その後、今度はシェルシェルとララーナの2人がクラウディアスへとやってきた。
「ここはとても美しい国ですね、私も心底気に入ってしまいました」
ララーナはそう言った。
彼女らはリリアリスに連れられてお城の5階を目指していた。
「それにしても――昨今のディスタード軍との戦争、私らももっと参加すればよかったですね、
このような国を守るというのなら喜んで参戦しましたのに――」
と、ララーナは言うとリリアリスは答えた。
「お母様にはルシルメアを守ってもらえれば満足よ。
あそこはクラウディアスとの関係も深い国で、
ディスタード本土軍としても世界全土を攻めるための拠点としては是非ともほしい場所のひとつ、
だから、その近くにいるお母様が目を光らせている限り、ディスタード本土軍は世界制服することは困難よ。」
リリアリスが得意げに言った。
何気にプリズム族の里・ラブリズの配置はディスタード帝国軍にとっては厄介な存在である。
不用意に侵入すればたちまち彼女のらの餌食となる、ルシルメアは間接的に彼女らに守られているのだそうだ。
「ふふっ、私らの存在は責任重大なのですね、
とはいえ、こちらとしては種族繁栄のことしか考えていませんから、
そんなに重荷を抱えているわけではありませんけどね」
リリアリスは訊いた。
「だけど、ディスタード本土軍はずいぶんと疲弊している様子、
だから、これ以上攻めてくるようには思えないんだけれども、それで大丈夫?」
ララーナは答えた。
「いえいえ、今までが少なかっただけで、今回の収穫はこれまでをはるかに凌駕する量でしたので、
向こう10年は持つことでしょう、場合によっては20年、30年……ですので、十分すぎるほどですわ――」
たまたまその話を遠くから聞いていたヒュウガが愚痴っていた。
「今のは農作物じゃなくて、あくまでエモノってやつ(=男)の話だよな……」
そして、リリアリスらはいつものテラスへとたどり着いた。
「ここがいつもあなたたちがくつろいでいる場所なのですね、とても素敵な場所ですね!」
ララーナはそう言うとリリアリスはベンチへと促した。
リリアリスは傍らにある花壇のほうへと行った。
「どんな花が咲くのかしら?」
ララーナはそう聞くとリリアリスが言った。
「いろいろよ、花同士の相性を気にしながらいろんな花を植えることにしたの。
一番早いので1~2か月で立派な花が咲く子が出てくるハズだから楽しみにしててほしいわね。」
ララーナは楽しそうに答えた。
「あら、じゃあその頃になったらまたここに来なくてはなりませんね」
リリアリスは隅の方に置いてあったレンガブロックを次々と置いていった。
「思いのほかレンガを焼くのって大変ね。作ること自体は簡単だけど、力仕事となるとちょっとね――」
リリアリスは汗をぬぐっていた。
さらにその後ろからラシルとスレア、そしてレイビスたち男性陣も腕いっぱいにレンガを持ってやってきた。
「ふう、こんな重たいものを5階まで運んでくるのは大変ですよ――」
「まあ、ラシルは将来――それは後にしようか。でも、このぐらいの作業だったらお安い御用だ」
「ああ、軽いトレーニングにもなる」
だが、力仕事が苦手な理系男性陣は――
「ったく、こんなことするためにクラウディアスにいるんじゃないっての」
と、ヒュウガは愚痴っていた。
「あれ? ヒー様、ラトラとレミーネアは?」
リリアリスはそう訊くとヒュウガは答えた。
「ラトラが途中でへばってたからな、レミーはその御守りしてる」
「なーるほど、ラトラってイメージ通りずくないのね」
リリアリスは得意げにそう言った。ララーナは訊いた。
「もしかして、もっと花壇を増やす予定なの?」
シェルシェルが興奮しながら答えた。
「そうなんですよお母様! リリ姉様、確か、”シークレット・ガーデン計画”でしたっけ?」
ララーナはすぐさま反応した。
「シークレット・ガーデン! なんだかとっても楽しみね!」
「みんなを不思議の魔法にかけてあげるから楽しみにしてなさいな。」
リリアリスはやはり得意げにそう言った。
シークレット・ガーデン計画はともかく、ララーナがそこに来た目的はもうひとつあった、それは――
「それにしても、わざわざ呼び出してしまったようで悪かったわね、お母様。」
リリアリスはそう言うとララーナは首を振って嬉しそうに答えた。
「そんなことないです、たまには外の世界で刺激を受けないと何も楽しくありませんよ。
だからむしろ、こうして招待してもらえて嬉しいぐらいですよ」
彼女は改まった。
「ところで、フロレンティーナさんはどちらに?」
すると、レンガを運んでいたフロレンティーナはララーナの目の前に現れた。
「あら、あなたが――以前お見かけした時とはまただいぶ印象が変わられましたね!」
フロレンティーナは少し照れていた。ララーナは話を続けた。
「しかしどうしてでしょうか、以前はあまり感じなかったのですが、
今は――なんだかとっても懐かしいような感じがします――」
懐かしいって? 自分が? フロレンティーナは訊き返した。
「なんていうか、あなたからはどういうわけか、私たちと同じようなものを感じます、
そう、なんというか、すごく安心するような、それでいてとても懐かしいような感じが――」
そう言われるとアリエーラも賛同していた。
「やはりララーナ様もそう思いますか?」
「ええ、とっても! まるで私たちの仲間のようですね!」
自分は魔族由来の妖魔ラミア族、そんなことがあるのだろうか、フロレンティーナはそう感じていた。
確かに、魔族由来の妖魔ラミア族ではあるが、自分は純粋なラミアでなく元はディストラード人だった、
前にも似たような話をしたが、
ラミア族とディスタード人では精霊族由来の妖魔プリズム族と同じような存在という要素がどこにも見当たらないのである。
するとララーナは一つの案を提示した。
「ではこうしましょう。
あなたのためにラブリズ里の”しろゆめの泉”である”ラブリズの聖地”を解放します。
どうぞ、聖地をお好きにお使いください――」
それにはシェルシェルが驚いた。
「お母様――いえ、長、そんなことしてもいいのですか!?
他所の種族に、ましてやラミア族に聖地を使わせるというのはみんなが反対するのでは!?」
ララーナは言った。
「彼女は純粋なラミア族ではありません。
それから、私たちと同じようなものを持っています、
ラミア族のもつそれだけでなく、プリズム族特有のそれも持ち合わせています。
ですから、そういうことであれば同族として、彼女に提供しないという選択肢はありません。
フロレンティーナさん、もしその気がおありでしたら是非、再びラブリズにいらしてくださいね」
ララーナは優しそうな顔でそう言うと、フロレンティーナは前向きに答えた。
「はい! その時は是非ともよろしくお願いします、お母様!」
その様を見届けていたリリアリスとアリエーラは話し合っていた。
「まさかプリズム族の聖地を使わせてもらえることになるなんて――」
「ええ、ちょっと驚きですね、まさかとは思いましたが――」
「フローラからはまだまだ目が離せないってことね、まあ、どこまでも付き合いましょ。」
フロレンティーナの謎の解明はまだ始まったばかりだった。