレックスははっとした、歴史で習ったその戦い、
リベルニアがアルディアスをかつて襲ってきたのはそういうことがあったからなのか、と。
「しかし、アルディアスとリベルニアの戦いではアルディアス軍が勝利を収めています、
ヘラッセルの目論見は失敗に終わったということに見えますが――」
ナミスがそう言うとバフィンスは返事をした。
「まあ、そういうこったな。
だが、それはヘラッセルに大打撃を与えられたわけじゃねえから、
トカゲの尻尾切りにあったってのがいいところだろうよ、結局そのまま一部隊だけ置き去りにして逃げちまったんだからな。
んでもって、そのままヘラッセルはなーんも動きが見えねえもんだから、
俺もライナスも、そして当時のクラウディアス王リアスティンもセ・ランドも終わったと思って安心していたってわけだ」
しかし――ヘラッセルは、まだ諦めたわけではなかった。
「もう少し、早く気が付くべきだったな。
言われてみれば確かに、今回のディスタード本土軍の手口、あんときのゲトラウズの作戦によーく似てるぜ」
バフィンスはそう言うがどういうことだろうか、だが、ナキルはその話に追随した。
「ええ、早めに気にしておくべきでした、
確かに、当時のヘラッセルとの戦いで最も苦戦したのは故ウォンター帝国領にゲトラウズの息がかかった勢力がいたことで、
その勢力を退けるのに面倒したことです。
あれのせいで様々な国が巻き込まれ、大きな戦いへと発展していきました、
今回のはまさにそれを彷彿させるような状況ですね――」
昔の世界大戦の発端については歴史を習っている者であれば大体知っている、
旧連合軍とウォンター帝国の残党による激しい争いだと言われているが、
実際にはそのようなことがあったのかとティレックスを含め何人かはそれを思い知らされていた。
確かに、今のこの状況はそれとかなり似ているような気がするが――
「ですが、その当時はそのゲトラウズの息がかかった勢力が故ウォンターにいたからですよね?
今回はどうしてディスタード本土軍にヘラッセルが加勢するということになったのでしょうか?
当時の再現であれば本土軍の息がかかった勢力がヘラッセルにいることに――」
レイリアはそう言うと、レイリアを含めて何人かの頭の中に電流が走った!
「まさか!」
レイリアは驚きながらそう言うと、バフィンスは答えた。
「察しのいいネエチャンだな、そう、その通り。
ゲトラウズには一人とんでもねえドラ息子がいてな、名前はゲティナス、
そろいもそろって似たような性格をしていて、言われてみれば確かに顔もそっくりだ。
しかし、あれがまさかああなるとは流石に思ってもみなかったぜ。だから……気づくのが遅すぎたな――」
名前はゲティナス――今は別の名を名乗ってはいるが、
当時そう名乗っていた名前の名残はあった――ベイダ・ゲナ、そう、
派手好きでオカマ将軍とも呼ばれているディスタード本土軍の将、
その見た目からはかつての帝国の宰相と呼ばれる存在の血縁者を匂わせる要素はまったく感じられない、まさに盲点であった。
「つまりはそういうことですね、ベイダ・ゲナはディスタード王国に取り入って内乱を起こし、
ディスタード王国を滅ぼした……一族の悲願であるクラウディアスを攻め落とすために――」
ナキルはそう言って話をまとめていた、それに対し、何人かは頭を悩ませていた。